2010年10月01日

個人差を分解する

僕は化学(特に生物化学)をやっていたせいもあってか、
あるいは、そもそもそういう発想が好きだったから生物化学に進んだのか、
いずれにせよ自分の中には最小構成要素を探っていく発想が根付いています。

物事を説明するときに、細かい要素同士の関係性や相互作用から見ていく。
傾向や統計的な見方をするよりも、全てに共通する最小要素を見ようとするのでしょう。

例えば、心理学で有名な「フット・イン・ザ・ドア」と呼ばれる
「一度簡単な頼みごとを引きうけると、次の頼みごとも引き受けやすくなる」
というのは、明らかに人間全般の傾向を法則として見出そうとする方向性です。

一般に心理学は、こちらの方向に進みやすい。
人間とは、こういうもの、と。
法則を見出し、その法則が統計的に正しいと言えそうかどうかを調べるために実験する。

この場合、人間関係で作られる状況があります。
頼みごとをする人がいて、頼みごとの内容があって、
どんな場所、時間に頼みごとをしているかという設定がある。

そういう場面設定の中で、人がどのように振る舞うかを見るわけです。
つまり場面設定という関係性の中で、構成要素としての人間の振る舞いを考えるんです。

もちろん、人間の構成要素として「心」というものを想像してはいるでしょうが、
心という構成要素が他の要素(たとえば体とか理性とか)と
どのように作用しているかは考慮に入れていないので、その意味では
「心」を要素として捉えているとは言い難いところがあります。

要素としての単位を見たときには、「心」でも「人間」でも
説明内容には差が出てこないだろうということです。

ここで、「社会」という全体状況と、構成要素としての「人間」を見たとしたら
それは社会心理学になるのでしょうし、
「犯罪」という状況と、構成要素としての「人間」を考えたら
「犯罪心理学」ということになるのでしょう。


一方、心理療法家の中には、一人ひとりの相手を別の存在として捉え、
「人間」という単位で法則を見出そうとしたがらない人たちもいたようです。

目の前の相手を他の人間とは別の個人として見ていく。
そうすると、一人ひとりの違いを説明するための
「違いを生み出している要素」が気になり始めます。

それをある人は無意識で説明しようとし、ある人は親との関係で説明しようとし、
またある人はビリーフで説明しようとした。

自分が目の前の個人を理解するときの発想として使っている要素を、
個人の違いを生み出す要素として見るようになっていく、ということです。

もちろん、そのレベルで個人の中身を調べようとしても
やはり全体的な傾向が見えてくるものです。

「こういう親に育てられると、こういう振る舞いをする人間に育つ」とか
「こういう考え方を持っていると、こういう悩みを持つようになる」とか。

要素に分解して個人を見ようとしても、
そのレベルでの法則を見出したくなる人がいるのでしょう。

ミルトン・エリクソンの本を読んでいると、エリクソンが
そうした法則へ当てはめて人を理解するスタンスを
かなり嫌っていた様子が色々な逸話を通して感じられます。
実際に弟子に対して注意しているものもあります。


そして、化学の目線にまで要素を細かくしていけば
人間もまた原子の組み合わせで出来ているわけですし、
素粒子物理の視点に立てば、もっともっと細かくみることもできます。

ただ、そこまで細かく見ていくと、
人間の振る舞いを理解するにはチョット遠すぎるんです。

もっと言うと、多くの人の細胞を構成する単位は共通していますし
(濃度や量の違いはあるでしょうが、物質の種類としては同じものが使われている)、
生物活動の基本的な仕組みもまた共通しています。

であれば、個人差を理解するときには
細胞を構成する原子の話から始めなくても大丈夫だということになります。

差が生まれ始める段階から話を始めれば良い。

そのレベルで、最近は脳科学に注目が集まっていますが、
違いが生まれ始める段階から理解を始めようとしても
現状のサイエンスでは人間の振る舞いを理解するには、
まだまだ分からないことが多いようです。

とすると、逆の発想として、人間の振る舞いを決めている要素を細かく分解して
振る舞いに影響を与える最小要素を探す、という流れも考えられます。

錬金術の時代に、火とか水とか土とか言っていたものが
実際には更に細かい要素に分解できて、そこに元素という発想が生まれた。

物質の変化、いわゆる化学反応を説明するには
それから発達したイオンや電子で話をすると大部分がスッキリします。
素粒子のレベルまで細かく話さなくても大半の化学反応の話は出来るんです。

細かく分解して要素を調べていきながら、
 ここまで細かい要素が見つかれば説明には十分だ
というレベルを見つけるということです。

人間の振る舞いを決める要因を分解して整理していく。
その結果として見つかる要因は、極めてシンプルになります。

元素の話と化学反応の仕組みを理解すれば
中学生でも基本的な化学の実験ができたように、
人間の心とか振る舞いとかも、基本的な構成要素のレベルで見られると
多くの状況に対応しやすくなるはずです。

そして、人間を理解する上で、ここまで細かくすれば十分というレベルの要素が
NLPでいうところのサブモダリティやアンカーなんです。

視覚でとらえるサブモダリティとしては「大きさ」や「形」なんていうのがありますが、
それを構成する要素は、更に細かく見れば「色」と「明るさ」の相対的な「位置関係」です。
「色」や「明るさ」は「光の波長」と「エネルギーの強さ」に対応します。

ただ、人の振る舞いを理解するのには、そこまでの細かさはなくても大丈夫なことが多い。

なので、いわゆるサブモダリティという単位まで細かくしておけば
十分だろうと考えられるわけです。

個人差を生み出すのに必要十分な最小単位で発想をしていくわけですから
当然、一人ひとりを別の個人として見ていくことがしやすいはずです。

わざわざ「人は皆違う」ことを強調する必要すらなくなると思います。

理論に当てはめて考えるよりも、
要素に分解して理解しようとする姿勢のほうが、
目の前の人に意識を向ける量は、はるかに多くなる気がします。

それは個人を、より正確に理解するための視点になると思うんです。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
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