2010年08月21日

文字の描写と頭の中の描写

先日、久しぶりに会った知人から一冊の本を貰いました。
推理小説。
ミステリーっていうんでしょうか。

僕は普段、めったに小説を読まないので
一番最近の小説は、『ダ・ヴィンチ・コード』が文庫になった時に
他人から勧められたために読んだというものです。

ですから、何かの情報を得る目的とは違う本の読み方には馴染みが薄い。

ただ、その本は読みやすく、サラサラと最後まで一気に読むことができました。
なんでも結構、有名な本だそうで、映画化もされたという話でした。


ほとんど読まないミステリーのジャンルですから
なんとも感想を表現しにくいんですが、いくつか気づいたことがありました。

そのうちの1つは、小説という形態だからこそ可能になる
トリックというかドンデン返しというか、読者を驚かせるポイントがあったんです。

もちろん全ての小説で、そんな手法を使うわけはないでしょうし、
その小説を有名にした部分が、多分、その「小説ならではの特徴」
を活かした盲点のつきかただったんじゃないかと思います。

小説の大きな特徴は、全てが文章だけで描かれる世界であるということ。
様々な描写の技法を使って、物語の世界が描かれていくわけですが
その世界に描かれる具体的な内容は、読者自身の作りだす想像の世界です。

文章が想起させるイメージで物語の世界が作られていくんです。

もちろん、たとえば「夕日が沈みかけている細い路地をアパートに向かって」
なんていうレベルの具体的な情報はあります。
が、「夕日」で思い浮かぶ映像は、人によって個人差があるはずです。

人物の顔も、人物の姿かたちも、場面の背景も、
何もかも読者自身が映像として作りだす作業を要求します。

映画やマンガだと、作者の側が映像情報を提供しているわけですが、
それが一切ないのが小説の特徴です。


また、ラジオドラマやCDなどの音声教材の類も映像を含みません。
誰かの講演の模様を音声で聞いたり、有名なスピーチを聞いたりはできますが、
そのときの場面は、これまた分からないわけです。

勝手に想像しながら聞くことになるかもしれません。

それよりは、小説のほうが場面の描写をする必要性が高いですから、
積極的に映像情報を言語化したものが含まれていて、
それをベースにイメージを作るのが容易でしょう。

ただ、小説は音声情報とも違って、声や効果音を聞くこともできません。
登場人物の話し声、会話の声のトーン、その場にあるはずの音…、
音声の類もまた、全てを読者側が作り出すことを必要とします。

小説中には、音声に対する詳しい表現がなされることもありますが、
映像情報よりは、ずっと少ないような気がします。


こうした、映像と音声の全てを、読者側に想像させる部分。
これが小説を映画やマンガ、ラジオドラマなどと区別する大きな特徴でしょう。

で、僕が貰って読んだ小説は、この「映像と音声を勝手にイメージする性質」を
上手く利用して、そこで勝手に作られる思い込みの盲点をついて
予想外の展開に持っていく作業をしていたんです。

答えが分かって、それまでの流れを振り返ってみると
全ての表現の意味が全部変わってきて、それでも
辻褄があうようにはなっている。
「なるほど、そういうことだったのか」となったんです。

音声や映像が文字情報でしか提供されないことを活かして、
どの人物について話が進んでいるのかが勘違いされやすい部分がカギだったようです。

ところが、ここに映像や音声があったとしたら
どの人物について進んでいる話なのかが限定されやすくなります。

犯人のような人物がいたとして、その声が犯行現場のシーンで出ていたとしたら
以降の展開の中で登場する人物の声と照らし合わせることで
誰が犯人かが分かってしまうかもしれません。

小説の場合は、その可能性がない。

たとえば、以前、実際の社会的な事件として起きたように
殺人犯が小学生だったりした場合、そういう想像は一般的にしにくいものです。

ですから、「犯人」という言葉だけからすると
勝手に人は一般的な犯人像を描いてしまいやすい。

小説でそういうことがあった場合、最後の種明かしとして
「実は小学生だったんです」となると驚きが得られるわけです。

もし、そのときに声や映像がハッキリと読者に捉えられていたとしたら
「なんだ、小学生の声じゃん」
ということで面白さが減ってしまいます。

ミステリードラマなどの場合は、きっと人物を写さない、声も聞かせないことで
そうした効果を狙うんでしょうが、
小説の場合には、その性質を利用して大胆に予想を覆せるようです。


ただ、僕として不愉快になるのは、
もし「犯人が小学生でした」みたいなことになったとき、
それまで犯人の姿や声に当てはめていたイメージが
一気に間違いだったことに気づき、壊さなくてはいけないことです。

頭の中に作ってきたものを一度壊さなくてはいけない。
この作業はキツイ。

「なんだ、そうだったんだ」という驚きもありますが、
それ以上に、勝手に作ってしまっていたものを
本一冊分の情報として作り替える作業は大変です。

もしかすると、あまり映像を作らないで読んだほうが
素直に驚きを楽しめるのかもしれません。

映画で似たようなことがあれば、
ずっと映っていなかった犯人の姿が初めて画面に出たとき
小学生だったというだけですから、
何も無いところに映像を追加する作業なので負荷はありません。

でも、小説の場合、それを作ってしまいやすいので
すでにあるものを書き換える必要が出てくる。

ちょっとここは僕には厳しいところです。

小説好きな人というのは、頭の中でしている作業が
僕とは違っているんだろうと思います。

きっと小説を楽しむための読み方があるんでしょう。

それが分かるまで、小説好きにはならなそうな気がします。

cozyharada at 23:36│Comments(0)TrackBack(0)clip!NLP | 全般

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
おしらせ
 ◆ セミナー情報 

New!

《コミュニケーション講座》
 〜人を育てる指導力〜

【日時】 
  2019年6月16日(日)
   10:00〜16:30


【場所】 
  北とぴあ 601会議室

   JR王子駅より2分
   南北線王子駅直結

詳細はこちら>>


《瞑想講座》

【日時】 
  2019年6月22日(土)

  午後の部 13:30〜16:30
  夜間の部 18:00〜21:00

【場所】 
  北とぴあ 第2和室

   JR王子駅より2分
   南北線王子駅直結

詳細はこちら>>


《怒りの取り扱いマニュアル》
 〜期待の手放し方と
  ゆるしの技法〜


【日時】 
  2019年7月6日(土)
     7月7日(日)
   10:00〜18:30


【場所】 
  滝野川会館

   JR上中里駅より7分
   JR駒込駅より10分
   南北線西ヶ原駅より7分

詳細はこちら>>
次回未定


 ◆ 過去の講座 

《新カウンセリング講座》
 〜まとめと実践〜


当時の内容はこちら>>


《勉強会》 

【テーマ】 変化の流れを考える

当時の内容はこちら>>
次回は未定



 ◆ お問い合わせ 
  技術向上、
  コンサルティング、
  スーパーバイズ、
  執筆・講演…

  諸々のお問い合わせはこちらへ>>



ホームページ
バナー1


プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
Archives
最近のコメント
QRコード
QRコード