2010年09月12日

「仕方ない」の気持ち

日本語では、頻繁に「仕方ない」という言葉が出てくると思います。
使いどころが多くて便利ですが、同時に、とても日本人的な発想のようです。

英語の辞書で「仕方ない」を調べようとすると、色々な表現が出てきます。


I have no choice. (他に選択肢はない)

It can't be helped. (助けようがない、手の打ちようがない)

There was no avoiding it. (避けることはできなかった)

It can't be avoided. (避けられない)

These things just happen. (こういうことは起こるものだ)

It's natural. (当然だ)


どれも微妙にニュアンスが違うような気もしますし、
たしかにそういう意味合いで「仕方ない」という時もあります。

が、いずれの言葉の後にも「だから、しかたない」と言葉が続けられますから、
その意味では、どれも正確な訳ではないと思うんです。


僕の印象では、「あきらめ」とセットになっているような印象がありますが、
またこの「あきらめる」というのも英語ではニュアンスが変わるようです。

「あきらめる」というときには「断念する」感じや
「無理だと判断して、やめる」という感じもあれば、
「受け入れる」感じもあると思います。

断念や、無理だと判断するほうの「あきらめる」は「 give up 」に近いようですが、
受け入れるのに近いほうは、「仕方ない」の気分が伴うので
上に挙げたような言い回しになるのかもしれません。


「仕方がない」対象は状況であるにもかかわらず、
そこに「受け入れ」に近い「あきらめる」内面的な状態を伴っていて、
表現として気分を語る言い回しになっているのが特徴的だと思います。

同じような状況に遭遇することは日本人でも英語圏の人でもあるでしょうが、
そのときに、何を表現する言葉を使うかが違うわけです。

日本人は、そこで自分の状態を表わす言い回しを使う。
「仕方ない」と。

細かく言えば、「仕方ない」は物や状況につく言葉ですから
「仕方ない」場面など、状況を説明する言葉なのかもしれません。

ただ、状況を「仕方ない」と判断している気持ちをベースにして
その自分の気持ちを含む状態全部を一言で「仕方ない」状態として説明しています。

それに比べて、英語の場合は、外の状況を意識している度合いが
もっと高いように感じられます。

自分の内面的な気分を述べるよりも、外側の状況を述べるという印象。
そして、外側の状況に対して何らかの作用をもたらす雰囲気もあります。
アクティブな感じです。

影響を与えてくる主体があって、その主体との作用を表現するとでも言いましょうか。
別の言い方をすれば、英語のほうが「動画っぽい」んです。
日本語は「静止画っぽい」。


自分という存在と、体の外側にある状況とが別の存在として切り分けられていて
その間で及ぼし合う力と影響が、動きを伴って表現されるのが、英語。

自分という存在と、体の外側にある状況とが切り分けられておらず、
自分と外側の区別が弱いために、そもそも「自分」が意識される度合いが弱い。
そのため、自分の内面から周りに起きている全ての状況まで、ひっくるめて捉え
それを動きのない状態や性質として表現するのが、日本語。

日本語で主語が省略されやすいのは、動きや力が影響を及ぼす様子を捉えておらず
全体的な状況を一場面として捉える傾向があることと関係していると考えられます。

それは何かの動作を表現するときにも
「〜する」ではなく「〜している」という言い回しを
よく使うことと関係していると思います。

「関係する」ではなく「関係している」なんです。

「私は毎日、学校に行きます」じゃなくて
「私は毎日、学校に行っています」。

「〜している」は、間違っても英訳したときに、現在進行形ではありません。
進行形は、もっと動作の感じが強い。
動画が強調されているんです。

日本語で良く使われる「〜している」は、英訳すると
「 be 動詞 + 形容詞」のような感じじゃないかと思います。

「 It rains. 」と「 It is rainy. 」の違いです。
英語で自然なのは前者で、日本語で自然なのは後者。

このような、動作の主体が、周囲の状況に影響を及ぼしている関係性を
動画のようにイメージして、それを言語に変えていかないと
なかなか自然な英語は使いこなせないのではないかと考えています。

「仕方ない」というのは、まさに
自分の内面の気分と周囲の状況が一続きになって捉えられていて
それを一場面の状態として表現する言葉じゃないでしょうか。

状態を感じて言語として表現する日本語の特徴は、たとえば
温泉につかって、ゆったりとした時間を味わっているような
穏やかな幸福感が、文化的に根付いていることとも関係する気がします。

逆に、何かを成し遂げた達成感のように、
短期的にピークが実感されるような幸福感が、英語圏では文化的に根付いていて、
それが動きや影響を伴う躍動的な表現とも関係しているかもしれません。

農耕民族の長期的な時間の流れの感覚と、
狩猟民族の短期的な時間の流れの感覚の違いにも思えます。

実りの時期を迎えているときの豊かな気持ちは長続きしますが、
狩猟に成功したときの達成感は、一瞬に喜びが集中します。

そんなことを考えていると、帰国子女のバイリンガルが
日本語を話すときよりも、英語を話すときに、
荒々しい感じが出てくるように見えるのも、納得できるようです。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
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