2008年08月02日

なくさない

ミルトン・エリクソンは徹底的なまでに無意識を信頼していたと言います。

では、『意識』はどうでもいいかというと決してそんなことはなく、
人間の社会性を司り、人間の文化的生活を可能にしているのは
『意識』の重大な役割によるものです。

ですから、意識も大事、無意識も大事。
ただ、普通に生活していると無意識は放ったらかしにされやすいので、
多くの人にとって無意識を大切に扱うことが必要になるわけです。

無意識に意識を向けたとき、既に「無意識」という言い方では変になってしまいますが、
大切なのは「『無意識』という存在が自分自身を守っている」という考え方です。

無意識を擬人化し、そういうものがあるとして理解し、
人間はいつも無意識によって守られていると考えると都合がいいのです。
扱いやすいわけです。

NLPの創始者リチャード・バンドラーは時として過激な人物ですが、
あらゆる考え方を信じ込まないという点において素晴らしく合理的です。

バンドラーは正しいか、間違っているかよりも、
役に立つかどうかに指標として重きを置くように見受けられます。

『無意識』が自分自身を守っている、とか
自分の中には『パート』と呼ばれる分身のようなものがいる、とか
その仮説自体の正しさは無視して、利用しやすいかどうかで判断するわけです。

ある理論が80%の人に当てはまったとしても、目の前の人が残り20%の人であったら
その理論は目の前の人にとって役に立たないことは事実です。

人は皆、違う。
目の前の一人にとって有効な方法を活用する。
理論ではなく実用を考えたとき、その発想は重要なはずです。


そのように無意識を信頼する考え方が実用的に見て有効だと言えるのは、
何も深い心の悩みに限ったことではありません。

日常生活においても、無意識の性質を理解しておくことは役立ちます。

その際にポイントになる前提は、
「無意識にとっては、人の全ての行動に大切な意味がある」
という考え方です。

意識的に捉えると無駄であったり、嫌に感じるものであったとしても、
無意識の意味合いとしては自分にとって必要なものなんです。

それは、その行動そのものが大切なのではなく、
行動が持つ意味が大切だということです。

例えば、タバコを吸うというのは行動ですから、
無意識にとっては「タバコを吸う」行為自体が重要なのではありません。
タバコを吸うことの持つ意味が重要なんです。

タバコを吸うことで気持ちをリセットするのであれば、
無意識は気持ちのリセットを必要としていると考えるわけです。

別の例で言えば、食べ過ぎてしまうというのも行動です。
食べ過ぎること自体を無意識が必要としているのではありません。
食べるという行為が、親の愛情を確認するという意味を持っていたとしたら、
愛情を受け取りたくて食べ過ぎてしまうようになるんです。

それに対して、ダイエットのために無理やり食べるのを減らすと、
愛情を受け取ろうとして、別の行動が始まるものです。
体調を崩して心配してもらう、とか。


つまり、無意識にしている行動には全て大切な意味があるということです。
この考え方が実感として染みついてくると、世の中を見る目が変わってきます。

例えば、人前で話すときに上半身でリズムをとってしまう癖があったとします。
その癖を止めるために体の動きを無くすように頑張ると無理が出てくるわけです。
上半身の動きには意味があるからです。

しかしながら、人前で話すという行為だけを考えた場合、
上半身が動き過ぎると不安定に見えるから改善したいというケースもあるものです。
その時にも無意識における意味を考える必要があります。

その無意識の意味がリズムをとって快適に話すことにあるのなら
リズムを感じることが大切なわけですから、
別にリズムを感じられる行動を意識的にすればいいことになります。

具体的に言えば、目線の配り方にリズムを出すとか。
首から上だけを動かして、目線を動かす。
あまりキョロキョロしてもいけませんから、左側をリズムよく1、2、3、と3人見つめ、
それから右側で3人とアイコンタクトする。

そういうことをすれば、体でリズムを作り出すという無意識的な意味合いをカバーしつつ、
上半身が動き過ぎる癖に対応することができるわけです。


別の例で考えてみると、人前で話すときに体に力が入る人もいます。
緊張から肩に力が入る、というのもそうです。
それを抑えようとして、手を腰に強く当てるとか、片手でもう一方の腕を握るとか。

そこで力を抜こうとしても難しいんです。
無意識が力を入れているわけですから。

力を入れることの意味まで理解するには相応の取り組みが必要ですが、
「力を入れること」自体が重要だと判断できれば、
どこか別のところに力を入れて無意識の意味をカバーすることもできます。

例えば足先にそれを持ってくる、というのは非常に有効でしょう。
爪先で地面をギュッと握るように力を入れる。

すると逆に上半身の力は抜け、落着きとリラックス感、
そして下半身の安定感まで副作用的に表現することも可能になります。


無意識のメッセージを理解しようとすると、
ある規準において望ましくないような行動でも大切なことだと思えてきます。

すると、改善策の効果が変わってくるものです。

意識して何かをしている自分がいて、それが頑張ろうとしても上手くいかないのなら、
その努力は方向性を変えることが有効だということです。

頑張ることはできるわけですから、頑張る方向だけ変えればいいんです。

リズミカルな上半身の動きを止めようとすると難しいなら、
積極的にリズムをとる場所を作ればいいわけです。

体のどこかに力を込めていないと不安なのであれば、
足の指先に力をいれて地面をギュッと握りしめるようにする、とか。

そうやって、改善したい対象となる行動が持っていた意味を
別の行動で満たすように努力の方向を変えればいいんです。

こうしたやり方は非常に即効性があります。
というよりも、無意識の意味を無視したまま、新たな動きを練習しても
なかなか身につくものではありません。

「ここが良くない」
「ここをもっと変えたほうがいい」
そういう風に指摘するのは簡単です。

自分の知っている判断基準に照らし合わせて評価さえすればいいわけですから。

では、どうしたら変えられるのか。
一般的な学習法では、改善すべき点を意識してコントロールしていくわけです。

それはそれで重要です。
我慢する、制御する、といったことも社会性においては必要なことです。

ただ、ある要素は決して単独で存在していません。
何か他のことと密接に絡んでいます。

リズミカルな体の動きは、心地よいリズムで話すことと関係していたりするんです。
それなのに動きを止めてしまっては、話すこと自体に制限がかかってきてしまいます。

無意識の意味を考えて改善策を提示できれば、
「分かっちゃいるけど、できない」という事態を回避できるわけです。

エリクソンは積極的な指示を出すことも多くあったそうです。
それは行動療法的な「頑張ってやりなさい」という意味合いとは違います。

その人にとって自然で、とてもやりやすい行動を選んでいたんです。
相手の持ち味を活かし、無意識のメッセージに沿った指示だったんです。

無意識のメッセージを受け取れるようになると
他人の行動が違って見えるようになるのかもしれません。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
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