2008年09月14日

「伝える」ということ

コーチングにせよ、カウンセリングにせよ、
コミュニケーションを謳っているものは「聴く」ことを中心にするようです。

NLPでもそうですし、僕が勉強会で扱う内容も「聴く」側が多くなります。

コールドリーディングは相手から話を聞くことなく相手の情報を言い当てるようにして
「この人は分かっている」と思ってもらう技術ですが、主役は相手であって、
なるべく相手が自分から話す状態を作るようにしていきます。

以前、勉強会で「分かりやすい伝え方」というテーマを扱ったときも、
「伝える」ことよりも相手が「分かる」状態を作り出すほうに主眼を置きました。

僕にとってはコミュニケーションで意識することは相手が中心だと言えますし、
多くのコミュニケーション技法が自分以外の相手を意識しているようです。
ファシリテーションなどは、まさに他人のためのコミュニケーション技法でしょう。

もちろん、アサーションやディベート、交渉術など、
自分の意見を主体としたやり方もありますが、それは目的と場面を選ぶ気がします。

「聴く」技術を学ぶことは、日常のコミュニケーションに活かしやすいわけです。


一方で、コミュニケーションを「聴く」と「伝える(話す)」、
「相手主体」と「自分主体」というように分けてみると、確かに
『自分の言いたいことを伝える』という要素も大切だと思えてくるでしょう。

「表現する」、「伝える」、「教える」、「指示」、「プレゼンテーション」など
自分からメッセージを発信するときにも重要なことは沢山あります。

ただ、このときに気をつける点があると思うんです。

それは目的です。
目的をハッキリさせることが大切だと考えられます。

目的を明確にするのは、あらゆるコミュニケーションに共通する大切な要素です。
 今、自分がしようとしているコミュニケーションの目的は何か
それを本当に明確にできる人は極めて少ないものです。


ちなみに、アサーションというトレーニングが効果を発揮するのは、
この自分が分かってもらいたい本当の気持ちに気づくことができる部分でしょう。
多くの人はコミュニケーションにおいて自分の本当の気持ちさえ語れません。

本当の気持ちを語らないままに、相手に期待することが多いんです。
本当の欲求を言葉で伝えるのは率直過ぎて、ワガママにも思われるでしょうし。

何よりも、自分の欲求を伝えるために言葉が使えるようになるのは
ある程度の年齢になってからだというのが大きいはずです。
言葉も話せない頃から自分の欲求を伝えようと工夫して、
期待を裏切られることを繰り返しながら、人は歪んだ表現方法を身につけていくわけです。

例えば、自慢話をするのなら、それは尊敬してもらいたいと推測されます。
「スゴイですね!」と賞賛され、持ち上げられたいんです。
にも関わらず、誰も「これから自慢するから賞賛してください」と言ってから
自慢話を始めることはしません。

自分が承認や賞賛の欲求を持ち、相手にそれを期待しているとは気づかないからです。
知らず知らずに求めたくなってしまうということです。

自分の本当の気持ちに気づくことさえ難しいのに、
別の人がそれを理解するというのは至難の業というものでしょう。

アサーションはコミュニケーションの結果に目的を設定しないように思われるんです。
まずは自分の本当の気持ちに気づきましょう、というところが出発点に感じます。


そして、自分の気持ちに気づけたら、目的を意識する必要が出てきます。
何を目的に「伝える」ことをするのか、です。

伝わることが目的なのでしょうか?
だとしたら「何を伝えたいか」が重要です。

相手の必要としている情報を提供するという場合は、これに当てはまると思います。
ですが、相手が必要としている情報があるのなら、
相手が情報を手に入れたと判断するかどうかが基準になります。

伝え方の技術で変わる部分は、相手が「手に入れた」と判断するまでの時間。
「伝わる」かどうかの基準は相手にあるんです。
相手が言葉にした「知りたかったことは分かりました」という内容で判断するわけです。

