2008年07月15日

鵜呑みにしない

前回に引き続き、マナーに関して思うところを書いてみます。
デリケートな問題だとは思いますが、マナーに関して
考えてみるほうが良い部分があるとも思うんです。

例えば、小学校のときには「食べ物を残してはいけません」と習った人も多いと思います。
人によっては、お茶碗のご飯粒を1粒も残さないように気をつけることもあるでしょう。

ところが、中国や韓国では出された料理を残すほうがマナーなのだそうです。
食べきれないほどの食事を出すことが、もてなしの心だということです。

文化が違うわけですね。
それは伝統的に長い年月をかけて積み重ねられてきた習慣であって、
長い年月の間に暗黙の了解として、多くの人に受け入れられた考え方だと言えます。

そうした習慣がマナーとして定着し、それを守ることが美徳だとされるようになると
人は自らの判断や思考を失います。
「マナーだから守る」ということに疑いが無くなるわけです。

だからといって、一つ一つのマナーを「なんで?」と考えていると
他の人からは「面倒臭い奴」として扱われるようになってしまう。

僕はこの、「なんで?」という根本思考は大切なことだと考えます。
その答えを他人に求めるから反感を買うんです。
それは手抜きです。

疑問を持ったら、自ら考えてみればいい。
分からなければ、一生かけてでも考え続ければいいと思います。
それだけ大切なテーマになるはずです。

しかしながら、実際には大半の人がマナーや常識、文化という言葉で説明されるような
暗黙のルールに関して、自らの頭で考えることをしません。

誰かから言われたことだから、という理由で信じるわけです。

ゲシュタルト療法のフレデリック・パールズは、
そのように他人から言われた内容をそのまま受け入れてしまうパターンのことを
『イントロジェクション(鵜呑み)』と呼び、神経症的メカニズムの1つと考えました。

食事に限らず、マナーとか礼儀作法と呼ばれるものには様々なものがありますが、
それはNLPで言えば、信念ということになります。
ビリーフです。
思い込みとさえ言えるんです。

現代社会で通用するマナーは誰かから与えられたものですから、
知識として与えられた経験がなければ、それを知ることは難しいものでしょう。

そのマナーを知らなければ、偶然以外ではマナーを守れませんし、
マナーを守っていなくても罪悪感を覚えることもないはずです。

マナーを知っている人が、他人のマナー違反に対して不満を持つ。
これが重要なポイントです。

マナーに詳しく、マナーを守る人ほど、社会生活において他人への不満が大きくなる。
不思議なことが起きているわけです。

だから、マナーについて鵜呑みにせずに考えてみたほうが良いような気がするんです。


たぶん、僕の実家はマナーにうるさい部類だったのではないかと思います。
祖母はテレビで芸能人が食事をする場面を見ると、たいてい文句を言っていました。

「アラアラ、左手で箸を持って」ということもありました。
他の人からしたら気にならないことでしょうが、
そういう文化の中で育ってきたのでしょうね。

父は実際、左利きですが、ほとんどの作業を右手でこなします。
強制されたようです。

でも、僕はそういう発想が好きじゃなかったんです。
だから僕のマナーは結構いい加減です。


祖母のように、誰かのマナーが気になるというのは
知識が信念になっているからだと思われます。
「こうするのが普通だ」と思い込んでいるわけです。

しかし、相手にしてみたら知らない情報ですから、認識すらできません。
いたって普通の行為なんです。

例えば、トーストやお餅を食べる時。
普通にかぶりつくと、歯型が残りますね。
当たり前だと思います。

でも、この歯型を残さずに食べる人がいます。
一回かじった後、すぐにその横をもう一回噛み切る。
すると一直線に近い形に跡が残るわけです。

これも1つのマナーだそうです。

僕がテレビを見ていて、歯型を残さずに食べること気づいたのは、
小泉孝太郎さんと藤井隆さんぐらいです。
どちらも品のある人だと思います。

ただ、多くの人がそのようなマナーを知らないような気がします。
多くの人は歯型が残っても気にならないでしょう。
自分の食べたトーストでも、他人のトーストでも。

僕も気にしません。
知識として聞いたことはありますが、絶対にそうすべきだとは思っていないからです。

マナーの多くは、『そうするほうが良い』という類のものではないかと思います。
このことが、僕がマナーに対して考え直してみたほうがいいと思う部分です。

なぜなら、マナーや礼儀作法というのは、
人を思う気持ちから生まれてきたものだと思うからです。

一緒に同じ時間を過ごす相手に対する心配り。
その心配りを合理的に形にしたものがマナーだと思います。

小笠原流の礼法も、茶道の作法も無駄がありません。
無駄のない動きは美しい。
そういう観点もあるように感じます。

西洋のマナーがどうかは分かりませんが、
例えば「スープを飲んで残り少なくなったとき、皿を傾けるのは手前から奥」
というのも皿の裏側を相手に見せないようにという配慮が元だとは聞きます。

フランス式のマナーではスプーンは奥から手前に動かしますが、
これも誤って向いの相手へスープを飛ばさないようにという配慮だそうです。

そして、茶道の作法の根底には相手への心遣いが満ちているように感じます。
ふすまの開け閉め一つとっても、季節によって作法が違うわけです。
それは冬の寒さを考えた心配りを反映したものです。

作法という型の中に込められた心。
そのことを知っている人の作法は洗練されているように見えます。
絶対に手を抜きません。
相手が作法のことを知っていようが、知っていまいが関係なく、
自分ができる最大限に心をこめて振舞います。

