2009年05月30日

不平等ということ

「noblesse oblige(ノブレス・オブリージュ)」という考え方があります。
貴族などの裕福な立場の人が持つ精神的、社会的な義務のことです。

イギリスでは現在でも浸透している考え方だそうですし、
アメリカで言えば、いわゆる成功者と呼ばれる人たちが
ボランティアをすることを当然としているのも、これに当たると思われます。

個人的な満足のために富を求めるのではなく、
影響力のある立場の人間として社会貢献を意識するということでしょう。

ルネサンス期で考えてみれば、芸術家に対するパトロンの立場も
ある意味ではノブレス・オブリージュの部分があったのかもしれません。

売れない画家を画商が発掘して支援していくのには
ビジネスとしての観点も含まれているでしょうし、
芸術家を支援したパトロンも個人的な欲求から来るところもあったかもしれませんが、
芸術に対する想いというのは、どこか尊いものがあるような気がします。

優れた作品を世の中に残していく。
そのために芸術家を支援する。
そういうスタンスも、1つのノブレス・オブリージュではないでしょうか。


現代に目をやっても、企業の社会貢献というスタンスは
私利私欲を超えたノブレス・オブリージュの側面を持つのかもしれません。

ビジネスとして個人の利益や欲求を追い求めるのではなく、
社会に対して富を還元していくという姿勢。
それは社会的責任の上に成り立っているようです。

最近では企業のミッションなどを明確に打ち立てることが流行っているようで、
インターネット広告から企業のホームページへランダムに行ってみても
そのホームページ上にミッションが書かれていることは少なくありません。

それが企業としての社会貢献を意識しているのか、
そのような考えを元に経営していくことを学んだから、そうしているのか、
その辺りのことは僕には分かりません。

ただ、大切なのは、この「貢献しよう」という姿勢が
どこから来たものであるのかということだと思うんです。

最初から企業としての「あるべき姿」を描きながら進めていくのは
方針として素晴らしいことなのでしょうが、
その「あるべき姿」を本心から望んでいるかが重要な気がします。

本当は、単純に利益を求めていて、経済的な成功に関心がある。
本当は、誰かから評価されることを求めていて、社会的な地位に関心がある。
本当は、自分が好きなことをしたいだけで、他人には興味がない。

そういう本心があるのは当然のことだと思います。
そして、それは大切な原動力になっているはずです。

もちろん、そのことを大っぴらにアピールするのは悪い印象を与えかねませんが、
その気持ちに嘘をつく必要はないと思うわけです。


そもそも「貢献」という気持ちには、通常では、なかなか辿り着けない気がします。

そこには当事者としての不平等感があるように思うんです。
不平等感という言葉は僕の印象を言語化したものですから
人によって表現の仕方は変わってくるでしょう。

「世の中は決して平等ではない」ことを意識しているというか。

例えば、死線を乗り越えた人というのは大きな変化をすることが多いようです。
自分が生きていること自体に感謝ができるようになるのかもしれません。

同じような境遇にある人が他にもいて、その中で自分だけは生き残れた。
そんな経験があれば自分の存在に対する見方が変わるのも当然でしょう。

僕の近くには事故や病気で若くして亡くなった人が数人います。
それは僕にとって非常に衝撃的な出来事でした。
悔しさに近い怒りを抱えていた時期もありました。

その人の分までという傲慢さはないけれど、
僕の中で「真剣さ」という価値観が高まったのには影響があると思います。

世界中の誰であれ、どのような状況であれ、
自分が「今の自分」として生きていることは当たり前ではないわけです。

この時代の、この国の、この地域の、この家族で生まれ育ち、
このような体を持ち、このような現在を生きている自分。
それは唯一の存在であって、それは平等ではないんです。

全ての人がユニークな存在で、全ての人が素晴らしいという
オンリーワンの考え方も大切なことだと思います。
優劣ではなく、皆が価値のある存在だという考え方は素晴らしいものでしょう。

でも、そのユニークな存在は平等ではないんです。

それは優劣を表現したいのではありません。
それぞれが違っていて、生まれたときから差があるということです。

運命や前世などを信じる人からすれば、
「今回は、こういう自分だ」と思えるのかもしれませんが、
どんな自分であっても、それが他人とは違う存在であることは同じのはずです。

むしろ、生まれる前から決まっていることや
生まれ変わっても続いていくことがあるなら、
その存在が平等ではないことは、さらに顕著になる気がします。


自分が自分であることは、すでに平等ではない。
その感じを実感するというのは、逆に言えば
自分が自分であることを感謝できる状態ではないでしょうか。

 自分が、今のこのタイミングで、今の自分として生まれてきた。
 自分にできること、自分の持っているもの。
 それは自分にとって偶然に与えられた不平等なものだ。

その自分を認められて、それに心の底から感謝ができたとき、
自分だけが持っている何かを、他の人のために使おうとするんじゃないか。
そんなことを思うわけです。

貴族というのは、まさに生まれたときから不平等に裕福な存在です。
それは当然のことではありません。

もともとのノブレス・オブリージュは、もしかしたら
その不平等に気づき、感謝できた誰かが始めたことだったのかもしれません。

裕福な立場だから社会に貢献するのが当然だ、というスタンスは
自分が裕福な立場でいられることへの感謝とは少し違う印象を受けます。

アメリカには、大学の奨学金などを含めて
成功した先達が後進の育成を支援する文化があるようですが、
それも本来は文化とは違うところから来ていたものじゃないかと思います。
日本人的な表現にすれば「恩返し」に近い感じだったかもしれません。

企業のミッションというのも同様だと感じます。

最初は個人の満足のためで良いと思うんです。
いつか満たされてきたとき、そんな自分の不平等に感謝できるようになり、
自分以外の存在としての社会に対して影響を考えたくなる。

貢献は自分の存在への感謝から始まるということです。

その意味では、全ての人は不平等に「恵まれている」とも考えられます。
オンリーワンで、違った恵まれ方をしているという考え方です。

それは「自分は自分のままでいいんだ」という受容的なスタンスよりも
ずっと積極的な姿勢かもしれません。

全員が「自分で良かった」と思えるだけの何かを持っているのかもしれません。
その人の人生には、他にはない魅力があるのかもしれません。

他人は皆、うらやましく思えて、
同時に自分で良かったと思える。

なんだか、大勢で食事に行った時に似ている気がします。
 「あ、それ美味しそうだね。良いなぁ、それも食べたいなぁ。
  うん。でも、やっぱり、これ美味しいよ。」

cozyharada at 05:11│Comments(0)TrackBack(0)clip!全般 | NLP

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
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