2009年03月04日

議論の結果

いつの頃からか、僕は本を読むときに議論をするような傾向が強まってきているようです。

以前から本の内容を鵜呑みにすることは少なかったとは思いますが
最近は本と対話をするような感じが強まってきていることに気づきます。

場合によっては読んでいて腹が立ってくることも。
いや、「場合によって」ではなくて、結構頻繁にあるかもしれません。

新しいことが学べていないのではないかと反省することもあります。

素直に勉強になる本も沢山ありますが、それは新しく興味を持った分野であったり、
比較的高額で厚みがあって読むのに時間のかかる本であったりします。

もちろん手軽な本でも勉強になるものはありますし、
専門書でもイライラしてくるものもあります。

読みながら気をつけているつもりなのは、
「自分の考えと同じような内容が書いてあると納得できる」ということには
ならないように意識する点です。

僕の場合、情報は全て客観的なものとして捉えようとする傾向がありますから
本に書かれている内容も一冊分だけではなくて、
他からの情報と照らし合わせるようにしながら読み進むことになります。

これは研究職をしていた頃の論文の読み方と似ています。
他の情報から作られる理論的な体系を、新しい情報が入るたびにアレンジする。
その際に、どうアレンジしても辻褄が合わないところがあれば
それは変なところがあるのではないか、と考え始めるわけです。

論文の場合は、雑誌に掲載されるまでの間に専門家からチェックが入りますから
そうした他の情報と矛盾するような結果に関してはシビアに判断されていきます。
筋が通らない話は十分に議論し尽くされていないと発表できないものなんです。

ところが本の場合は違います。
本に書かれている情報は、他で知られている内容との関係に関わらず
著者自身の考えを述べてしまっているケースが多いように思います。

編集者は読みやすさや論理展開の構成や、売れるための工夫はしてくれるようですが、
本の内容に対する専門家ではありませんから著者の考えをチェックすることはできません。
その分野の専門家が見れば明らかに間違った情報であっても見逃される可能性があります。

実用書は専門家が書くわけですし、専門書の中には
別の専門家に内容をチェックしてもらってから出版に至るものもあるそうですから、
そうした本では矛盾点や明らかな間違いというのは少ないかと思います。

それがビジネス書や自己啓発書となると話は別です。
正解や根拠を明確にしずらい分野なのでしょう。
著者の体験談や個人的な考え、誰かが言っていた話の引用などが増えてきます。

そうすると、僕が読んでいて納得できないものが出てくるようなんです。


「納得できない」「おかしなことを言っている」と感じるのは
色々なケースであることですが、頻繁に不満を覚えるのは矛盾を感じるときです。

著者が語っていることが、一冊の本の中で辻褄の合わないことであったり、
論理的な飛躍が大き過ぎたりすると、納得できない気持ちが沸いてきます。

「どうして、そう言えるんだ?」と思うんです。

この気持ちの裏には何かを学び取りたいという想いがあるような気がします。
何かを得たいという気持ちがあるんです。

日常のコミュニケーションでは、相手の話を聞きながら
積極に勉強しようというモードにはなりません。
結果的に勉強になることはあっても、意識的に学び取りにいく時とは違う印象があります。

本を読むときやセミナーを受けるときは、自分から学び取りにいく姿勢があるようです。
納得したい気持ちがあるんです。
自分の世界の中に取り込みたいと思っているんでしょう。

一方、日常会話では相手の話を聞いてはいても、
自分の世界に取り入れようとはしていません。
相手の話は相手の世界のものだと分けているところがあります。

相手に何が起きて、どのように感じていたか。
その内容を納得できるまでに必要な情報が欲しくて質問させてもらうことはありますが、
それは相手の世界を知りたいと思うから出てくる行為だと思います。

相手の話を、相手の世界として理解しようとするという感じでしょうか。
相手の話の内容に肉付けをしていって、相手の世界を作り上げるイメージです。

相手の話を自分の世界に照らし合わせる作業は出てきません。
「自分だったら、こうするのに…」とか
「なんで、そんな風に思うんだろう?」とか、
「変なことを言うなぁ」とかは思わない癖があるようです。

むしろ、相手の話を聞いていて、相手が表現しているメッセージだけでは
どうしてそういう受け取り方になるのかが理解できないときに、
相手がそう感じるのも当然だと思えるように足りない情報を聞くんです。

どういう状況だったのかを明確にして、
どういう思いがあったのかを把握していく。
「なるほどね。そりゃ、そうだよね。」と思えるように質問をする感じです。

そこには客観的な一般論や、自分の世界観は関与しないようです。
相手の世界観では当然の内容が語られているんです。
それを理解するには、相手の世界観を理解する必要があると思います。


ちなみに、カウンセリングの時には少し事情が違います。
もっと積極的に相手を感じ取りにいきます。
クライアントの世界観、つまりクライアントが困る理由を把握するよりも先に、
クライアントが感じている気持ちを受け取るほうが先です。

