2012年03月23日

過激な実験の解釈

心理学では有名な、かなり過激な話。

スタンフォード大で実施された「監獄の実験」です。
Zimbardo によって考案されました。

学生から参加者を募って、シミュレーションをしたという内容で
参加者は事前のテストにて「普通」と判断された学生のみ。

抽選で「監守」役と「囚人」役とに分かれて、
指示は「監守」がやってはいけない内容を決めただけだそうです。

監獄のセットを作り、その中で「監守」役と「囚人」役とに好きなように振る舞わせる。

その結果、「監守」の「囚人」に対する仕打ちがエスカレートして酷いものとなり、
予定していた期間よりも早く実験を打ち切ったそうです。

詳しい内容はウィキペディアにも出ていますが、
そのインタビューの Youtube 動画がこちら。
http://www.youtube.com/watch?v=Z0jYx8nwjFQ
(ショックが大きい人もいるかもしれないのでリンクだけにしました)

この実験をもとにつくられた映画が「 es (エス)」。
実験の悲惨さを、映画化という結果が物語っている気がします。

ちなみに、全ての被験者たちはカウンセリングを受けて
特に後遺症もないとのこと。


実験の結果としては、
「状況を設定するだけで、人は、それらしい振る舞いをするようになる」
という結論のようです。

そして、どんな人であっても
「状況が設定されると、普段では許されないような行為も平気で出来てしまう」
と。

そういうところから戦場などの極限状態の人の振る舞いにも
理論を展開しようとする立場もあるようです。

確かに、監獄を舞台にしたシミュレーションは危険でしょうから
こうした結論を衝撃的なものとして受け止めておくことは大切だと思いますが、
実際に起きていたプロセスは、そんなにシンプルな結論で語れないと僕は感じます。


まず、実験に参加した人が、シミュレーションに興味を持っていた可能性があります。
募集で集まったわけですから。
「何も刑務所のことは知りません」という人はいなかったでしょう。

むしろ、積極的に応募してきたわけですから
映画やテレビ、小説などのイメージを持っていたと考えられます。

そして「普通」とテストで判断されたわけですから
刑務所にいた実体験も無い人たちだったと考えるほうが妥当でしょう。

つまり、被験者たちの演じた刑務所の中の振る舞いは実際のものとは異なり、
むしろ偏見によって誇張されたものだったのではないでしょうか。

最初の設定の段階で、「囚人」はストレスフルな対応を受けたと想像されますが、
この時点では、それほど問題視するような行動は少なかったのではないでしょうか。

「囚人」に不満が溜まり始めるところから事態がスタートしていると考えられます。
「普通の人が普段ならしないような酷い行為をできてしまう」という
実験の結論となる事態には発展していないでしょう。

何の理由も無く、状況設定の偏見だけから、いきなり酷いことはしないと思います。


ただ、そうしたストレスの大きな偏見に満ちた態度を重ねられると
「囚人」の側に不満が溜まってくると思われます。

すると感情的高まりを行動に繋げる人が出てくるはずです。
文句を言うとか、ヤツ当たりするとか。

それに対して、「監守」の中でも特に攻撃的に感情を発散しやすい人物が
自動的な反応として「不満をぶつけられたことに対する不満」を示すでしょう。

ここに交流の要素があるはずなんです。

おそらく、「囚人」の誰かが悲しそうに「もう勘弁してよ!やりすぎだって!」と言ったとして
人によっては「あぁ、そうだ。いくら実験でも酷かった。ごめんなさい。」
と罪悪感を感じて、対応を変えた人もいたんじゃないでしょうか。

