2008年02月14日

使える心理テクニック

学生の頃から本は結構好きでした。
本を多く読むようになったのは就職してからです。

会社の研究所が山口県にあったのですが、
その頃から本を読む量が増えたんです。
週末は必ず本屋に行っていましたし、
お盆休みや正月休みなどで東京に帰ってくると本を買いだめしていました。

最近では専門的な本を読むほうが多くなってきたかもしれませんが
ビジネス書や実用書も楽しみながら読んでいます。

ただ、最近は心理系の読み物から随分と離れたように感じます。
以前は本当によく読んでいたんですが、たまに読むと楽しいですね。


で、僕が学生の頃、心理系の読み物の中で頻繁に目にして
印象に残っているものがあります。
いわゆる心理テクニックですね。

それは、
フット・イン・ザ・ドア・テクニック、
ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック、
ローボール・テクニック
の3つです。

多くの本でセットになって出てきていたんでしょうね。
インパクトもあったんでしょう。
分かりやすいですし、納得できる部分も多かったんだと思います。

これらの3つは頼みごとをするときのテクニックとして知られていますが、
どれも本当の要望を最初から頼まずに、段階的に頼んでいくという特徴があります。
有名ですよね。

こういったテクニックを書いてある本には、その根拠として
心理学の実験に関しても記載してあったんです。

この心理学の実験というのは判断が難しいですね。


そもそも日本では心理学は科学として扱われないわけです。

色々な理由があるのでしょうが、僕にとって気になるのは
実験結果の解釈に対する論理的妥当性と、実験そのもののやり方です。

科学の実験というのは再現性が重要視されます。
あらゆる論文に載っている実験結果は、同じ内容を別の研究者が実験しても
同様の結果が得られなければならないわけです。

そして、結論を導くために、実験のやり方と結果が論理的に正しくなければなりません。

結果だけを見て、自分に都合の良い結論を導くことはできないわけです。
実験の組み立て方が重要なんです。

実験では通常、条件の違いと結果の違いから結論を導きます。
1つの条件の違いが結果の違いと結びついたとき、
条件と結果の因果関係を考察することが可能なわけです。

複数の条件が違っている実験結果を比較して、結論は導けません。
どの条件が結果に結びついているかが分からないからです。

例えば、砂糖と塩を水に溶かす場合。

 水100mlに3gの氷砂糖1粒が溶けるのにかかる時間と
 同じ水100mlに同じ3gの顆粒状の食塩が溶けるのにかかる時間を比べる。

 撹拌や水の温度が一緒だとすると、氷砂糖のほうが溶けにくかったとしましょう。

 ここから「砂糖のほうが食塩よりも溶けにくい」という結論は出せないわけです。
 砂糖と食塩で表面積が違っているということがあるからです。

溶解度で言えば、砂糖のほうがずっと高いです。
砂糖のほうが量は溶けやすいわけです。

ただ、溶けるスピードとなると表面積や結晶構造の影響も出てくる。
せめて両方をすり潰して、ふるいにかけて、大きさを揃えるぐらいはして欲しいんです。

実験をする上では、比較したい部分以外の条件を揃えるのが必須なんです。


では心理学の実験ではどうか。

先ほど書いた『フット・イン・ザ・ドア』の場合。

「軽い頼みごとをして、一度受け入れた相手は、
 次の機会に大きな頼みごとをしても受け入れてもらいやすくなる」
というテクニックですね。

500円貸りた相手からは、1万円も借りやすくなる、というわけです。

本で読んだ話によると「フット・イン・ザ・ドア」の実験はこんな感じだったはずです。
(同様のがいくつかあるようですが、スティンプソンらの実験)

