2008年06月30日

TOTEモデル

名前をつけると「それ」っぽくなるケースって結構ありますね。

言われてみれば当たり前のことと思えるような内容を
1つの法則のように簡略化して名前をつける。
心理学とかビジネス分野で多く見られるような印象があります。

理系はこのあたりがシビアですね。
法則とか定理の類は本質的な情報として整理されていなければ受け入れられませんし、
新規制と進歩性がなければ特許としても採用されません。

オリジナルというのは本来、とても困難なことなはずです。

心理療法では、特に欧米の研究者たちによって
オリジナルの手法が発表されるケースが多いそうですが、
コミュニケーションという人と人との関わりは曖昧なものでもあって
100%同じ内容になることは決してあり得ないわけです。

そのためオリジナルと称される手法の内訳を分析していくと
本質的には似たものになっていることは想像に難くないでしょう。

つまり、やり方として手順をまとめ上げたものというのは
説明の仕方によって変わる可能性が高く、実際の内容として
客観的に見て取れる交流の方向性には通じるものが多いだろうということです。

コミュニケーションにおいて「自分が何を意識して人と関わるか」という部分は
人によって、やりやすさに違いがあるんでしょう。
それが数多くの手法が生み出される理由だろうと考えられます。

相手の目を見て話を聞くことを意識すると良好な関係を築きやすい人もいれば、
相手の立場になって話を聞くことを意識するほうが上手くいく人もいます。
相手の肩に手を置いている想像によって心を通わせる人もいれば、
相手の幸せを祈りながら話を聞くことを大切にする人もいるわけです。

どういう意識を持つか。
それに名前をつけると1つのテクニックになってしまうのかもしれません。


NLPとして本に記載される内容の中にも、名前の効果を強く感じるものがあります。

例えば、「TOTEモデル」です。

聞いたことのない人にとっては凄そうな印象を与えるかもしれません。
でも実際は、ごくごく当たり前の内容です。

TOTEというのはTest-Operate-Test-Exitの頭文字。
入力(Input)から出力(Exit)までの間にTestとOperateを繰り返すというもの。
満足のいく結果が得られるまで、よくチェックして、やり方を変えてみよう、
そんな内容のことです。

失敗ではなく、フィードバックだということですが、
まさに、このプロセスはシンプルなフィードバック制御そのものです。

面倒臭いまでに詳細に説明すれば、大きな意味を持つ部分もあるのかもしれませんが、
詳細に説明しなければならない時点で便利なモデルではないわけです。


上手くいくまで、やり方を変えてみる。
当たり前のことですが、実際には難しいところがあるからこそ
こういったシンプルなモデルが「TOTEモデル」などと名付けられているのでしょう。

人は不思議なもので、上手くいかないときほど特定のパターンで硬直してしまいます。
交流分析でいうゲームなどは、この典型ですね。

ちなみに、目標に対してチェックして、やり方を変えるという手順は
ビジネス分野で良く使われるPDCAサイクルと似ています。

説明の図が違うので、どちらもオリジナルを主張するでしょうが、
僕にとっては同じ内容としか思えません。

どちらにもメタレベルからの学習のステップが入っていない点で
実用性に欠けた説明モデルだと判断します。


TOTEモデルはシンプルなフィードバック制御のモデルだと思います。
サーモスタットと似たようなもの。

例えば、お湯の温度を40℃にキープしようとしたとき、
最初の温度が25℃だったら加温するわけです。
で、温度を計る。35℃。
まだ低いから加温する。温度を計る。今度は45℃。
高くなり過ぎた。加温をやめる。待つ。
温度を計る。42℃。まだ待つ。
計る。39℃。
また加温する。49℃。高過ぎる。
待つ。待つ。待つ。
計る。と、40℃。目標温度達成。

とまぁ、こんな感じですね。
実際には、すぐにまた温度が下がって加温、放置を繰り返すわけですが。

シンプルなフィードバック制御であれば、熱量と加温時間と制御下限を設定して、
39℃以下になったら5秒加温する、というようなルールを作るわけです。
すると40℃付近の温度を行ったり来たりする制御ができます。

でも、実際に人間が考える場合であれば、もっと上手くやるはずです。

最初にある程度の時間で加温して温度を測定し、時間と温度上昇の関係を予測する。
で、設定温度よりも少し手前になると予測される時間だけ加温して、温度測定。
そこからは、こまめに短時間の加温と温度測定を繰り返す…。

