2012年07月18日

歴史と集積

なんだか色々と重なっていて勉強会のお知らせができないでいます。

次は8月の予定で考えているところです。

決まったら、またブログでお知らせします。



ところで、ユングとフロイトの話が映画化されるらしいです。
史実に基づいているとか。
「危険なメソッド」というタイトル。

タイトルの中に、もう前提が感じられますが…、
”心理学”として見ていく場合には、それぞれの理論が
どういう歴史的・社会的背景から生まれてきたのかは
とても重要なポイントになるはずです。

どうやら、心理学という言葉が生まれてから
様々な理論が発展してくる中においても
歴史的な系譜を踏まえた理解は欠かせないように感じられます。

おそらくそれは、心理学をやってきた人たちの伝統的な発想の中に
「既存の物に対して自分の理論を位置付ける」という部分があるからでしょう。

「これまでに、誰々がこんな理論を出している。
 しかし自分は、こう反論する。
 だから、こっちの理論のほうが良い。」
…そういうのが繰り返されている背景が心理学にはあるようです。

それが伝統として染みついていれば、その後に心理学を学ぶ人にも
当然、同様の発想と主張の展開が生まれても自然なことという気がします。

そして、そこが僕とは大きく発想が違うところです。


シンプルに理系と文系で分けて良いとは思いませんが、
一般に理系とされる教育では、サイエンスの知識は
流れよりも、むしろ集積された1つの全体像を重視する印象があります。

つまり、化学であれば「誰が何を発見して、どういう経緯で発展したか」よりも、
「現在の化学として知られていること全て」を
「どういう順番で理解すると分かりやすいか」といった視点で教育される。

『科学史』なんていう授業もありますが、それは例外的で
「○○化学」という授業を沢山集めて、化学の全体像を掴む印象です。

まず化学の全てに共通する基礎知識を学びます。
これは本当に『基礎』なんです。
これがないと他の化学が理解できませんし、全てに使われる前提知識です。

世間では、『基礎』という言葉の意味が、
”簡単”、”初歩”、”入門”と同じように使われるケースが多いように思います。

中学校で『数学』の基礎として方程式の扱い方を勉強するのは、
その方法を知らないと、先の数学を理解することができないからでしょう。
その意味で『基礎』なんだと思うんです。

化学も『基礎』から学びます。
元素とか、イオンとか、化学式とか…。
そして化学の分野を狭めながら詳しいことを学んでいきます。

基礎の後で、化学で説明する全ての範囲の現象を分野に整理するわけです。
全ての化学が使っている土台のようなものがある。
その意味で、『基礎』なんです。


一方、僕の知る限り、心理学に『基礎』にあたるものは感じられません。
人間の振る舞いに関することを扱う、というのは前提でしょうが
あくまで、それは分野の話。

まぁ、統計の知識がないと相関のデータを実験的に解釈できませんから
そこは共通して求められるものかもしれませんが、
それでも統計は心理とは無関係です。

化学の説明をするのに日本語や英語を使わないとできないのと同様です。
説明の媒体として統計を使っているだけで、それは基礎とは違うと思います。

ですから、社会心理学だろうが、発達心理学だろうが、
それぞれの違いは、人間の行動をどの分野として注目するかの話。
両方を理解するために『基礎』として知っておく必要のある情報は
あまりハッキリしていないんじゃないかと感じるんです。

むしろ、それぞれの心理学の分野で調べられてきたことを
分かってきた順番通りに勉強していく。

同じことをやったら学問として意味が無くなってしまいますから
「これまでに、こういうことが分かっている」という知識は大事なんです。

だからこそ、歴史的に流れに沿って知識を増やす印象が出てくるんでしょう。

その中では、精力的に実験をしてデータをまとめた人とか
初期の頃に全体像をストーリーとして作り上げた人とかが、
重要人物として位置づけされることになります。

エリク・エリクソンがどうとか、ピアジェがどうとか、
そのような勉強の仕方になるのは、流れの初期に
情報量を一気に増やしてくれた人たちだからだろうと想像します。


それに対して、化学や物理の分野では
全員で1つの理論を作り上げていくイメージがあります。

常に最新版にアップデートされていく感じ。

確かに、有名で貢献度の大きい科学者もいますが、それも量の問題であって、
沢山貢献した人と、ちょっとだけ貢献した人…
全員が少しずつ蓄積してきたものが、1つの全体像を作っている。