 女子大生たちに環境に関するアンケートを実施。
 それが終わると、関連の依頼として大学から数マイルのところへ
 木を植えるボランティアを頼む。
 
 すると、アンケートに回答したものは、そうでない場合よりも承諾率が高かった、と。
 
アンケートをせずに植樹のボランティアを依頼する場合と、
アンケートへ答えた後にボランティアを依頼する場合とで比較したのでしょう。

その結果は納得できます。
僕が同じことをされても、アンケートに答えた後のほうが
ボランティア依頼にも応じたい気持ちになると思います。

ポイントはその理由を考察する段階。

この実験から心理学では
「頼みごとをする際には、まず小さな頼みごとをしてから本題を依頼しましょう」
という結論が導かれるわけです。

そこが疑問。
理系からすると実験が不十分なわけです。
条件が揃っていない印象があります。

もちろん、人の心ですから、そもそも心理学の実験は様々な不確定要素を含みます。
だから統計だということなんでしょうが、
統計を取るにせよ条件は可能な限り合わせてもらいたいんです。

このフット・イン・ザ・ドアの実験では条件が合っていない部分があります。

例えば、調査員と被験者が実際にコミュニケーションをした時間。
つまり、アンケートに答えてもらうまでの会話や、
アンケート回答中に傍にいる時間があるわけです。
また、ともに1つの課題に取り組んでいるという一体感もあるでしょう。

アンケートに答えた人は、本当の頼みごとをされるまでの間に
調査員とコミュニケーションを取っているわけです。
その間に親近感や顔馴染みの印象が沸いたり、ラポールができたりしていると思われます。

一方、アンケート無しで本当の頼みごとをされる場合、
初対面でいきなりボランティア依頼をされます。

「頼みごとをしたか、していないか」という違いだけじゃないんです。
頼みごとをしたときには、自動的にコミュニケーションの量が増えているんです。

ということは「一度頼みごとを引き受けると」という理由ではなく
「ある程度コミュニケーションを取ると」という理由かもしれないわけです。

本当に頼みごとの影響を調査したいのであれば、
頼みごとを引き受けて、次の本当の依頼をするまでの時間と同じだけ
「普通に雑談をする」というような条件などと比較をすべきだと考えられます。

要するに、コミュニケーションの量という条件を揃え、
コミュニケーションの質の違いを実験対象に据えるべきだということです。

「ただ雑談する」と「小さな依頼をする」の違いなら多少はマシな実験だと思います。


とは言え、心理学の実験というのは人の心を扱うわけなので
非常に複雑な影響を受けることは避けられません。
影響因子を明確にできないんですね。

有名なフット・イン・ザ・ドアも実験的な説明としては
科学の目線からすると不十分な感じが残ってしまう気がします。

しかし、僕はこのテクニックは有効だと思います。
実験うんぬんの問題ではありません。

自分がフット・イン・ザ・ドア・テクニックで頼みごとをされたら
断りにくいと感じるだろう、と納得できるからです。

もし、これで営業が上手くいくなら素晴らしいわけです。
営業マンが実践してみて、自分の実感として使えると思えたらOKなんです。

色々な心理テクニックが本に載っています。
僕はそういうのも好きです。
面白いし、役立ちそうなものも沢山ありますし。

データで示されるよりも実感できるかどうかが、僕にとっては大事なんですね。


ちなみに、僕が本で読んで一番使えると思った心理テクニックはと言うと・・・。

フット・イン・ザ・ドアでもドア・イン・ザ・フェイスでもないんです。
むしろ、そういうテクニックで依頼をされたり、
弱みにつけ込まれたときに対応する効果的な方法。

 「アンケートに答えて頂いた方にお願いなんですが、
  ボランティアで木を植えるのを手伝ってもらえませんか?」

 「それとこれとは別です


『それとこれとは別』。
オススメです。

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この記事へのコメント

1. Posted by がっちゃん   2008年02月16日 01:10
『それとこれとは別です』目から鱗です。
なかなかこれほど効果的な返しはないですね。
読んでいて、使えるって実感しました。
ありがとうございます☆
2. Posted by 原田幸治   2008年02月19日 16:38
がっちゃんさん

知っていると強い言葉ですね。
個人的には、一度目をそらして
違う方向を向いたときに気持ちを切り替え、
それから一言を発すると楽なような気がします。



ところで、どうも僕はコメント機能を忘れてしまいます。
せっかくコメントを下さったのに
お返事をそのままにしてしまいまして
申し訳ありません。

これからはもっとチェックします。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
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