ただ、残念ながら、相手が自分の提供した情報を100%理解することはあり得ません。
絶対にありません。

言葉にまつわる体験が個人によって異なる以上、概念の理解のされ方も人それぞれです。
相手が「分かった」と判断した時には、必ず相手の言葉で情報が整理し直されているんです。

その前提では、自分と同じように「分かる」ことを相手に求めるのは不可能ですから、
相手が「納得できた」と判断した部分を言葉から受け取るのが精一杯でしょう。

「伝わる」ことそのものが目的の場合、その目的が達成されたかどうかは
相手から返ってくる「理解した」という言葉によって判断することになるわけです。

このような情報提供としての伝え方であれば、
「分かりやすさ」という意味で技術的に向上させる要素があります。
以前の勉強会では、それを「分かりやすい伝え方」として扱いました。

筋道立てて話したいとか、自分の考えを上手く言葉にしたいとか、
そういう意図を持っているのであれば「伝え方」で工夫できる部分があると思います。


ただ、僕の受ける印象としては「伝える」ことに気持ちが向くときの多くは、
相手への情報伝達そのものを目的としていない気がするんです。

伝える側自身が気づかないうちに、「伝わる」ことの先にある結果に
コミュニケーションの目的を求めているように思えます。


例えば、プライベートな関係の会話や雑談などでは、
多くの人は相手の対応に対して無意識的に期待をしています。
なんとなく「こうしてくれるだろうなぁ」というのを持っているんです。

愚痴を言うときであれば、「それは大変だね」とか「ひどいね」とか、
相手からの同意を通じて自分の気持ちを発散させようという目的があるはずです。
だから「世の中、そんなもんだよ」などと言われると不満を感じるわけです。

自慢話をするのであれば相手からの称賛や尊敬を期待しているでしょうし、
面白い体験の話をするのなら相手が笑ってくれることを期待しているでしょう。
一緒に盛り上がってもらいたいと期待していることもあるかもしれません。

辛かった話、悲しかった話をするときは、なぐさめてもらいたいわけですし、
頑張ったけど成果が出なかったときは、ねぎらって欲しいものでしょう。

自分から話をするとき、つまり相手に対して「伝える」行為を始めるとき、
自分の感情や気持ちを認めてもらいたいという期待があるんです。
共感を求めているんです。

「自分は素晴らしい」「自分はOKだ」ということを相手を通じて確認したい。
そういう目的の元にコミュニケーションをしている可能性が非常に高いはずです。

その目的を相手に伝えることなく目的を達成しようとするのは相手への期待です。
自分が期待している反応が相手から得られるまで、多くの人が工夫しようとするんです。
「自分の伝え方が悪いから相手が分かってくれないんじゃないか?」と考えて。

確かに伝え方を変えれば、期待していることは得られるでしょう。
 「私は今、あなたから『大変だったね』と言ってもらいたいです」
というふうに自分の目的を意識化してハッキリと伝える。
そうすれば相手も『大変だったね』と言ってくれる可能性は高まります。

ただ、そうして達成された目的では満足できないほど、人はワガママなものです。

重要なのは、「分かってくれた」と判断する基準が相手の対応にあるところです。

自慢話を聞いている人の中には、
 「どうせ『スゴイですね!』って言って欲しいんだろ?言わねぇよ!」
と思いながら聞いている人もいるはずです。

つまり、目的としている内容は伝わっていても、期待通りの相手の対応が得られないから
「自分の伝え方が悪い」と判断してしまうケースもあるということです。


このようなことは仕事の場面や、プライベートにおいて相手に要求する場面で起きがちです。

仕事で指示を出す場合であれば、コミュニケーションの目的は
相手が仕事で期待通りの結果を出してくれることでしょう。
仕事での成果が、「伝える」ことの目的だと思われます。

であれば、「伝え方」に関わらず、相手の仕事の成果が上がるように
コミュニケーションを行っていけばいい、という発想が出てくるわけです。
質問の技術を活用して相手の成果を引き出したって良いわけです。

