2012年06月03日

「知覚は投影」の話

NLPの本を読んでいて
 「 Perception is projection. 」
という文章を見つけました。

これを日本語訳したのが、NLPの説明の中で使われる
 『知覚は投影だ』
というものなんでしょう。

Perception is projection. …これ、
英語の時点でも、かなり曖昧な表現です。

まず、「投影」にあたる「 projection 」が、ややこしい。

日本語でも「投影」というと、映像を映し出すような意味でも使われます。
「プロジェクター」の”プロジェクション”ですね。

ですから、人間関係一般では「自分の中にある何かを外に写し出すこと」
といった意味合いが「投影」になります。
こちらが広い意味。

一方、精神分析で「投影( projection )」というと、
防衛機制( difence mechanism )の1つになります。

この場合は、定義がもっと限定されます。

「自分の内側に認めたくない部分があると、
 その部分を他人の中に見つけるようになる」
という説明になります。

”無意識”の働きとして、自分を守るために「投影」する、と。
見たくないものを外に見る、という話。

ですから、「知覚は投影( Perception is projection. )」のときの「投影」が
広い意味での投影なのか、防衛機制としての投影なのかが不明瞭なんです。

つまり、広い意味で解釈すれば
「”知覚”というプロセスは、自分の内側にあるものに照らし合わせて
 外側の世界にあるものを判断することです」
といった感じですし、
防衛機制として解釈すれば
「”知覚”というプロセスは、自分の内側にある見たくないものを
 他人の中に見出そうとすることです」
といった意味になります。

かなり違う印象を受けます。


また、「知覚」という日本語訳が厄介です。

心理学や認知科学で使われる「 Sensation 」も「知覚」と訳されるからです。

「 Sensation 」は、五感レベルで情報をインプットするプロセスです。
何の解釈も無く、ただ感覚器官が感じ取る。

光が入ってきた、空気の振動を感じた、…そういうのを
意味づけとして解釈する前の段階が「 Sensation 」です。

で、これが日本語で「知覚」と訳されています。

この場合の「知覚」には、「投影」が入り込む余地は全くありません。
視覚であっても、「明るい」とか「赤い」とかさえ判断のない状態ですから。

その上に、「認知」とか「認識」とか、色々な言葉が近い話題で登場します。
この辺も実に曖昧です。

実際、法律的に使われる「認知」と、心理学の「認知」では意味が違いますし。

心理学の「認知」は、非常に幅の広い言葉です。
脳を使うプロセス全般が「認知」ぐらいでも良いかもしれません。
思考、記憶、イメージ、学習…、そういうのを全部まとめて「認知」のプロセス、と。

ところが、「認知療法」というときの「認知」は、「物の捉え方」の意味です。
考え方を変えて、問題で必要以上に苦しまないようにしようというわけですから。

「認知療法」の「認知」の場合は「 perception 」の「知覚」に近い気がします。

また、「認識」となると、
 何かの情報を意識に上げて、意味づけをして捉える
ぐらいのニュアンスでしょうか。

そう考えると、「認識」は「認知」に含まれてしまいそうな感じもします。

「 perception 」の「知覚」は、「○○さんを、どう捉えるか」とかにも使われるようですので
かなり主観的で、すでに頭の中にイメージとして出来上がっているものを指す感じ。

一方、「認識」は、その瞬間に進行中のプロセスの一部でしょう。
「 sensation 」の「知覚」で入ってきた情報を意味づけして、意識に上げて「認識」する、と。

それに対して、「認知」は、もっと幅広く、脳が行う作業全般。


そうなると
「 Perception is projection. 」とは、
「知覚は投影」とは
一体どういう意味なんでしょうか?

僕が読んでいる印象で文脈から推測されるのは、
「 perception 」が使われるときには
「受け取り方」ぐらいの訳が日本語に近いんじゃないか、ということ。

ですから、「知覚( sensation )」という「認知」のプロセスの一部ではなくて、
物事をどう捉えるか、物事をどう解釈するかという感じが
「 perception 」の「知覚」なんじゃないか、と。

ズバリ言ってしまえば、「知覚」と言わないほうが良いぐらいだと思います。

「物の捉え方」とか「受け取り方」とかが丁度いい印象を受けます。

「投影」も紛らわしいですから、僕の推測では
 「物事の受け取り方は、人それぞれの内側にあるものを反映しています」
といった訳がニュアンスとして近いんじゃないか、と。

ただ、それではカッコ悪い。

「知覚は投影」
こういう風に、言葉少なく言ったほうがカッコイイんです。


しかしながら、
”物事の受け取り方は、人それぞれの内側にあるものを反映しています”から
「知覚は投影」という言葉を聞いたときにも、その人が解釈する言葉の意味は
人それぞれ違っているわけです。

特に、言葉数を少なくして、含みのある言い方にするほど
解釈のされ方は広がってしまいます。

名言が名言として残っていくのは、聞いた人が自分の人生に照らし合わせて
勝手に解釈を加えて、自分に合った意味に翻訳して感動してくれるからでしょう。

名言を残した本人が、自分の人生で感じたことを
体験談を交えて長々と語ってしまったら、それは名言にはならないはずです。
聞いた人は、「ああ、そうだったんだ」と他人の話として聞きやすくなりますから。

あえて言葉数を少なくして、聞き手が自分の人生を”投影”させるからこそ
「ああ、良いこと言うなぁ。そうだよなぁ。」って思うんじゃないでしょうか。


ですから。
「 Perception is projection. 」と、誰が最初に言ったか知りませんが、
その意味は、皮肉なことに、本人の意図した通りには絶対に伝わらないわけです。

なぜなら、「知覚は投影」なのですから。

cozyharada at 23:54│Comments(0)TrackBack(0)clip!NLP | 心理学

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
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