2011年03月30日

ネイチャー vs ナーチャー

古典的な心理学関係の英語で良く使われる言い回しに
nature vs nurture
というものがあります。

「 nature 」には「自然」の意味の他にも、
「生まれついての特徴」というニュアンスで使われることがあります。

「 nurture 」は「養育」。

つまり、「生まれつき」か「育ち」か、ということ。

人の性格は「生まれつき」のものなのか、
「育った環境によって決まる」ものなのか、という議論がなされてきたわけです。

多くの心理臨床でも、自己啓発系の内容でも、NLPでも、
環境からの刺激に対する反応の仕方を学習してきた経験が
その人らしさを形作る、という見方が主流なようです。

生育歴で獲得してきた生き方の基本になる部分を
「ビリーフ・システム」と呼んだり、「プログラム」と呼んだりします。

心理系の人は、この環境要因の重要性に意識が向きやすいようです。
トラウマがビリーフを作って…云々と。

確かに、具体的な特定の状況に対する反応の仕方は
学習によって作られるものが多いはずです。

恐怖症などは典型例です。
犬にかまれてから犬が恐い、とか。

何かの刺激に対して、反応として生まれる生理状態が一緒に記憶される。
こういう仕組みで人の振る舞いを見ていくと、
学習された条件付けが「プログラム」と呼べるわけです。


一方、「性格」といったときには、その人の人生全般における振る舞いの傾向が出て
特定の状況に依存するということが少なくなります。
「積極的な性格」となると、「新しい体験に興味を持ちやすく
その行動を起こすのも速い」などの行動パターンが注目されます。

「性格」と言ったときには、刺激の結果として生まれる反応パターンではなく、
状況に関係なく起きている生理状態に注目が集まります。

僕は人をビリーフで見ていくのが好きではありませんが、
それは抽象度が高過ぎるところにも理由があります。
状況との関係が薄れてくる分、プログラムとしての側面が判別しにくい。

しかも、感情や気持ち、内面と呼ばれるものが
その人の体の中に起きる生理反応と密接に関わっているとしたら、
ホルモンの作られ方や血流、心拍、代謝活性など、体に由来する要因で
内面の状態が変わりやすくなる可能性があるわけです。

よくテレビ番組などで、臓器移植をして性格や食べ物の好みがドナーに近づく、
というエピソードが紹介されていますが、これもある意味自然なことでしょう。

心臓が変われば標準的な血流の状態が激変します。
内分泌系と関係する臓器を移植すれば、ホルモンバランスも変わります。

普通に、特別なことをしていないで、ただ椅子に座っているだけでも、
臓器の影響で生理状態が変わるんです。

今までよりも強い心臓に変わったとしたら、全身に廻るエネルギーが高まり
活動的な雰囲気が出てくるかもしれません。

人は自分の血流や体温変化、心拍数や呼吸の状態も意識できますから
臓器の機能が変わったことで違いを自覚すれば、
今までと比べて「興奮している」とか「息苦しい」とか
そんな気持ちや状態の変化を感じても妥当だろうと思えます。

つまり、人の「性格」と呼ばれるような全般的な傾向には
その人が平均的な活動をしているときの標準的な生理状態が
大きく関わっていると考えられることになります。

ビリーフなど学習された反応の仕方以上に、
生理的な反応のあらわれ方が強く関係している可能性があるわけです。


「性格」の定義は難しいものの、「性格」が「生まれつき」のものなのか、
「育ちによって決まる」ものなのかの議論と研究は古くからなされています。

「性格」を、上に説明したように、「生理反応の起きやすさの傾向」と捉えると
「生まれつき」の影響が大きくなりそうにも思えます。

「生まれつき」ということは遺伝子によって決まっていて、
「育ちによって決まる」ということは環境の影響が大きい、という意味です。

実は、これに関しての研究がいくつか報告されているんです。

古く、かつインパクトのあった研究は、以下の通り。


 その研究のスタートは1966年。

 研究対象は一卵性双生児の女児、アミーとベス。
 遺伝子は100%同じです。

 その双子が、それぞれ別の家に養子に出されます。
 養子先には共通点もありますが、明確に違うところがありました。

 どちらもニューヨーク州にあるユダヤ系の家庭。
 母親は専業主婦。
 家族構成は、父、母、長男。それに養子できた娘が加わります。
 長男は、どちらの家庭でも7歳年上。

