2008年05月14日

「クレイジー☆エンジニア」

リクナビがやっているTech総研というサイトがあります。
そこが編集した本に「我らクレイジー☆エンジニア主義」という本があるんです。

我らクレイジー☆エンジニア主義 (講談社BIZ)

「クレイジー」というフレーズをつけられている方々は
全員その世界では有名な超一流のエンジニア。

天才ゆえの風変わりな行動を捉えての言葉かもしれませんが
オリジナリティを追究しなければならない彼らにとっては
ある意味で誉め言葉にもなるものかもしれません。

内容も非常に興味深いところが多いのですが、
イイ話として捉えていくのは普通の読み方だと思いますので
これから気が向いたときに、心理的な側面から分析してみたいと考えています。

まずはMITの教授、"石井裕"氏。

この方は30代のMITの教授になり、テニュアを獲得されている
工学の世界ではとてつもなく凄い評価を受けている人です。

「テニュア」というのは終身在職権のことで、
アメリカの大学では教授であっても数年で契約が切れてしまうため
1つの大学に籍を置き続けるためには大変な審査に通らなければならないのです。

そしてテニュアを獲得していても業績は常に求められるそうです。
常に新しいことへ挑戦する。

これは最先端にいるものの努めなのかもしれません。


僕はこの「新しいこと」というのが今になって興味深いんです。
研究をしていた当時、実はそれほど興味が無かったこと。

僕の関心は新しさよりも、全体を知ることに向いていました。
新しいことよりも根源を知ろうとするような。

実は、その過程には必ず未知の領域があるので
自動的に新しいことをやらなければならないわけなんですね。

「新しい」とは「今までに無い」ということですから
「新しいこと」をするためには「今までのこと」を知らないとできないんです。

研究者の中には「他人の論文は読まない」というような人もいるようですが、
世の中に何があるか、これまでに何が分かっているのかを知らないと
自分がやろうとしていることが新しいことなのかどうかを知るすべも無いわけです。

そして、新しいことを生み出す上で重要なことがあります。

それは視点の高さです。

「新しいこと」というのは概念的なものであって、
実際に世の中にあるものではないわけです。
エンジニアとは、まさにそれを世の中にある形にしていく仕事でしょう。

概念としては誰にでも想像がつくけれども世の中に無いものを生み出す。
これも「新しいこと」です。
しかしもっと斬新なのは、誰も考えたことのない「新しい」概念を生み出すことです。

前者は『発明』で、後者は『発見』と言ってもいいかもしれません。

発見とは大きな気づきであって、ヒラメキと関係することのように思います。

それがどういった経緯で起きるかと言えば、そこには複数の情報が必要になります。
複数の情報から本質的な意味合いを見出す能力が人間には備わっているんです。

もちろん、程度問題はあります。
抽象的な意味を感じ取り、実感できる能力。
いわゆる頭の良さかもしれませんが、それも意識の仕方でトレーニングできるものです。

多くの人は関連性の近いものであれば、意味を見出しやすいわけです。
一見すると全く関係しそうにないものから本質に気づけたとき、
「新しい」概念と、それを埋めるために必要な要素が見えてきます。


石井氏は学生時代から宮沢賢治が好きだったそうです。
ある日、その肉筆原稿を見る機会があって、その時に大きな衝撃を受けたと言います。

 肉筆原稿には活字には無い『プロセス』があふれていた。
 修正し、インクがこすれ、汚れた原稿からは、著者の苦悩のプロセスが見えた、と。

まずはこの感受性だけでも凄いことですし、理系の学生でありながら
宮沢賢治が好きだという興味の広さも重要なポイントです。

その上で更に偉大な点は、その肉筆原稿を見たときの感動を
自分の研究分野と結びつけて、概念として作り上げたことだと感じます。

宮沢賢治から、「デジタルの世界は乾いている」という発想が生まれているんです。

この高い抽象度の概念を実感した石井氏は、そこからデジタルの世界に
「人間的なぬくもりや感動」をもたらす技術の開発に進み始めたそうです。

この部分が、新しい概念から見た『不足した要素』であって
「新しい」技術を生み出す原動力となる発想と言えます。


こうした「新しい」概念に気づくためには、前提となる情報も必要です。
その分野の専門知識もそうですし、全く関係のない情報もそうです。
石井氏が宮沢賢治を読んでいたような、幅広い情報収集が前提になります。

そして、視点を変える癖をつけておくことも鍵になるでしょう。

いつも自分の専門分野を狭い視野で見ていると、
出てくる発想も近いところに限られてきます。

宮沢賢治の肉筆原稿から自分の専門分野に結び付けられるような広い視野。
それは言い換えると視点の高さとも考えられます。
高い視点から広く見下ろす感覚です。

自分の専門分野の内容と、全く関係のない分野の内容を
関連付けるように理解する癖をつけておくと、視点を変えるトレーニングになります。

何度も書いていますが、対人援助職トレーナーの奥川幸子先生も視点が高い人です。

著書を読むと、仕事において感銘を受けた人物として
F1レーサーのアイルトン・セナの名前が挙がってきます。

F1と援助面接という一見すると全く違う仕事の中に共通点があると言うわけです。

これを感じ取れるように心がけると、視点を高くする癖がついてきます。


そして、視点を高くすることの重要性は石井氏も語るところです。

エンジニアも哲学を持っていなくてはならないと言います。
「なぜ」という発想。

「なぜ」という視点は本質的なところへ向かわせ、
その過程で必ず個人の価値観も引き出します。
さらに「なぜ」を繰り返すと、個人の価値観を超えてくるものです。

そうなったときに辿り着くのが、世の中への影響です。

世の中のために、という視点。
これは高い視点ですね。

MITの学生は皆、世の中のためにどのように役立つかということを考えると
とても目を輝かせるそうです。

社会への貢献を考えることで、高い視点を持たせることに繋がるわけです。
ともすると専門分野ばかりに目が行きがちな状況で、石井氏は
社会という広い視野を持たせ、視点を高くするように指導しているようです。

これも「新しい」成果を生み出すために有効な方法になっていそうに思います。


石井氏はこう語っています。
 MITを通して、社会からもらった力をお返ししていかないといけない。

この使命感です。
それは人並みはずれた努力をするはずです。

自分のためにやっていないわけですから。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
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