2012年06月30日

有名だからといって

エビングハウスの忘却曲線というのを、たまに本で目にしたことがありました。

人が、どれぐらい記憶を忘れていくかという実験をデータにしたものです。

心理系読み物や、脳科学風の読み物に出てくることが多い気がします。
このデータをもとに、人の忘れやすさを説明していたりするようです。

例えば、一日経って忘れなかったことは、一か月経っても忘れにくい、なんて。

グラフになっていて、記憶したものが忘れられていく様子が
曲線として見られますから、なんとなく説得力のある感じがするんだと思います。


エビングハウスは、1900年代初頭になくなっています。
100年以上も前の実験結果が、いまだに重要なデータのように引用されているわけです。

もちろん、どんなに古くても、しっかりしたテータもあります。

が、エビングハウスのデータは実験内容も含めて
かなり現実的ではありませんし、忘却していくスピードを表現したとは言いにくい気がします。

エビングハウスは精力的に実験をやった人物の一人です。

短い音声からなる、意味のないアルファベット並びを膨大な数の組み合わせで作り、
なんと420個もの、全く意味のない単語に似たものを全部覚えます。

それでテストをしながら全部覚えて、100%の正解率になったら実験スタート。

そこから一切復習をせずに時間を過ごして
ある時間が経過したらテストをして正解率を測定する。
つまり、420個のうち、何個を覚えているかを数えていったわけです。

で、これを繰り返して、
20分後、60分後、9時間後、1日後、2日後、5日後、1ヶ月後で正解率を測定。
その結果が、「エビングハウスの忘却曲線」です。

この実験の被験者は、エビングハウス自身です。
一人だけ。

個人の記録が有名な実験データとして、100年たった後も
忘却に関する重要な知見のように扱われているんです。

一人歩きしている印象を受けます。


実際は、もっと意味のあるものを覚えますし、
他の記憶と関連させながら覚えるので
そこまで忘れやすくもない、という説もあります。

そもそも、エビングハウスの実験は、20分後に覚えていたものは、
一回復習をしたことになります。

覚えていたものほど、復習を重ねていくことになるので記憶も定着しやすいでしょう。

それに、最初の時点で、なぜか覚えやすかったものと、
覚えにくかったものもあるはずです。

想像ですが、一か月経って残っていたのは、100%の正解率になるまでの段階でも
わりと初めのほうから覚えやすかったものじゃないかと思えます。

忘却を実験してデータに取っていくのは難しい作業だとはいえるでしょう。
上手い実験が作りにくいかもしれません。

しかし、そのことと、100年以上前に、たった一人の被験者で取っただけのデータを
今もまだ重要なデータとして扱っていくのは別な気がします。

エビングハウスが記憶の研究における偉大な人物なのは否定しませんが
だからといって、ずっと頼っていいデータだとは、僕には思えないんです。

”それっぽい”実験結果を、どのように引用していくかは
引用する側の責任じゃないでしょうか。

『的確に疑う』のは、トレーニングが求められる、1つの大切な技術だと思います。

cozyharada at 23:03│Comments(0)TrackBack(0)clip!心理学 | NLP

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
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