2012年03月13日

偏見とステレオタイプ

”ステレオタイプ”という考え方があります。
ある集団の人たちに対する典型的なイメージのようなもの。

例えば、日本人は勤勉だとか、イタリア人は情熱的だとか。
「男ってヤツは…」、「女っていうのは…」などなど。

とにかく一般化して、そのカテゴリーに分類されるものなら
その典型的なイメージで判断するということのようです。


人が典型的なイメージに当てはめて物事を理解するというのは
ごくごく自然なことで、それは人間に限ったことではないでしょう。

山の中にいる鹿だって、熊や猪を見れば逃げるはずです。

別に、それは「熊は襲ってくる」とか「猪は真っ直ぐに向かってくる」とか
そういうステレオタイプで解釈しているわけではないと考えるほうが自然です。

もちろん、熊とか猪とか名前を付けて判断しているわけでもなく、
単純に「あのモジャモジャして黒っぽいデカイの」とか
「白い尖ったのが飛び出た、ずんぐりした茶色のヤツ」とか
そんな風に姿かたちで識別していると思いますが。

そこで、生物の生態からすると「熊は身を守るためにしか襲わない」としても
(クマの生態は詳しくないので、どういう理由で襲うかは知りませんが…)
襲われたことのある鹿にとっては無関係だと思われます。

たまたま子育て中の熊と遭遇して襲われただけだったとしても
熊は襲ってくるものとして学習してしまったほうが生存に有利にはなるでしょう。

実際に、一度の強烈な体験があれば、危機回避のための学習は一瞬で完了します。

本当に熊が襲ってくるかどうかとは無関係に、熊を恐れるのは
体験が一般化された学習の結果だと言えます。

同じようなことは人間でも起きているはずで、例えば
「犬にかまれてから犬が恐くなった」というような人の場合は
一度の体験だけで、全ての犬を怖がるようになることがあります。

一般的にいえば、飼い犬の大半は、人を噛むことはないでしょうし
問題になるほど本気で噛みついてくる犬は滅多に出くわさないはずです。

しかし、そんな知識レベルのこととは無関係に
一度の強烈な体験があれば「犬は噛むものだ」という学習は
十分に成立してしまうわけです。

不正確な一般化だと捉えれば、犬好きからすると
「犬が噛むものだなんて偏見だ。噛むのもいるけど、ほとんどは人懐っこいんだ」
と反論したくなるかもしれません。

ですが、こういった犬嫌いの人の持っている犬への印象のことは
ステレオタイプとは言わないと思います。


つまり、ステレオタイプというのは本質的に
本人の体験の一般化によって学習された印象ではなくて、
誰かから植えつけられた典型的なイメージだと考えられます。

言い換えると、ステレオタイプは個人の中に存在するものではなく、
文化の中に存在している、と。

ある文化の中で共有されている、特定の何かに対する典型的なイメージ。
それがステレオタイプであって、文化が変われば同じものに対しても
別のステレオタイプが与えられている可能性もあると思われます。

ステレオタイプは本人の学習の結果というよりも
誰かから与えられたイメージであって、
実体験の量が少ない場合に起こりやすいものだと考えられるわけです。

もしくは、誰かから情報として得たものを忠実に自分の中に取り込んで、
その理解に当てはめて実体験を認識していく傾向が強い場合にも
ステレオタイプは強く働くと考えられます。


人間の学習は大きく分けると2つの方向性があって、
1つは動物がするのと同じように実体験を一般化していくタイプのもの。

もう1つは、言語情報などの抽象的な概念を、
「思考」と呼ばれる抽象的な操作によって、他の概念との関係性で理解して
情報を整理するタイプのものです。

前者は体験的に分かりやすいと思いますが、
後者の例は、「インフレ」などの経済的な知識を理解するプロセスなどです。

実際の体験としてインフレを実感していなくても、どういうことが起きるかを
頭の中で想像できるようになって、デフレやスタグフレーションとの違いが分かる。
その結果、どこかの国の経済状況を物価の観点で見たときに
誰から説明されなくても「あぁ、インフレが起きているんだ」と理解できる形です。

一般的な理解として、その概念に当てはまるかどうかの基準だけを持っていて、
その基準と照らし合わせて物事を理解していけるようにする学習法です。

「新しく何かを学ぶ」という場合には、当然、後者のパターンが中心になりますが、
あくまでもそれは一般論であって、例外的なケースへの対処や
複雑な情報の組み合わせから判断をする場合には
前者のように実体験したことを一般化していく方向の学びも重要になります。