そのことが作法を知る人には分かるわけです。
知っている程度によって、受け取れる量も違います。

だからこそ、分かる人同士は作法という型を徹底することを通じて、
お互いに相手が込めている心の度合いを知ることができるわけです。

言葉を使わずに、気持ちの交流をしているということです。

そうしたマナーや作法に込められた心を知る人は、
相手にマナーを押し付けないように感じます。

相手が快適にその場を過ごせるようにするための心配り。
マナーや作法の裏にあるその心を知る人は、相手のマナーがどうかよりも
相手にその場を快適に過ごしてもらうほうを大切にするはずです。


とはいえ、いつでも相手が快適に過ごすことが優先かといえば、そうではありません。

相手をもてなす場、相手と一緒に快適な時間を過ごす場であるなら
相手に作法やマナーを押し付けることはないでしょうが、
人には当然、自分の時間というものもあるわけです。

公共の場というのは、そこにいる全員と快適に過ごすことを目的にはしていません。
自分は自分として確保しながら、全員と折り合いをつける場です。

公共の場で、全員がそれぞれの個人的な希望を優先していたら
その場はメチャクチャになってしまいます。
トラブルが絶えません。

公共の場では、自分の個人的な要望をある程度抑え、
不特定多数の他人への迷惑を考えるべきところです。
それが社会性であって、人間が人間として成立しうる要素です。

人間は意識で社会性をコントロールするわけです。
自分の本来の欲求をコントロールするから、社会は成り立っているんです。

そこでは、ある程度の我慢と他人への配慮が必要なわけです。

それも礼儀作法やマナーとして考えることもできますが、
マナーを守ること以上に本質的な部分があります。

それは誰もが我慢しているということです。

我慢しているから、他人のワガママに不快感を抱くわけです。
「自分は我慢しているのに、あの人ったら…」ということです。

自分は公共の場だから静かにしている。
皆も暗黙の了解として静かにしている。
だから、自分のスペースと自分の時間をある程度確保できるわけです。

公共の場の中で、自分の空間と時間を維持するために
自分も他の人の空間と時間は邪魔しませんよ、という交換条件が働いているとも言えます。

電車の中で、誰かが携帯電話で話していたり、イヤホンから音漏れしていたり、
大きな声で会話をしていたりすると腹が立つのは、
自分は他人を邪魔しないことで自分のプライバシーを維持しようとしているのに
他の誰かが自分のプライベートを優先して声や音で侵害してくるからです。

それに対して不満が沸くのは当然でしょう。
ただ、それは相手がマナー違反だから不満を感じるわけではないんです。

ここを区別する必要があると思います。

自分が努力して維持している公共性をないがしろにして
公共性の代わりに得られるはずのプライバシーを侵害する相手の
公共性のなさが不満の対象なんです。

「自分は気を遣っているんだから、お前も気を遣えよ」という交換条件です。

食事やビジネスなど、個人的な人間関係におけるマナーと
公共の場でのマナーでは意味が違うんです。

個人的な人間関係では、相手との関係の構築が目的になります。
だから相手への心配りが前提になるわけです。
マナーを通じて相手への気持ちを示すということです。

その意味では、相手と良い関係を作りたいと思うのであれば、
相手のマナーは問題ではないはずです。


それでも個人的な人間関係で相手のマナーが気になってしまうのは、
そのマナーという信念に自分自身が凝り固まっているからです。

「マナーは守るべきだ」という信念が固まっている可能性があります。

自分が知らないマナーは守っていないかもしれないのに、
他人のマナーが気になるのは、そのマナーに対して思い込みが強いのかもしれません。

そういう時には、相手との関係と自分のマナーに対する思い入れと
どちらが大切かを考えた上で、責任ある行動をとればいいはずです。

どうしても自分にとって大切なマナーであれば、相手へ正直に言う選択もあります。
相手のマナーが気になる場には同席しないという選択もあります。

もし正直に言うなら、本当に自分の気持ちを正確に伝える必要があります。
「それはマナー違反だからやめて欲しい」というのは自分の気持ちに嘘をついています。

「マナー違反だから」ではありません。

「自分がそのマナーを守ることを大切だと思っているから、
 それに反した振る舞いを見ていると不愉快な気持ちになってしまう。
 あなたとは良い関係を築きたいのに、それができなくて残念だ。
 その原因は自分の思い込みにあるのだけど、それを変えるのは難しいから
 出来れば、その振る舞いを変えてもらえないだろうか?」
という提案が正確でしょう。


一方、公共性の高い場で、他人のマナーに不満が沸いてきたら
それは自分の領域を侵害されたように感じている可能性が高いでしょう。

電車の中で誰かが居眠りしていても不愉快にはならないと思います。
それは自分を邪魔されていないからです。

でも、居眠りをしている人がイビキをかいていたら不満を感じるでしょうし、
自分の隣で居眠りをしている人が寄りかかってきたら不満だろうと思います。

公共の場で感じる不満には「自分が邪魔された」という気持ちの
関わっている部分が大きいということです。

それは当然のことでしょう。

そこで考えることは「あの人はマナーが悪い」と
ルールを振りかざすことではないように思います。
本来は「あの人は私を邪魔するから不愉快だ」という考えのはずです。

どちらも不快な気持ちは変わりません。
ですが、自分の気持ちに気づけているかという点では違いがあります。

ルールやマナーを振りかざすことを続けていると
裏にある自分の正当なワガママの気持ちを無視することになります。

すると「マナーだから守るべき」という信念が強固になっていってしまいます。

マナーを守っていないから不愉快なのか、
自分の時間と空間を邪魔されているから不愉快なのか。

誰のためのマナーなのかを考えてみる必要があるように思います。


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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
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