2009年09月30日

コッソリの美学

「コミックバンチ」に連載されているマンガに『コンシェルジュ』というのがあります。
ホテルのコンシエルジュの活躍を描いた内容です。

その主人公は、海外の有名ホテルで伝説のコンシエルジュとして知られていた人物で、
彼が日本のホテルにやってきて、そこで色々な難題に応えていくのが毎回のパターン。

僕自身、最近は読む機会が減ってきてしまっていますが、
一時期は、かなり気に入って読み込んでいました。

そんな中で僕の印象に残っているのが、
主人公が部下の新米コンシエルジュに語りかけるシーン。
正確な言い回しではありませんが、こんな内容のセリフでした。

 最高のサービスというのは、お客様から言われる前にするものです。
 そして、お客様はサービスされたことにすら気づかれない。
 そういうサービスが理想です。

というような内容が印象に残る時点で、僕の美意識とマッチしているんだと思いますが、
サービス業で、この方向に努力できる人というのは多くない気がします。

過剰にお客様を喜ばせようと努力する方向に行ってしまうケースは目にしますが、
それが全てではないし、それが好きではない人もいるはずです。

ビジネスとして考えた場合には、特徴を明確に打ち出しているわけですから、
とにかくお客様を喜ばせよう・驚かせようと大袈裟にサービスする方向性は
特定のファンを作ることができてメリットになるとは思います。

でも、それは満足してもらえるかという観点からは
リスクを伴う行為だとも考えられるわけです。

驚きや予想外の喜びを感じてもらうようなサービスは、
そのお客様の価値観にマッチすれば大きな感動を呼べるかもしれません。

その場合には、そのお客様が普段から意識しやすい価値観に触れているということです。
喜びが感じられるのは、本人が普段から大切だと意識しやすいことを
他人から満たしてもらった場合と考えられます。

例えば、車で店に行ったとき、店の人が駐車場に車を止めてくれたり、
帰るときには店の前に車が移動されてきていたり、
真冬であれば車の暖房がついて暖かい状態にしておいてくれたり…、
そんなタイプのサービスがあります。

至れり尽くせり、という感じにも聞こえますが、
これが嬉しい人と、そうでない人がいるような気がするんです。

どういう価値観にマッチすると嬉しいのかは僕には分かりません。
なぜなら僕は、その手のサービスが嬉しくないから。
むしろ嫌いだったりします。

今は車に乗らなくなりましたが、僕が山口にいたころは車を持っていましたから、
その時のことを思い出してみても、やっぱりそんなサービスは不愉快です。

僕にとって、車は1つの生活圏で、大事なものなわけです。
「誰か別の人が運転して車をぶつけられたら…」という不安がないでもありませんが、
それ以上に勝手に許可もなく自分の車を動かされることに抵抗があります。

自分のいないときに、見ず知らずの誰かが自宅に入って、
勝手に家の中を掃除されてしまったような、そんな気分。

まして、車の座席の位置なんかを動かされてしまった場合には
もう違和感があって余計に不愉快になると思います。


ホテルで荷物を部屋に運んでもらうのも、実は好きじゃありません。

盗まれるとかの心配はしていませんが、
どんな風に扱われるんだろうという疑念があるのは確かなところ。
ベースとして他人を信頼していないんでしょうか。

それもあるかもしれませんが、僕の場合は、
その人の荷物の扱い方を見たうえで安心するか不安になるかが決まります。

荷物の中にパソコンとかを入れていたら余計にそうです。
雑に扱われるぐらいなら自分でやりたい。

そんなときに一言、
「お荷物の中に壊れやすいものをお持ちですか?」
なんて確認してもらえたら、すごく安心できると思います。

もちろん、確認することなく丁寧に、慎重に
持物を扱っている様子が見て取れれば僕は嬉しいでしょう。

こういったことは、何か特別な喜ばしいことを大袈裟にやってもらうよりも
不快な気分を感じさせないというサービスと言えるかもしれません。

他の所ではやってくれないような特別扱いのサービスも嬉しいでしょうが、
とても高度に当たり前のことをやってくれるサービスも大切だと思います。

人によって当たり前の基準が違うわけですから、
多くの人の当たり前を満たすことは大変な作業です。

しかも当たり前のことは普段から意識されやすいものではありません。
やってもらって当然と感じられる場合だって多いでしょう。

当たり前のことは、それがなされていなかったときに
始めて意識に上って、不快感として認識されます。

喜びを感じる場合とは逆に、普段はあまり意識されにくい価値観や信条が
他の誰かの行動によって妨げられたときに自覚されるわけです。
本人が望んでいることにさえ気づいていないものです。

そこを満たすことも大切なサービスじゃないかという話です。


誰から聞いたかは忘れましたが、
「〜しない優しさ」という表現を使っている人がいました。

「〜する優しさ」だけではなく、「〜しない優しさ」もある、と。
相手が嫌な気持ちになるようなことはしないのも優しさだという説明でした。

LABプロファイルというタイプ分けには
「目的志向型」と「問題回避型」という両極の分類がありますが、
その説明に当てはめると、問題回避型のサービスや優しさもあるだろうということです。

それが好きな人が問題回避型かといえば、必ずしもそうではないでしょう。
単純にリスクを回避しているわけではないと思います。

相手が心の奥底で望んでいることを、より多く気づき、それを満たしていく。
その作業は、相手のことをよく見ていないと難しい気がします。

「こんな風にしたら喜んでもらえるだろう」という発想は
相手のことを知らなくても生み出せます。

多くの人が喜びを感じるポイントには共通点もありますし、
1つの工夫が大きなプラスの評価に繋がることもあるでしょう。

「自分はこんな風にしてもらったら嬉しい」と感じる内容をやっていけば、
自分と同じような価値観を持った人たちが喜んでくれて、
そういう人たちがファンとして集まってきてくれるかもしれません。

それと比べると、不快感を感じさせない工夫というのは地味なものです。
プラスに感じられることは少ないわけですから。

何よりも相手に気づかれることもありません。
喜んでもらうことも少ないでしょう。

しかしながら、マイナス要因のない環境には
どこか居心地の良さが感じられるものじゃないでしょうか。

そういうところには自然と人が集まるような気がします。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
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