クライアントの世界観を把握していなくても、
それはクライアントが分かっていれば、本人が方向性を決められます。

クライアントの世界観に入り込んでしまっては、一緒に困ってしまうだけです。
気持ちを感じ取りながら、必要なお手伝いを選択する立場だということです。
そこには、一般論からの視点が役立つ場合もあるんです。

カウンセリングやコーチングという特殊なコミュニケーション形態では
相手の現状から望ましい方向へ変化していくことが前提です。
ですから相手の世界観だけで話を聞くことはありません。

相手の世界を尊重しながら進行はしていきますが、
相手の世界そのものに入り込んでいるだけではないわけです。

むしろ、日常のコミュニケーションのほうが
相手の世界を尊重する度合いが高いと思います。

日常のコミュニケーションで相手の変化に関わる必要はないからです。

相手が、相手自身の世界観から発しているメッセージに対して、
世間一般の視点や自分自身の世界観からの視点を差し挟む必要はないと思うんです。

相手の話を聞きながら矛盾があるとか、辻褄が合わないとか、
納得ができないとか、そういう不満を持つことはありません。

当然、日常生活で不満を感じる場面はありますが、
話の内容に納得できないことで不満になるわけではないということです。


本を読むときは事情が違うんです。

本を読む作業は、自分の世界に相手の情報を取り込もうとする作業です。
日常のコミュニケーションで話を聞く時とは別の状態なんです。

主体は自分の世界。
本の情報を取り込んで、自分の一部にしていきたいわけです。

分かっていることを読むとき、知っていることを読むときは
自分の世界の中に別の言葉が追加されていく感じです。

知らなかったこと、新しい情報を取り入れていくときは
自分の世界の中の余白が埋められていく感じなんです。

反発が生まれるのは、自分の中に取り込むと矛盾が生まれる内容です。
新しいことに反発があるわけではなく、自分の中の全体として
整合性が取れなくなってしまう部分に反発があるんです。

本で学んでいる情報のほうが整合性が取れて
全体をより良いものにしてくれそうであれば、
今まで自分の中にあったものの中から矛盾の生まれる部分を捨てることになります。
その作業には抵抗がありません。

自分の世界を崩されるのに反発があるのではなく、
取り入れようとしている情報自体が崩れてしまう印象なんです。

「他の理論や別の事例だと説明がつかなくなってしまいますよ」
「それだけでは十分な理由になっていませんよ」
という具合に反論が出てきてしまいます。

本の内容と議論をしているわけです。

議論をした結果、「やっぱりそうだよね」と同意することもあります。
これは自分と同じ考えを別の言葉で書かれた本を読んだ場合でしょう。

議論の結果、「なるほど、そういう考えか」と納得することもあります。
自分の世界に新しい視点が加わって、世界が修正されます。
良い本に出会ったと感じる場合です。

議論にならず、「はぁ、そういうものか」と知識を得ることもあります。
自分の知らない分野、新しい知識を得られる本を読んだ場合は、こうなります。

議論の結果、「それは、おかしいんじゃないの?」と不満になることもあります。
他の情報との関連が説明できないような内容に対しては納得できません。
反論の結果、僕の中で本の内容が否決されてしまいます。
残念な気持ちになる場合です。

鵜呑みにする危険が少なくなってきたとも言えるし、
謙虚さがなくなってきたとも言えるかもしれません。

ただ、こうした不満が増えてくると、
読む本の傾向が変わってくるような予感もあったりします。

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
おしらせ
 ◆ セミナー情報 

New!

《コミュニケーション講座》
 〜人を育てる指導力〜

【日時】 
  2019年6月16日(日)
   10:00〜16:30


【場所】 
  北とぴあ 601会議室

   JR王子駅より2分
   南北線王子駅直結

詳細はこちら>>


《瞑想講座》

【日時】 
  2019年6月22日(土)

  午後の部 13:30〜16:30
  夜間の部 18:00〜21:00

【場所】 
  北とぴあ 第2和室

   JR王子駅より2分
   南北線王子駅直結

詳細はこちら>>


《怒りの取り扱いマニュアル》
 〜期待の手放し方と
  ゆるしの技法〜


【日時】 
  2019年7月6日(土)
     7月7日(日)
   10:00〜18:30


【場所】 
  滝野川会館

   JR上中里駅より7分
   JR駒込駅より10分
   南北線西ヶ原駅より7分

詳細はこちら>>
次回未定


 ◆ 過去の講座 

《新カウンセリング講座》
 〜まとめと実践〜


当時の内容はこちら>>


《勉強会》 

【テーマ】 変化の流れを考える

当時の内容はこちら>>
次回は未定



 ◆ お問い合わせ 
  技術向上、
  コンサルティング、
  スーパーバイズ、
  執筆・講演…

  諸々のお問い合わせはこちらへ>>



ホームページ
バナー1


プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
Archives
最近のコメント
QRコード
QRコード