コーチングが企業に導入されやすい理由の1つが、これでしょう。

一方、仕事での指示の出し方において「伝わる」かどうかに意識が向くとき、
相手が自分の考え通りに行動して成果を出して欲しい、
という目的が追加されている可能性が考えられます。

「伝わった」と判断する基準が相手の行動にあるわけです。
相手が自分の意図したとおりに行動したとき、「伝わった」と判断する。

そうだとしたら、それは「伝える」ことが目的なのではなく、
「自分の思い通りに相手を動かす」ことが目的なのではないでしょうか。

仕事での指示だけじゃありません。
相手に対して、自分の要望を伝えるときは全てそうです。

 「あなたのこういうところが気に入らないから変えて下さい」
 「それはおかしいと思いますから、やめて下さい」
 「そういうことはルール違反です」
 「あなたには、もっとこういう風にしてもらいたい」
 「今のやり方よりも、もっとこうやったら良くなるのに」

こういう要望が「伝わった」と判断されるのは、おそらく
相手が納得して実際に行動を変えてくれたときではないかと思います。

実際には、自分の伝えたい内容そのものは相手にシッカリと伝わっているのに、
相手が受け入れようとしなくて、納得も変化もてくれないというケースもあるはずです。

そういう事態に対して
 「伝わらないなぁ。自分の伝え方が悪いのかなぁ」
という発想をしていることがあるように思うわけです。

そこには確かに伝え方の要素も含まれます。
説得の技術、交渉術などの目的は、自分の要望を通すことです。

起業するときに銀行にお金を借りに行くのなら、自分の要望を通すために
伝え方を工夫するという要素も重要です。
ただ、伝え方以外の要素も沢山あるでしょう。

現実的に考えた場合、多くのコミュニケーションにおける相手への要望は
自分勝手なワガママであるケースが大半だろうと感じます。

相手を変えたい、相手を思い通りに動かしたい、コントロールしたい。
そういうワガママなんじゃないか、ということです。

相手には相手の立場や事情があるわけです。
相手には相手の気持ちがあるんです。

もちろん、相手を無視して自分の要望を通そうとするのも人それぞれです。

欲しがっていない人に高額なモノを売りつけるかどうかは
その人の価値観によって判断すればいいところでしょう。

しかしながら僕の中には、『相手を変える』ということに大きなテーマがあります。
必然的に僕は、相手を自分とは別の他人としてハッキリ意識します。

コミュニケーションにおいて重要だと思う点も、
「人は皆違う」というところに行きつきます。

そのことを実感することが、人間社会を生きていく上で役立つと思うんです。
コミュニケーションを必要とする人にとって、現実的に役立つ部分だという考えです。

それを実感するためには、「伝える」ことを意識するよりも
「聴く」ことに意識を向けるトレーニングをすることが役立つはずです。

誰もが常日頃、他人が自分の思い通りに行動することを期待しています。
皆が自分の思い通りに生きようとしているのに、
他人が自分の思った通りには生きてくれるはずはありません。

そのことを理解するには、相手の個性を意識しながら話を聴く、
というトレーニングが役に立つと考えられます。

だから僕は「聴く」側を主体としたセミナーや勉強会をしているわけです。


なお、相手を思い通りにしたいという気持ちを持っている状態で
コーチングを質問の技術として学ぶ際には注意が必要だと考えます。

「伝える」ことで人を変えようとする場合、相手は抵抗することが容易です。
「分からない」と答えれば済むからです。

ところが質問によって導かれた結論は、自分が出した答えのように感じられます。
質問の技術を駆使すると、相手を自分が意図した結論に導くことも可能です。

それは「伝える」ことで相手を思い通りにしようとする以上に
逃げ場を与えないコントロールの仕方だと思います。

コーチングでは、「答えを引き出す」というような表現を使うこともあるようですが、
質問する側が答えを意識してしまった場合、「答えに導く」になる可能性があります。

相手を思い通りにしたいという欲求。
自分の中にあるワガママさに気づくことが大切だと感じます。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
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