 それ以外の条件は大きく違います。
 
 アミーの家は、経済的に豊かとは言えず、
 母親は自信のない人で、養子にきた娘を面倒臭がり、のけもの扱いしました。
 父親も、娘に失望していて、アミーのことで母親を怒鳴ることが多い。
 兄(長男)は勉強の良くできる子供でした。

 こちらは全般的に、質素で伝統的な生活を好み、
 勉学での成功を良しとするような価値観の家庭だったといいます。
 
 研究者たちによると、この家庭では
 「幸せな三人家族と一人ぼっちの少女」
 という構図があったそうです。
 

 ベスが育ったもう一方の家は裕福でした。
 母親は、陽気で自信に満ちたアクティブな人で、
 養子にきた娘を可愛がっていました。
 父親はフレンドリーで面倒見の良い人物。
 こちらの兄は社会的に問題を起こすことが多かったこともあり、
 ベスが家族の中心のように扱われていたとのことです。


 
ニューヨーク大の教授によってなされたこの研究の目的は、そもそも、
遺伝子が同じ双子が、全く別の環境で育った時の様子を観察することでした。

教授自身の仮説は、「環境が性格を決める」というものだったので、
この実験で、それを示そうとしたわけです。

遺伝子が全く同じなので、性格の違いは環境によって決まるだろう、と。


 家庭の中で孤立をしていたアミーのほうは
 幼少期から問題とみなされる行動を多く取っていました。
 指しゃぶり、爪噛み、よく泣く、おねしょ、悪夢…。
 アミーは、内気な性格で、深刻な学習障害があり、
 いつまでも子供っぽいままだった、という報告です。
 典型的な「家族に拒絶された子供」の様相だった、と。


…この話を聞くと、環境が与えた影響が原因のように想像したくなるかもしれません。
少なくとも心理学系の発想は、そうなりやすいでしょう。

もし、アミーも違った家庭に引き取られていたら
違った性格になっていたんじゃないか。
そんな発想も予想されます。

ところが。

 もう一方の家庭に養子にいったベス。
 
 こちらもアミーと全く同じ振る舞いをしていたそうです。

 指しゃぶり、爪噛み、よく泣く、おねしょ、など。
 暗い性格で、学校では同級生との関係に苦しみました。
 他人の気持ちが分からなかったからと考えられ、
 これもアミーと同じだったとのことです。

 アミーが良く泣いたのは、寂しいときに母を求めてだったようですが、
 ベスはアミーよりも母と親密にいられたにも関わらず
 それでは満足せずに寂しがり、母を求めて良く泣いたといいます。


 
この結果は明らかに、遺伝子の影響が
環境の影響よりも強いことを示しているように思えます。

当の研究者本人も、予想に反する結果に驚きながら発表したそうです。
心理学分野では大きな転換点の1つかもしれません。

まぁ、この研究のケースでは双子がともに、
今なら発達障害と名づけられるような特徴をしめしているので、
遺伝的影響が強調されて表れた可能性も考慮する必要がありそうです。

ただ、その後の多くの研究も、「生まれつき」の要因の強さを示したそうですから、
「性格」や、基本となる「能力」などには、
「遺伝子」の影響が大きいというのは信憑性を感じます。

僕個人としては、「性格」を「個人にとって平均的な生理状態と
起こりやすい生理的変化の傾向」
と解釈していますから、
脳だけでなく体の影響も強いと考えます。

その意味では、どのような体の中身を作るかという遺伝子情報が
「性格」に影響を強く及ぼすのは納得のいくところです。


「ビリーフ」が生育過程で学習によって作られることを考えると
抽象的なビリーフが個人に影響を与える度合いには一層疑問が高まります。

ビリーフに対してアプローチをしていくよりも
生理的な状態がダイレクトに変わるような生活習慣を取り入れるほうが
心身の健康面には効果が大きいんじゃないかと思っています。

行動や反応の癖は「プログラム」として扱って変えることもできます。
ですが「性格」は、その人の持ち味です。

性格とかビリーフとか、抽象度の高い部分を意識するとしたら、
 自信を高める
ということに集約しても十分な気がします。

注目している人の特徴が、どんな仕組みで生まれているのか。
そこを想像したほうが、役立つ方法を増やせると思うんです。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
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