2008年06月20日

うわべの行為

ホスピタリティという言葉が知られるようになり、
インターネットビジネスの普及によってマーケティングの手法が一般化してくると、
顧客フォローと呼ばれるような事柄も、型として有名になっていくようです。


僕が会社にいながら色々なセミナーで勉強していた頃、
出会う人同士で集まるような機会にも自然と顔を出すようになっていました。

セミナーで仲良くなった人同士で開催した飲み会に誰かの友達が来たり、
逆にこちら側が友達として他の会合に呼ばれたり、
新しい出会いが数多くあったわけです。

そういう場所には異業種交流会が好きな人とか、
人脈作りを頑張っている人とか、
名刺交換をお願いされることもありました。

僕自身は、そうした人のつながりを目的に参加していたわけではないので
会社の名刺しか持っていませんでしたし、
名刺だけ交換してロクに話もせずに他のところへ行く人のことを
覚えていることはなかなか難しいところがありました。

そんな人たちの中には独立してビジネスをしている人や
人脈づくりの達人として活動をしている人などもいたようです。

熱心に勉強していたのでしょうね。
本に書いてあることや、誰かに教わったマーケティングの手法を実践していたみたいです。

顔を合わせてしばらくしたころ、会社に手紙が届きました。
手紙をくれたのは一人ではありませんでした。

直筆なのでしょうか、葉書に殴り書きをしたかのような文字で宛名が書かれており、
中身にはパソコンで作ったらしきゴチャゴチャしたものが描かれていました。

内容は挨拶文のような短いもの。
この間はありがとう、とかそんな程度です。
それに加えて、キメ言葉らしきメッセージがついている。

そんなものを一度手書きで書いて、スキャナで取り込んだものが
彼自身の意味のわからない写真とともに、妙なデザインに紛れながら載っているんです。

「誰だ?」と思って差出人を見ると、名刺交換をした相手。

そういうことが何度かありました。
中には名刺に載せていたのと同じ、ペンネームで送りつけてくる人までいました。


すごく困ったのを覚えています。

職場の机の上に置かれていたんです。
当時、会社宛に送られてきた訳の分からない葉書は、
他の公的文書とともに各職場のメールボックスに入れられる仕組みでした。

その後で、職場ごとに郵便物を個人に再配分。

当然、そうなれば多くの人がその葉書を目にするわけです。
場合によっては中身の側が目に留まることだってあったでしょう。

会社宛てに葉書を送るということの意味が全く分かっていないんでしょうね。

その後も、しばらくして同じ人から何回か同様の葉書が届きました。
それと並行して、形式だけのステップメールも。

「出会ってから数か月の間に、連絡をとって印象を残しましょう」
とでも習ったのでしょうか?
接触頻度を上げて、親近感を残す。
そのこと自体は重要だろうと思います。

僕も何かのビジネス書で同様のことを読んだ記憶はあります。

でも会社宛てに葉書を送ることとは意味が違うように思います。


中には、本当に丁寧に手書きで書かれた葉書をくれた人もいました。
出会った場所での内容や、個人的なメッセージなども入っていました。
絵手紙になっている人もいました。

心を込めて、ということが似合う人からだったので
「ご丁寧にありがとう」という気持ちが沸いてもきました。
…が、会社宛ては、やっぱり困りました。

年賀状くらいなら良くあることかもしれません。
挨拶状として見受けられやすい形だからです。

それをパーソナルなものにしていったときに考慮すべきことがあるというわけです。

事務的なものと違って、心を込めた手紙はパーソナルな度合が増していきます。
会社に送るということは、ある程度、公的な要素が出てきます。
公私混同ということが、相手の会社でどれだけ重要かを知っておく必要があるはずです。

名刺交換に応じてくれたから、そこの住所には何を送ってもいい、
そんなはずはないと思うんです。

相手の事情が良く分からなければ、リスクを考える必要があると思います。

封書で送っていれば、意味が全然違うのではないでしょうか。

確かに値段は葉書よりも高いです。
でも逆効果な葉書を送るくらいなら、送らないほうが良いでしょう。
「郵便物で印象を残す」という戦術を使う決断をしたのなら、
中途半端なことをしてリスクを抱えるのは困りものだと考えられます。


