2008年10月09日

緑の光がもたらしたもの

今回もまた時事ネタになりますが、ノーベル化学賞はとても印象的でした。

日本人が選ばれたということに加えて、その内容です。

僕はバイオ系の研究をしていましたので、今回の受賞内容となった
オワンクラゲの蛍光タンパク質(GFP)には馴染みが深かったんです。

受賞者の下村脩氏もチャルフィー氏も、
当初は役に立つものだとは思っていなかったのだとか。

光るクラゲがいて、その光る理由を調べていて見つかったタンパク質が
GFP(Green Fluorescent Protein)だった、
そして、それを詳しく調べていった。
そういう流れから始まっているんだそうです。

確かに「生物が光る」というのは人の心を掴みます。
ホタルにせよ、コケにせよ、暗闇で光を放つ生き物を美しく感じるのは
人間の持つ自然な感性に共通するところなのかもしれません。


多少、専門的な話になりますが、光というのはエネルギーなわけです。
多くの生物発光は、エネルギー源を介したプロセスを経て行われるのに対して、
オワンクラゲのGFPは特定の光を受けると自然に発光するという特徴があります。

そして、複数の物質の相互作用ではなく、GFPというタンパク質そのもので
光を放つことができるというのが非常に面白い特徴なんです。

その特徴が同時に、幅広い用途へ使われる結果に結びつきます。

1つの遺伝子から作られる1つのタンパク質が発光するということは、
その遺伝子1つを組み込んだ細胞を光らせることができるわけです。

さらに特徴として、調べたいタンパク質の融合させても発光可能な性質があるため、
1つの細胞の中を顕微鏡で見たときに、どの場所に調べたいタンパク質があるかまで
視覚的に理解することもできるんです。

遺伝子組換えの技術を使うと、色々な細胞を光らせることができる。
そのことは分子生物学的な手法に応用され、生物化学分野の発展に大きく関わりました。

実際、学会発表や論文などを見ると、GFPの蛍光緑色の写真があちこちに出てきます。

そうした幅広い分野への貢献が評価され、
今回のノーベル化学賞の受賞になったようです。
(発見が下村氏、チャルフィー氏とチェン氏は応用の足がかりを作った)


最近のノーベル化学賞では、そのようにサイエンスの発展を可能にした技術と、
そのキッカケになった発見に対して評価が集まるようですが、
キッカケそのものは意外なほど偶然的であったりするようにも感じます。

今回のGFPに関しても、幅広く応用されてサイエンスの発展に貢献した理由の大半は
GFPというタンパク質が元々持っていた性質によるところなわけです。

単独のタンパク質で光を放つため、1つの遺伝子だけで利用できる。
融合タンパク質の形にしても発光という性質が維持される。
異種細胞の中でも性質が維持されやすい。
…こういう性質は科学者達が生み出したものではなく、オワンクラゲのものなんです。

GFPというタンパク質を発見し、それを調べていったら
偶然にも、それが役に立つ性質を沢山持っていた、という部分が大きいわけです。

もちろん、その性質を見つけるところまで研究を継続したから
応用が可能になったということはありますが、それが応用されていったのは
他の研究者たちがその便利な性質を利用し続けたからだと言えるはずです。

同じように発光する生物を研究していても、その生物の持っていた性質によって
GFPのような応用には結び付かなかったケースだってあったと推測されます。

ノーベル賞に至ったのは、かなり運の部分もあったと思うんです。

サイエンスの発展に貢献することの多くは、こうした偶然の要素を含みます。
偶然の発見が幅広く利用されていくんです。

特にそれは、技術的なところであれ、性質的なところであれ、
そうした発見・発明があることで「今まで見えなかったものが見えるようになる」
という部分が大きいと考えられます。

知識や技術がなければ意識することもできないし、
調べようという気持ちさえ生まれてこないんです。

知識があって、調べる方法があるから
「じゃあ、これはどうなんだろう?」という発想に結びつく。

つまり、今までは見えていなかったものを見られるようにする方法を発表することが
世の中に大きな影響を与えていけるということです。


拡げて考えてみると、これはサイエンスの分野だけに限ったことではありません。

誰かから教えてもらった知識で、世界の見え方が変わることはザラにあるはずです。
誰かとの関わりで人生が大きく変わるということがあるんです。

不思議なほど、人の見ているものは違います。
人それぞれ、体験していることが違うんです。
その人の体験を聞くことで、他の人の世界が広がります。

自分では当たり前だと思っていたことが、大きな影響を及ぼすこともあるわけです。

オワンクラゲの緑色の光のように、
予想外の影響をもたらすこともあるかもしれないんです。

自分のしてきたことが周りにどのように影響するのか。
それは周りの人の受け止め方によるところが大きいのかもしれません。

伝えてみる。
見せてみる。
試してみる。

どうなるかは、やってみなければ分かりません。
それがまた面白いじゃないですか。

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この記事へのコメント

1. Posted by れどれど   2008年10月09日 21:54
この記事に関してはコメントをしないわけには参りません。

僕も前職ではGFPにはかなりお世話になりました。むしろ、GFPなしには仕事はできませんでした。
研究職を離れた今、何か今回のノーベル賞の受賞は、昔を懐かしむきっかけを与えてくれました。
まだ多くの友人がバイオの世界で元気に仕事をしています。(僕の友人は毎日GFPを売り歩く商売(営業)をしています・・・)

ありがとう、GFP。
2. Posted by 原田幸治   2008年11月03日 13:57
れどれどさん

光というのは見えるようにするために必須なことなんですね。
光を当てて反射を見るにせよ、
そのものが光るにせよ、
我々が対象を認識するために光を使えるのは本当にありがたいことだと思います。

何かを認識できるというのは当たり前じゃないんですね。
五感を通じて世界を認識できるのも本来は感謝の対象だ、
ということさえGFPは教えてくれたように感じます。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
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