2013年11月20日

知識を増やすほど

皮肉なことに、勉強して知識を増やすほど、実物への関心が薄れていく。

元々はそのことを知りたくて関心があって情報を集めるのに、
その情報そのものが、実物をより現実に近い形で捉えるのを邪魔するんです。


カウンセラーがクライアントを理解しようとして、たくさん話を聞く。
過去にどんなことがあったのか、どんな状況なのか、どんな気持ちなのか…。

そうやって一生懸命に話を聞き出そうとするほど
目の前のクライアントを観察するための注意が薄れやすい。

クライアントが筋肉や姿勢、呼吸や血流、声色や声量でで表現している
多くのメッセージが、話の内容に注目するほどに見逃されていくんです。

ある流派のカウンセラーは「そのとき、どんな気持ちだったんですか?」とか
「今、どんな気持ちですか?」などと聞くようですが、
その話の内容に関心を向けるから非言語メッセージに出ている感情に
注意を向けるのが難しくなるんでしょう。

クライアントの話をたくさん聞いて、ストーリーを作り上げ
”自分の頭の中に”クライアントと問題のイメージを作り上げていく。

関心があるのは、頭の中のイメージのほうであって
目の前のクライアントの様子ではなくなってしまうことがあります。

「〜療法」だとか「…アプローチ」とかを重視する心理療法家の中にも
その方法論を使うことに関心が向いて、
その場のクライアントの様子に注意が向いていないことがあるそうです。

あるブリーフセラピーの有名なセラピストは
問題解決にフォーカスするあまり、常に空中を眺めていたと言います。
クライアントの話を聞き、解決のための方法を一生懸命に考えるので
セラピーの間中、ずっと考え事をしているような状態だった、と。

クライアントを見ない心理療法家として知られていた
…なんて話を耳にしたことがあります。

知識を活用するということは、
頭の中の情報に頼る度合いが増えるということでもあるんです。

知識に当てはめて目の前の出来事を解釈しやすくなる。


歴史的にも、催眠療法家のミルトン・エリクソンを研究して
様々な心理療法が作られてきましたが、ここでもやはり
方法や技術に目を向けて知識的な理解を進めようとするほどに
パターン化された知識に出来事を当てはめるケースが増えたと想像されます。

だからエリクソンは生徒に言っていたんでしょう。
「クライアントをよく見なさい」と。

エリクソンの方法を研究するほど、関心は情報に向いていき、
クライアントはその情報に基づいて捉えられるようになる。

もしかしたら、エリクソンの中には確立された方法論があったかもしれません。
エリクソンは説明できたのかもしれません。

でも、エリクソンが方法を説明してしまったら
エリクソンを崇拝していた生徒たちは皆、
その方法という知識に関心を向けていたことでしょう。

それこそがエリクソンのやっていたことと真逆であるにもかかわらず。

その瞬間の、目の前にいるクライアントに最大限の注意を向ける。
このことの大切さを伝えるには、方法を説明しないというのも
1つの効果的な形だったのかもしれないと思います。


人は記憶された情報に当てはめる形で、意味づけをします。
一切当てはめることをしなければ、全ては均一に見えるはずです。
境目すら認識できない。
それでは日常生活すら困難です。

知識が無かったら認識できないわけです。

ですが、違いそのものを認識するための知識は
大人になるまでの経験を積んでいれば自然と得られているといえます。

大きさや色、形、光沢、…。
そのような物事の知識よりも小さな単位の違いは識別可能なんです。

例えばブランド物の真贋を見分けるとしたら、
知識が無かったら、どちらが本物かは分からないでしょう。
ですが、どう違うかを指摘することは、細かく注意を向ければ可能です。

むしろ、知識があるほど知識に当てはめて捉えるので
細かい違いに注目せずに”同じもの”として認識する可能性が高まる。

ブランド物の判定でいえば、偽物の特徴に知識があるほど、
その部分に注目して認識しやすくなるはずです。

結果として、それ以外の部分の違いに目が向きにくくなる。
知っているはずの部分だけが認識されやすくなるということです。

同様に、絶対音感のある人は、多少の音程の違いは
12音階に「当てはめて」聞こえるそうです。

逆にいえば、中間の音を認識するのが大変だ、と。

「ド」と「ド#」では、「261.62Hz」と「277.18Hz」と
周波数にして15Hzの違いがあるのに、
その間の音は近いほうに自然と分類されてしまうようです。

「当てはめる」ための基準が知識としてハッキリしているほど
基準と”同じもの”として捉える傾向が高まっていく、という話です。


勉強して知識を得る。
すると、その知識に当てはめるように出来事を解釈しやすくなる。
「あぁ、これは○○だな」と。

本当に細かな違いに目を向ければ、その知識の基準とは
完全に同じということはあり得ないはずなんです。
少しは違うところがあるものでしょう。

ですが、知識を使うと「当てはめる」になりやすい。
記憶の中の情報が意識に上がりやすくなって
目の前の出来事への注意が下がることが多いようです。

もちろん、知識のパターンに当てはめることで上手くいくなら
それで良いのでしょう。

上手くいかないときにどうするか?

そこでも知識に頼ることはできます。
「○○理論によると、こういうことが起きているからだと考えられる」
といった感じで。

その一方で、上手くいかないときこそ
知識に頼らずに起きていることを見つめることもできます。

好みの違いなのかもしれません。

知識に当てはめるのが好きな人もいますし、
目の前のことに注意を向けるのが好きな人もいます。

それによって得意分野も変わるんでしょう。

ただ、僕は人と関わる立場として
目の前の人を知識に当てはめるのは好きではありません。

知識に当てはめるのが好きな人にとっては、特定の人物であっても、
その人に関する自分の知識に当てはめた認識がなされやすいようです。

数年前に会ったときに作られた「○○さんって、こんな人」という知識が
久しぶりに会ったときにも参照として使われる。

その知識に当てはめるように注目すれば
「○○さん、何年たっても変わりませんねー」
っていうことになるのかもしれません。

知識に頼らないとしたら、
数分前の○○さんと、今の○○さんとの間には
大きな違いが見つかるかもしれません。

常に別人のように見える可能性さえあります。

実際、数分で人は別人のように振る舞いを変えるものでしょう。
一人の中に沢山のプログラムがあり、
一瞬一瞬、違ったプログラムが表に出てくるんです。

人は本当に、見るたびに別人のようになっているともいえます。


もし、カウンセラーやセラピストやコーチや講師のように
何かしらの変化に関わる仕事をしているのだとしたら、
クライアントや受講生を「変わる存在」として捉えているか
「”○○さん”という知識」に当てはめて捉えているかによって、
その人の変化には差が生まれるのではないでしょうか。

知識に当てはめて捉えている場合、
その人に対する接し方は常に同じになりやすい。

同じように対応されれば、それに対するクライアント側の反応も
以前と同じようなものになりやすいでしょう。

逆に、違いに応じて対応をしていれば、
クライアントの望む変化が起きた部分に対して
それが活きるような形で関わることも可能だと思います。

望ましい変化が起きた部分を、体験的に強化していくことができる。

知識に当てはめれば、以前の姿を維持するように働きかけることになり、
目の前の人物のチョットした違いに目を向ければ
その変化を強化するように働きかけることに繋がっていく、ということです。

喩えるなら、
「持病」として捉えるか、「最近、調子悪い」と捉えるか
のようなものでしょうか。

知識ではなく、目の前の対象に注意を向ける。

それが求められる場面もあると思います。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
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