メルマガやニュースレターには接触頻度を上げて
印象を残すという意味があるのだろうと思います。

それは、対多数の関わり方です。

受け取る側も、大勢に向けて書かれていることが分かっています。
雑誌を読むような気分に近いだろうと思います。

どんなに心を込めようとしても、特定の誰かを相手にはできないわけです。
内容や体裁に心を込めることが精一杯かもしれません。

事務的な要素が強い郵便物も同様です。
受け取る側は多数が相手になっているのを前提とするはずです。

そんな事務的な郵便物だろうと思って開いたとき、
そこに、小さな紙切れ1枚に一言個人的なメッセージが添えられていると
それは喜びを感じられます。

僕の臨床催眠の先生はそういう人でした。
たった一言ですが、直筆でメッセージを添えてくれていました。


直筆というのはパーソナルな関係を示唆しているわけです。

だからこそ、ホスピタリティを大切にしているようなサービス業では
顧客に対してパーソナルな関係を続けようと努力するのでしょう。

商品を購入してもらった後に、担当者が直筆の手紙を送る。
そこには個人的なメッセージも含むわけです。

手紙をもらった側は、その人のことを思い出します。
自分を気にかけてくれたことを感じるでしょう。

その人を思い出しながら、その人だけのために、
その人だけへのメッセージを送る。
心をこめて、ということです。

当然、時間はかかります。

もしかすると、誰かと同じ内容でもバレないかもしれません。
それでも、その人だけのためのメッセージを考える。

その時間が相手への想いとして反映されるんでしょう。

その人を個人として対象にしているというのが前提になるんです。

たとえば、クレームに対して返ってきた手紙が、印刷の封筒だったりすると
それは個人扱いをしていないということになります。

直筆にしてこそ、個人扱いということです。


「直筆」と「手書き」を勘違いすると逆効果になりますね。

送り主が相手のことを考えて、相手一人のために、というのが直筆です。
「印刷よりも手書きのほうがいい」という意味ではありません。

印刷だったら、最初から受け取り手は多数を相手にしていることが分かります。
手書きということは「相手一人のために」という前提を含んでいるわけです。

手書きなのに、内容が不特定多数を相手にしているのも意味がないですね。

封筒の綺麗さ、文字の美しさが手書きの良さではありません。
本人が心を込めているから「直筆」として良さがあるわけです。
相手その人だけのために直接書かれているから「直筆」なんです。

「手書きの手紙がいい」とか、表面的にしか物事を捉えられないと
他人にやり方を真似した時に逆効果になることさえあるようです。

誰かの言ったことを鵜呑みにする。
すると本質を逃し、上っ面ばかりを捉えることになります。

情報の本質をつかむことが大切だと思います。

有名になったやり方をそのまま真似る。
まさにそれこそ、「有名無実」の行為じゃないでしょうか。

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この記事へのコメント

1. Posted by れど   2008年06月21日 23:53
相手の立場に立てば、すぐにわかることなんだと思いますが、その肝心の「相手の立場に立つ」がなかなか難しいんですよね。
だから小手先のテクニックが生まれる。
でも「相手の立場に立とう」と努力している方は、そういうテクニックの使い方にもちゃんと気を配れるはずですよね。
僕も不器用ですが、自分がされて嫌なこと・自分がされて嬉しいことという、ごくシンプルな軸で、コミュニケーションを取っている自分を発見しました。
もちろんそれでもズレは出てくるんだと思います。
でも、それは仕方ないから、マナーや気遣いがあるのかなと、思います。
2. Posted by 原田幸治   2008年06月24日 02:02
れどさん

テクニックはテクニックに過ぎませんね。
誰が、どのように使うかが重要だと思います。
テクニックの本質にある相手への心遣いを理解するほうが、
テクニックそのものよりも大切でしょうね。

相手の立場になるのも大変なことだと思います。
相手の立場は分からない。
だからこそ分かろうとできる。
出発点を「分からない」にすることが重要な気がします。

「こうすればいい」という風にテクニックを「分かった」つもりになってしまうことが
相手の気持ちを考えるという行為を忘れさせるのかもしれませんね。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
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