といった感じでしょうか。

これもまだTOTEモデルで説明できる範囲です。

ところが、制御工学ではもう少し巧みなことをします。
設定温度との差に応じて加温条件を変えるということです。
PID制御と呼ばれるような方法でしょうか。

温度が低いうちは一気に加温して、温度が設定値に近づいてきたら少しずつにする。
人間が考えそうなパターンをプログラムとして作ったわけです。

こういう具合に、実際にやってみた結果を一通り分析して、
そのプロセスをパターン化することが、学習において非常に重要なんです。

確かにTOTEモデルを繰り返していれば必ず成果には結び付きます。
しかし、より短期間で成果を上げるためにはTOTEモデルで試行錯誤したプロセスを
一通り分析して、そこから上手くいくパターンを学習する必要があります。

具体的な例で説明するとしたら、こういうことです。

例えば、訪問での営業を考えてみます。

まず初対面。礼儀正しく話しかけて「忙しい」と断られる。
二回目の訪問。今度は気さくな雰囲気で話しかけてみる。が、断られた。
三回目の訪問。担当者が不在。対応してくれた若手社員と話す。
 身につけていた腕時計で趣味が合い、話が盛り上がる。
四回目の訪問。先日の若手社員と話しているところへ担当者が来る。会話がはずむ。
 チャンスと踏んで、商談に持ち込む。が、断られる。
五回目の訪問。担当者との話の中から、困っていることが聞き出せた。
 それに見合った商品を販売できた。

これをTOTEモデルという観点で見たら、毎回違うアプローチをしています。
礼儀正しいのはダメ。気さくなのもダメ。不在じゃ話にならない。
会話が盛り上がっても商談とは無関係。困っていることを聞けたら、上手くいった。

結果的には上手くいったので、TOTEモデルとしては完結しています。
目標達成です。

では、別の機会にはどうなるか。
このプロセスで何を学んだかが重要です。

何も学んでなければ、初対面の対応は同じでしょう。
間違った学習をしていたら、上手くいったポイントとして
「困ったことを聞けばいい」という内容を学んでしまいます。

TOTEモデルでは、上手くいくまで違うやり方をすればいい、
というシンプルな考えに基づいて進めていきますが、
その発想で行くと上手くいったときのやり方にポイントがあると考えがちです。

でも実際は、そうとは限りません。

先の例で言えば、何度も足を運ぶうちに
良好な人間関係ができたことがポイントだったかもしれないわけです。

上手くいくまで結果をフィードバックとして活用し、やり方を変えていく。
その途中では、これまでの経緯を全てフィードバックとして活用しなければなりません。

そして上手くいった最後の段階で、
これまでの全てのプロセスを振り返る必要があります。

ここが重要だと思います。
上手くいった時こそ、そこに至るまでのプロセスから本質を学ぶ必要があるはずです。

原因と結果を短絡的に結び付けるのではなく、
複雑なプロセスから意味を見出すということです。

以前に上手くいった方法や、他の誰かが上手くいった方法が
同じように上手くいくわけではないんです。

名前のついた手法を学ぶ時、名前の知れた人の技術を学ぶ時には、
鵜呑みにしてしまうのは危険な気がします。

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この記事へのコメント

1. Posted by れどれど   2008年07月01日 00:48
私は、ずっと昔から無意識にTOTEモデルを実践していたように思います。
もちろんメンタルブロック等々で考えうる全ての行動を試行する、ということはできていなかったと思いますが、とにかくダメならやり方を変える、ということを繰り返していました。
でも、これって、別にスキルとかじゃないんですよね。ただの心構え、というか。一つにやり方に固執したら視野が狭くなっちゃうよ〜的な。
つまり、試行錯誤は大事だけど、その精度を上げるスキルを身につけたほうがいいよ〜ということかなと思います。

もうちょっと書きたいことが出てきましたが、理系っぽくなるのでやめます(笑)
2. Posted by 原田幸治   2008年07月03日 03:42
西出さん
理系は特にTOTEモデル的な「ダメならやり方を変える」という方法を
自然と身につけていくのかもしれませんね。
研究で予想通りに進むことのほうが少ないですから。
エジソンが言ったような、失敗ではなく上手くいかない方法を学んだという考えも
NLPで言えば「失敗はない、フィードバックがあるだけだ」ということでしょうが、
そう思えなければ研究はできない気もします。
統合的な理解を目指していれば、ネガティブデータも貴重な情報になりますね。

理系の視点で考えてみました。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
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