2011年10月22日

好みが合うかどうか

微生物の話の続きです。

微生物は色々な場所にいますが、それぞれ適した環境に住んでいます。
そして、その環境の中で生き残るために色々な手段を取っている。

この辺りの生存戦略は、なかなか面白いものです。


有名な「菌」に「大腸菌」がいます。
大腸菌は、文字通り大腸の中に潜んでいるものとしても知られますが、
そのシンプルな性質ゆえに、もっとも研究が進んでいる微生物でもあります。

大腸菌の特徴は、なんといっても、その生育の早さです。
酸素と栄養が十分にある状況では、圧倒的な速さで増えることができます。

なので、他の菌がいたとしても、他よりも早く生育することで
生存競争にも勝ち残りやすいでしょう。


同様に腸内細菌として知られるのが「乳酸菌」です。

乳酸菌は、他の菌よりも酸性条件に強い性質があります。
なので腸の中は酸性に保たれています。

一般に、他の菌の多くは酸性条件では生育できないので
酸性の条件で最も活発に働ける乳酸菌は、その条件で他よりも有利なわけです。

さらに、乳酸菌は「乳酸」と呼ばれる酸性物質を大量に作ります。
これによって周囲の環境を酸性にすることができるんです。

実際、『悪玉菌』などと呼ばれる類の菌の近くに乳酸菌を置くと、
乳酸菌が作る乳酸の作用で、悪玉菌がドンドンやれられていく様子が分かります。

乳酸菌は、自ら作り出した武器で他のヤツをやっつけながら
自分にとって最適な環境を自ら作り出していく戦略を取っていると言えます。


一方、腸内だけでなく、自然界の至る所にいるのが枯草菌です。
納豆菌は枯草菌の一種。

最大の特徴は、「胞子」という固くて丈夫な殻の中にこもって身を守れることでしょう。

もともと丈夫な性質を持った枯草菌は、他の菌が生きられないような高温でも
生育していくことが可能です。
高温条件では圧倒的に主流になる種類です。

そんな高温に強い枯草菌でも生きられないほどの高温になると
胞子と呼ばれる殻のようなものを作って、過酷な条件に耐えられるようになります。

この殻のようなものは、高温以外でも、過酷な条件ならいつでも作られます。
乾燥や、栄養不足のときにも胞子をつくって耐えるんです。

そして、生育に適した条件がやってくるまで、ずっと耐えていることができます。

枯草菌は過酷な条件を耐えることで、幅広い場所に潜むことができるわけです。


その他に変わった戦略を取っているのは、「酢酸菌」と呼ばれるグループです。
酢酸菌は総称で、もちろんその中に酢酸(お酢)を作るヤツもいます。

酢酸菌のグループは、全般に生育が遅いんです。
他の菌と一緒にいると、生育スピードで負けてしまう。

ですが、酢酸菌のグループは、他の菌に負けない特徴を持っています。

それは、栄養分を別の物に変換する能力の高さです。

酢酸菌のグループは、栄養が豊富にある環境を好みます。
しかし、栄養が豊富であれば、他の菌も生育に好都合。

そこで酢酸菌は、その栄養分を、他の菌が利用できない形に変換してしまうんです。
自分だけは、その作業によって少しだけエネルギーを得て、生育に使う。

栄養分を消費しても得られるエネルギーが少ないので生育は遅いんですが、
他の菌が利用できない形に栄養分を変換していくんです。
このスピードが非常に速い。

なので、他の菌が栄養分を使って生育しようとしていたとしても
圧倒的な速度で栄養分を別の形に変えてしまって、使えなくさせてしまいます。

生育の形で競争に勝つのではなく、栄養分の奪い合いだけに勝つことで
他よりも有利に生存しているというわけです。


その他で、人間にとって有名なのは酵母でしょうか。
イースト菌とも呼ばれますし、ビール酵母としても有名でしょう。

酵母は生存戦略という点では、比較的特徴がありません。
際立っていないのが、逆にいえば特徴でしょうか。

色々なことができるんです。

生育のスピードは、かなり早いほう、…でも大腸菌ほどではない。
酸性条件にも強い、…でも乳酸菌ほどではない。
過酷な条件では胞子を作って耐えられる、…でも枯草菌ほどではない。
生育速度が遅くなってしまう環境では、栄養分を別の形へスピーディーに変換する、
…でも酢酸菌のグループほどではない。

そこそこ色々なことができる反面、ズバ抜けているわけではないようです。

ただ、他の菌にはない特徴もあります。

それは、進化することができる、というものです。

酵母は、ただ増えるのではなく、有性生殖によって
遺伝子を変化させながら増えることができるんです。

ゆっくりですが、自らを大きく変化させる可能性を
他の菌よりも高く持っていると言えます。



このように、それぞれが最も適した環境の中で
最適な戦術を使って生存競争を勝ち抜いているわけです。
中には、際立った特徴が無いながらも、自らを変化させて生きるヤツもいます。

より正確にいえば、たまたま身につけている能力が有利に働く環境に行くと
その場所で他の種類の微生物よりも生育しやすくなる、ということです。

なので、不利な環境にいて、ほとんど生育できていないヤツもいるはずです。

能力が発揮できる場所に行くと、途端に他を圧倒できるんです。



…というような話を
 「誰にでも才能があって、それを活かせる環境に身を置くのが大切」
というメッセージのメタファーとして使ったとします。

僕は微生物に馴染みがありますから、納得できるところがありますが、
そうでない人はピンとこないかもしれません。

また、「へぇ〜!そうなんだ!」と好奇心を高め過ぎると
話そのものをストレートに吸収するほうに意識が向いてしまいます。

結果的に、連想させて意味を感じ取るところに注意がいかなくなるかもしれません。

メタファーは、ある程度、話の親しみやすさも大事なわけです。
微生物では自分を投影できない人もいるだろう、ということです。

同じ話を動物に喩えていたら、伝わりやすい人は増えるかもしれません。

同じ微生物を使っても、マンガで可愛らしく描いていたら
メッセージを感じ取れる人も増えるかもしれません。

情緒的な側面が含まれるように工夫するのも大事じゃないでしょうか。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
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