ある概念を学習するには、言語などの抽象的な理解と
それに結びつく実体験の結びつきが不可欠なわけです。

余談ですが、僕がセミナーをやるときには
抽象的なモデルの解説で概念を整理していく学習の方向と、
それと実体験を結びつけるための体験学習とを両方取り入れて、
学習を促進したいという思いがあります。


話をステレオタイプに戻すと、
ステレオタイプというのは、インフレを知識として学ぶのと同様な
抽象的な情報から学習していくパターンだと僕は思うんです。

少なくとも、そのように外部から取り入れた情報が
本人の中で重要な判断の基準となっている状態です。

もちろん、本当にそういう体験もしているからこそ
「やっぱりそうなんだ」とステレオタイプ的な理解を強めるケースもあるでしょう。

ただ、度合いとしていえば、実際の目の前の体験を自ら理解しようとするよりも
自分の中に既に存在しているイメージに当てはめて体験する傾向が強いんです。

いずれにせよ、ステレオタイプのイメージに合わない体験を重ねていけば
どんな人であっても、そのイメージが弱まっていくことは間違いないでしょう。

それは体験が一般化されるタイプの学習の進む結果、
ステレオタイプとは合わない概念が自然と生まれてくるからです。

だからこそ、ステレオタイプは他人から与えられたものだということなんです。
体験的な知識が乏しい時に起こりやすい典型的なイメージなんです。


そこにはテレビから与えられる印象操作の影響が強いでしょう。

テレビで目にする回数が多ければ、実体験がなくても
典型的なイメージが作られていきます。
そのときに流される情報が、既にある傾向を持っていたとしたら
それが大勢の中に伝わっていって、ステレオタイプを作るわけです。

ハリウッド映画が全世界で放送されるということは、
アメリカ人が持っている典型的なイメージが、世界中に流れているという意味です。

実際に体験したことのないものを映画だけのイメージで理解していく。
映画そのものが典型的な場面を描くわけですから、
知らない側からするとステレオタイプを作るのに丁度いいはずです。

例えば、日本人の多くはラテンアメリカに対する情報が少ないと思います。
すると、ハリウッド映画で描かれるラテンアメリカの情報だけが
数少ない情報源となってしまう。

アメリカ人が典型的なラテンアメリカだと捉えているステレオタイプを
我々は知らないうちに、またステレオタイプとしてインプットしてしまう、ということです。


僕が重要だと思うのは、
ステレオタイプは経験が少ない内容に対して生まれる
という部分です。

体験的に学習された概念でなく、学習後の体験の量も少ないときに起こる。
…そういう風に考えておくのが大切じゃないだろうか、と。

偏見や先入観が含まれているからといって
それが体験に基づく場合(「犬は噛むものだ」のように)もあれば、
他人から与えられたステレオタイプに基づく場合もあるはずなんです。

それを区別せずに、「人間は偏見を持ちやすい」と考えてしまうのは
随分と危ないやり方ではないかと感じます。

苦々しい実体験が印象が強く、他の人とは違うイメージで捉えてしまうものだって
人によってはあるかもしれないわけです。

それを「あぁ、ステレオタイプで偏見を持ってしまっているんだな」と解釈したら
そちらのほうが、よっぽど偏見に満ちた物の見方じゃないかと思います。

知り合いに中国で長く働いていた人がいます。
その人は、中国人が信号を守らないのが嫌で仕方なかったと言っていました。
それが理由で、日本に帰ってきてからも、絶対に信号無視はしなくなった、と。

その人が持っている「中国人はルールを守らない」というイメージと、
僕がニュースの映像だけから入手した「ルールを守らない」イメージには
実態に大きな差があるだろう、ということです。

僕が見たのは、上海万博の行列で堂々と割り込みをするニュース映像と
最新家電やアミューズメントパークが盗作されているニュース映像。
それから会社にいたときに聞かされた
「中国で微生物を使って生産活動を行うと、廃液から微生物を盗まれる」
という話ぐらいなものです。

僕の中にある中国のイメージは、知らないうちに
ステレオタイプで満たされているかもしれません。

ですが、その知人は実体験として中国人が信号を守らないのが嫌だったんです。

「別に全員じゃないでしょう?守る人だっているんじゃないですか?」
と言ってしまったら、その人がどんな思いをしてきたかを無視してしまう気がします。

ステレオタイプで偏見を持って人と関わるのは良くないと考える人もいるようですが、
ステレオタイプに近いイメージを実体験から学んできた人すらも
ステレオタイプであるかのように扱うのも、同じようなものじゃないかと思います。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
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