2012年04月26日

”心を操る”の後の話

この間、”相手の心を操る”技術について書きました。
それには大きく2通りがある、と。

1つは、相手自身が意図を持って、重要な決断をする場面。

こちらでは、元々相手が優先していた選択肢ではないほうの選択肢を
「やっぱり、こっちのほうが重要だ」と感じるように働きかけて、
実際に、そちらの決断を下すようにしていくことになります。

もう1つは、相手にとって”どれを選んでも差がない”選択肢の中から
「(適当に)好きなものを選んだつもり」が、実は”選ばされていた”というケース。

”どうでもいい”、”どちらも重要ではない”か、あるいは
”どちらを選んでも自分にとって望ましい結果に繋がる”場合です。

言い換えると、意思決定に対して悩む必要がないケースだ、と。

で、2つのケースに対して使う技術が異なっていて、
だからこそ、その場面に適さない技術を使っても効果を期待しにくいわけです。

前の記事では、2つ目の方法、つまり
 相手にとって”どれを選んでも差がない”選択肢の中から
 こちらの意図したものを選ぶように影響を及ぼしていく流れ
について説明しました。

この技術が役に立ちそうな実際の場面なんかも触れたつもりです。

しかし、この方法では、相手が「重要な決断をする」場面には効果が低いと考えられます。

ということで、ここから先は、
 「相手自身が意図を持って、重要な決断をする」場面に対して、
  相手の選択に影響を及ぼす方法
を説明します。


「重要な決断をする」場面では、相手の価値観がポイントです。

価値観とは、その人が大切にしていることで、
『特定の状況で、何に注目して、何を重視するか』と言えます。

ですから、「どっちが良いか・どっちが好きか」の判断を下すときに
価値観が関わってきます。

正確には、その判断を下すときに注目する部分を価値観と呼ぶので
「価値観にそって判断を下す」という言い方は順番が逆だと言えます。

経験から学んできたこととして大事にしたい部分が一般化されていて
その部分が含まれているところに対してポジティブな印象が生まれる。
結果として、ポジティブな印象があるほうを「良い」と判断する。
…こうした一連の自動的な反応に対して、後から振り返ったときに
 注目していた部分に気づくことができて、
 その要素に名前をつけたものが「価値観」なんです。

仕事において、短い時間で求められる結果を出したときに満足感がある人は
振り返ってその傾向に気づいたときに「自分はスピードを重視しているなぁ」と思い、
そこで「自分の仕事における価値観は”スピード”なんだ」と意識できるわけです。

一方、細かいところまで一切の漏れがなく仕上がったときに満足感が生まれる人は
「品質」という価値観を持っていると自己分析するでしょう。

人には、そのように「何が良いか・どれが好きか」の判断をするとき、
自然と注目しやすい部分がある、ということがポイントです。
それを「価値観」と呼ぶ、と。

つまり、何か重要な決断をする場面では、それぞれの選択肢に対して
どれが自分の価値観と合っていて、どれを選ぶと満足するかを予想するわけです。

ここでは、ハッキリと自分の内面に注意を向けて
どれを選んだら最も満足しそうかを感じながら比較をすることになります。

その場面では、些細な影響を意識できないレベルで与えたとしても
価値観が満たされるかどうかの判断の前には、効果が小さすぎます。

なので、重要な決断をする場面で、選択に影響を及ぼすには、
相手がしている「どれを選ぶと、価値観を最も満たせるか」の予想に対して、
予想の内容が変わってくるような情報提供をするんです。

例えば、パソコン用のプリンターを買いに行くとします。
プリンターのどの要素を重視するかに、人それぞれの違いがある。
そこが価値観の違いです。

印刷スピード、印刷の美しさ、ランニングコスト、操作の簡単さ、デザイン…。
色々な基準があって、人それぞれ優先したい部分が違う、と。

 (プリンター自体の価格は、価値を総合したものとのバランスで判断されますから
  価値観からは除外しておいたほうが分かりやすいと思います。
  むしろ、”お金”は価値の象徴だと言えます。)