皆が部品を少しずつ持ち寄って、全体を充実させていく感じです。

後から勉強する人は、その全体像を知って、
自分もそこに何かを追加できるようになることが目的なので、
どういう経緯でその全体像ができてきたかには関心が薄くなる…
そんなことが起きている気がします。


心理学は、道を伸ばしていく感じ。
大勢で道路工事をして、一本の道を少しずつ伸ばしていく。
出だしの道を切り開いた人は有名になるわけです。

心理学の分野の数だけ、道の数があるような印象を受けます。

それに対してサイエンスは、街を作っていく感じです。
大勢で少しずつ、街の一部を改修していく。
有名な建造物や、主要な構造を作った人は有名ですが
街全体は常にアップデートされて、いつも1つの街の形をしている。

そして、その街の中で育った人が、少しでも街を改修したり
未開拓だった土地を調査したりするイメージです。

サイエンスのそれぞれの分野は、街の中の区画のようなもの。


もしくは、心理学では有名な人が、ある景色を一枚の絵に描いて、
それから多くの人が自分なりに、同じ景色を自分の絵にしていく感じ。

誰々の描いた絵というのが、似たような景色に対して沢山集まっていく。
でも、依然として最初に描いた人の意味が大きい。

一方、化学や物理などのサイエンスは
皆で一枚の絵を描いていく感じ。

下書きをした人もいれば、広範囲に色を塗った人もいる。
一部を物凄く細かく絵にした人もいれば、
誰も手のつけていないキャンバスに描きこんだ人もいます。

中には上書きされて残っていない人もいるけれど
結局は全て、一枚の絵を描いているようなイメージです。

後世の人が自分も絵に少し描きこもうと思ったときには、
誰がどこを描いたかなんていうのは非常に分かりにくくなっていて、
 「ここから、ここまでの下書きをしたのがニュートンなんですよ」
 「えー!こんなに広い範囲を下書きしたんですか!」
という話はあっても、結局見るのは、その時点で完成している絵の全体。

そんな違いを僕は感じています。


この辺は、学問としての発展の歴史にも関係するでしょうし、
それをベースにした教育スタイルにも影響されていると思います。

気にしていませんでしたが、僕は、明らかに勉強するということを
街並みの全体像や、一枚の絵を見ることとしてイメージしていました。

一人ひとりがどんな絵を描いたかとか、どんな道のりなのかとかは
ほとんど興味がありませんでしたから。

そういう世界にいたんでしょうね。

良し悪しではなく、スタイルの違いだと思いますが、
現実的な応用のされ方には随分な差が生まれている気もします。

サイエンスのスタンスだと、一人の研究者が
自分だけで業界の常識を一変させるような発想は出にくいようです。
あくまで自分は全体の知識の一部を追加する立場ですから。

研究のスパンも長くなりやすい印象を受けます。
こういうのを積み重ねていけば、何十年か後には変わっているだろう、と。
そうやって少しずつ広げて、大勢の力で変わるのを期待する印象を受けます。

ところが心理学は一人のインパクトが大きいですから、
斬新な理論が人気を集めるとブームさえ生まれます。

その理論を応用する方向にも一気に変化が起きる。
業界が一変する可能性があるのは、こっちかもしれません。

学問として研究され、社会に応用されるものであったとしても
そこに携わる人たちの中にある暗黙の発想が
大きな影響力を持っているような気がするんです。

しかも、その分野だけで生きてきたときには
当然になり過ぎて自覚することさえ難しい。

だからといって、両方の外に出て、両方のスタンスに気づいてしまえば
両方から異端になってしまう可能性すらあります。

できるのは、どちらにも合わせられるように
両方のスタンスを使い分けられる”技術”を持っておくことでしょうか。

まず僕の場合、歴史の観点で心理学に注目することが求められそうです。

その意味でも、ユングとフロイトのお話は見ておきたいところです。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
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