ところが、「監守」の中に、そうしたタイプの不満の示し方に対して
”逆ギレ”する癖のある人が混ざっていたら、攻撃的な反応が返ります。

「囚人」のほうも攻撃されると、さらに攻撃し返す場合があるでしょう。
すると、ケンカのような応酬がエスカレートするはずです。

「囚人」が最初から不満を攻撃的に示す癖を持っていれば
感情的なやり取りは、さらにエスカレートしやすいと考えられます。

そこへ、実験として許されている権利が力を貸します。
「監守」にはパワーがあるわけです。

売り言葉に買い言葉のような感情的な応酬の中で、
圧倒的なパワー差を使う人が出てくるだろう、と。

それは例えば、父親が「うるさい!口応えするな!今日は晩飯ぬきだ!」
というような家庭で育って、そうした対応を学習していた人などは
「監守」が許されている行為を利用して「囚人」をやりこめようとする、などの場合です。

もちろん、そこでの対応もテレビや本で仕入れた偏見タップリの仕打ちになるはずです。

ここで初めて問題となる対応が生まれるんじゃないか、と思うんです。

つまり、テレビや本などから刑務所に対して強い偏見を持った被験者が
感情的な交流を重ね、パワーの行使に発展する、
…そんな流れがありそうだということです。

そして、感情的な応酬の雰囲気は、全員を巻き込んでいきます。
普段だったら攻撃的な対応にはならない人であっても、
その不満の連鎖に巻き込まれれば、不満発散の方法を見て学習することで
自らもパワーを行使しだすと想像できます。

最初は抵抗を感じながらパワーで「囚人」を抑えつけた「監守」も、
その行動によって思い通りに不満を解消できることを学習すれば
徐々に自動反応的に学習した交流の仕方をするようになるでしょう。

雰囲気の伝播や、学習のプロセスも関与していると考えられます。


「状況」と言っている中身として、
・実験初期から存在する不満要因
・「監守」に与えられたパワー行使の権利
・実情を知らない偏見を伴った対応のイメージ
などがある。

それに加えて、
・不満を感情的に発散する行為の応酬(交流)
・環境を共有することによる感情的同調
・攻撃的な仕打ちによる不満解消の方法の学習
が関係して、全員が感情を爆発させやすい状態を作っている。

そういう組み合わせがあるんじゃないかと思います。

しかも、アメリカ人は文化的に、生理反応を感情として受け止める前に
衝動的に行動へつなげる割り合いが高いように見受けられます。

カーッとなってやってしまう。
そういう傾向の高さも手伝っているかもしれません。


つまり、この実験結果には、かなり文化的な要因が大きいんじゃないかと思うわけです。

もちろん、一人が過激な対応を始めれば、
そこから連鎖的にエスカレートする可能性は、どこでも共通だと考えますが、
そのエスカレートの仕方や、連鎖が発生していくタイミングには文化差がある気がします。

しかし、そもそも刑務所に対して過激なイメージを持っていなかったら
思いつかないような仕打ちだってあるでしょう。

感情に対する処理の仕方でも、交流の起き方は違うと思われます。
場合によっては、「監守」のほうから、「囚人」を守ろうとする人も出るかもしれません。
自発的にシミュレーションへ応募した時点で、それは難しい可能性もありますが。


また、ビデオに登場するインタビューは実験から2カ月後のものですが、
登場する「監守」役にも、個人差があるように見受けられます。

一人は強く罪悪感を表し、苦しんでいるように見えますが、
別の一人は罪悪感を示さないどころか、楽しんでやっていたフシを
正当化しようとしているようにさえ見えます。

この辺で、全体を率先する人物の影響力が強く関係しているはずです。

そういうことを考えると、この実験から言えるのは
「状況は、偏見を伴ってパワーの行使の仕方に影響を与える」
「ストレスの高い環境を生み出すと、そこに関わる人物間に
 不満をベースとした感情的な交流が生まれて、エスカレートする」
ということじゃないでしょうか。

偏見が小さかったり、冷静さをコントロールできるようなものがあれば
そこまでエスカレートするかどうかは不明な気がします。

少なくとも、人間同士の交流を無視して、
状況だけで人は”いかにも”な振る舞いをする
というのは、言い過ぎだと思います。

ましてや、これを人間性の善悪と関連させるのは…。

人は自分勝手なものですが、
結構、良いものだと僕は思っています。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
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