Aのプリンターは、印刷のスピードが速くて、ランニングコストが低いのがウリ。
Bのプリンターは、遅いけれど印刷が美しく、商品のデザインもカッコイイ、としましょう。

で、お客さんは印刷の美しさを重視する人で、商品デザインは全く気にせず
ランニングコストは低いほうが良いけれど、それほど重視していない、と。

この場合、普通に考えればBのプリンターを買いたくなるところです。

そこでAのプリンターを選ぶように仕向けたかったら、
「実は工夫して使えばAのほうが遥かに美しい印刷が可能だ」
といった情報をアピールすれば良いわけです。

例えば、印刷設定をどうするとか、紙をどうするとか、そんな感じ。
「印刷の美しさ」を最優先していて、そこが理由でBを選んでいたなら、
Aのほうが実は「印刷が美しい」とアピールできれば、選択に影響が出るという話です。

逆いえば、それ以外のところをアピールしても無駄になるかもしれませんし、
むしろ逆効果に働く可能性もあります。

もちろん、この場合、「仕上がりの美しさ」を大切にしていることを掴む必要があります。

それは話の中で聞いてしまっても良いですが、
観察力を磨いていけば、振る舞いや持ち物からでも、それが理解できます。

「仕上がりの美しさ」を重視していることが理解できたら、他にも
Aの商品の説明をするときにだけ「仕上がり」とか
「美しい」、「キレイ」、「細部にまで」、「キッチリ」などといった単語を
”ちりばめる”のも効果的でしょう。

「Aの商品のほうが、『細部にまでコダワって、キッチリと仕上げられている』ので
長く使っていても『美しさ』が長続きしやすくて、いつまでも『キレイに』動いてくれます」
なんて言ってみるとか。

他にも、価値観の優先順位を変えるように仕向けていくことも可能です。
こうなると、「いや、やっぱり印刷の美しさよりもスピードのほうが重要だ」とか
「今まで考えてなかったけど、操作のカンタンさが一番大切な気がしてきた」とか
そういった方向に考えを動かしていくこともできてしまいます。

こういった技術を使えば、全く欲しくもなかったものを
買いたい気持ちにさせてしまうことだってできるわけです。


しかし、もっと重要なのは、一時的に相手の意思決定に影響を与えて
その場で選択を変えさせてしまえたとしても、
相手が日常に戻ったら価値判断のポイントは元に戻っていくことです。

しばらくしてみたら、「なんで、こんなの買ったんだろう?」なんて
後悔する可能性だってあるんです。

いや、むしろ操作した度合いが高いほど、いずれ後悔する可能性も上がるはずです。

はたして、それで良いのか?と。

一回だけ、何か高額な商品を買ってもらえば十分なのだとしたら、
そうした操作的なやり方でも”自分には”メリットがあるでしょう。

ですが、継続的に相手と関わっていくことを考えたら
相手の価値判断に影響を与えて、決断を操作したとすると
逆に望ましくない結果に繋がっていく可能性のほうが高いと思います。

もしかすると、その相手を一生の間、24時間ずっと操作しっぱなしにすれば
その相手も後悔することもないし、継続的に
自分の思い通りの結果が得られるかもしれません。

そこに何の喜びがあるのかは分かりませんが。

全てが思い通りになったとき、そこには何の”ありがたみ”も感じられないでしょう。
思い通りにするためにばかり努力をして、満足感があるのでしょうか?

そもそも、思い通りにならないことが分かっているからこそ
「思い通りにならない」ときの苦しみと
「期待したとおりになった」ときの喜びがあるんじゃないでしょうか。

だから、「期待したとおりになった」ときの喜びを味わいたいから
「思い通りに操りたい」という欲求が出てくるんじゃないでしょうか。

その裏側には、
「相手の人は、自分の思い通りにはならない」
という実感が前提としてあって、
その前提こそが人と関わるときの喜びを生み出していてくれると思うんです。

何でも言うことをきくロボットが相手では得られないものがあるんです。

「思い通りに操れた」喜びは、
「思い通りにならない、 だから素晴らしい」の裏返しだということです。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
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