2015年01月13日

裏切られない信じ方

自分の「信じている」ことを否定されるのは
多くの人にとって心地良くないもののようです。

それが深い信念のようなものではなく、もっと気軽に信じ込んだものでも
一度「そうだ」と信じたものをひっくり返すのは苦痛を伴うのかもしれません。

「信じていること」ではなく、「理解していること」であれば
筋の通った情報を知ることで「あぁ、そうだったんだ」と自分の考えを修正し
新しい理解の仕方を取り入れることに抵抗は生まれません。

が、「信じている」ことの場合、そもそもの信じる根拠が
自分のなんとなくの印象です。

理由を尋ねれば答えてくれるでしょうが、それは後づけ。
「なんとなく」で信じたことを、整合性がつきそうな形で後から解釈したものです。
人間の基本的な機能として「もっともらしく後づけで説明する」というのは
非常によくおこなわれる自然なプロセスですから、当然のことでしょう。

ただし、この「後から解釈する」プロセスは、
「人間らしさ」とあまりにも強く結びついています。

その瞬間の「なんとなく」の受け取り方が無自覚に起こった後から
一連の流れを過去のこととして振り返り、もっともらしいストーリーを見つける。
そうして時間の流れが認識されるわけです。

そしてこの時間の流れ、記憶の中の出来事の連続性こそが
『自分』という概念と密接に関わります。

『自分』とは、自分の身体の範囲と、身体が関わった環境中の出来事とを
体験したことのエピソードとして記憶されたもの、のように考えられます。

『自分』は、「これまでこういう経験をしてきた存在です」という認識に基づく。
その認識の中に、一連の筋の通ったストーリーを見出せると
大抵の場合、人はなぜか安心するみたいです。

「安心する」というよりは、「不都合を感じなくていい」というほうが正確でしょうか。

「自分ってこういう存在」とみなしている筋書きがある一方で
それに反する体験が記憶の中に存在してしまうと、不一致が生まれます。
「自分は○○のはずなのに、でも…」という葛藤が生まれる、と。

例えば、それまでの人生で親切な行動を取ることが標準だった人は
電車の中でお年寄りに席を譲らなかったという体験が一度でもあると
そのことが頭の中で強烈な違和感を生むわけです。
そしていつまでも後悔する。


NLPなどの言い回しで説明するなら「ビリーフ」があるということです。

「自分は〜〜だ」という思い込み、つまりビリーフがあって
それと反する体験があったときに不快な感じを体験する…
そんな説明でしょう。

しかしより本質的には、これは存在の危機から生まれるものだといえます。

『自分』という存在が揺らぐんです。

なぜならその『自分』という存在は、記憶の中で
もっともらしい筋書きとして作られたものであって、
その「もっともらしい筋書き」に『自分』の根拠を置いているからです。

筋書きを訂正しなければならないかもしれない場面に遭遇したら
そこで存在の確かさが揺らぎます。
自分という存在が危うくなるんです。

そのため多くの人は、自分の信じていること
(=なんとなく作ってしまった自分の経験の筋書き)
を否定されるのを嫌うんだと考えられます。


「理解」の場合には、『自分』と結びつきません。
その物事を客観的なこととして捉えています。
『自分』の筋書きとは別のところに理解の筋道を作っていますから
それを修正したとしても『自分』は揺らぎにくいんです。

一方、なんとなくの印象で「そうだ」、「その通りだ」と思ったことは
「信じたこと」として『自分』の筋書きの中に組み込まれます。

その瞬間は何も考えずに疑うことなく「そうだ」と受け止める。
それだけだったら、ただ流されていくだけです。

そこに振り返るキッカケが生まれると
筋書きの「もっともらしさ」は強化されます。

振り返って、自分が体験したことと「その通りだ」と思ったこととを
もっともらしいストーリーで説明し始めます。
不一致のないようにしようとする。

「その通りだ」と受け入れた瞬間には考えてもいなかったことを
あたかもそのときから考えていたかのように筋書きを作ります。

そしてその筋書きを言語化した場合には
「筋書きを語った」という体験もまた『自分』という筋書きに追加されます。

「語った筋書き」は全体として「もっともらしい」ものでないといけないんです。
でないと『自分』という筋書きが揺るがされますから。

しかしながら、根拠なく信じているだけだったことには、
新たな経験によって、もう信じられなくなってしまう場合もあります。

当然、ショックを受けます。

根拠なく「この人は良い人だ」と信じていた相手から
何かヒドイ仕打ちを受ければ、「裏切られた」とショックを受ける。

これまで「良い人」として関わってきた自分の筋書きが否定されたわけです。
自分の存在が揺らぐ。
ここにショックを生み出すものがあるのではないでしょうか。


誰かからヒドイ仕打ちを受けたと場合で考えると、
「この人は良い人だ」と信じている度合いが強かったときほど
受けるショックの大きさも増えるはずです。

そして、
 「もっともらしい筋書き」を作ることで『自分』というストーリーを確保する
という意味においては
「あの人は良い人だね」などと誰かに言ってしまうほうが
より筋書きの修正が難しくなりますからショックを強めることになります。

なんとなくの印象として「良い人そうだ」と感じながら長く接してきて
それで「裏切られた」と感じるような出来事があったとしたとき、
誰か別の人に「あの人は良い人だ」などと話していなければ
無理矢理に頭の中で「筋書きを作り替える」ことで対処が可能です。

「いや、本当は心のどこかで違和感があったんだ。
 あんなに優しそうだったけど、どこか腹黒さを感じていたし。
 そういえば、あのときの笑い方は不自然だった。
 本当は分かっていたんだ、良い人ではないって。」
などと『自分』を修正することができる。

実際、誰かに「良い人だと思っていたのに裏切られた」なんて話には
 「いや、確かにね、ちょっと違和感もあったのは本当なんだ。
  あーあ、あのときの直感に従っておけば良かったよ。」
などの内容が含まれることはよくあるものです。

そんな風にして「信じたこと」の修正を余儀なくされたときには
 『自分』という根拠が揺るがないように
 筋書きをもっともらしい形に作り替える
ということが多くなされるわけです。

これが1つの存在感の守り方なんでしょう。


最近、インターネットのニュースで
「STAP細胞は巨大利権によって潰された」といった陰謀説を目にしました。

かなりの頻度で見ましたし、ネット上でも広がりを見せたそうです。

「考えて理解する」ことをしようとすれば、STAP細胞に絡む情報は
その内容に科学的な根拠が一切なかったと受け取るのが妥当です。
最初から「作られた」ことを示すデータは存在していなかったわけですから。

しかしそれを「製薬業界の利権で潰された」という。
…STAP細胞なんて夢の万能細胞が実現してしまったら
 今の医薬業界は大ダメージを受けるから、業界に潰されたんだ、と。

実際には、STAP細胞以前にも、ES細胞やiPS細胞が
万能細胞として研究されています。
いわゆる再生医療という分野は研究が進んでいるんです。

なぜ今になってSTAP細胞だけを潰すひつようがあるのか?

そもそも再生医療の研究を推し進めている中に
製薬企業が含まれています。

そういう情報を吟味してしまっては、「信じる」ことができなくなります。

「STAP細胞はある!」と信じた人たち
 (※実際には「ある/ない」ではなく、「作れる/作れない」ですが…)
とくに、「STAP細胞はスゴイ!」などと意見を表明してしまった人たちは、
それを覆すことに大きな抵抗を感じたことでしょう。

自分の筋書きに修正が求められたわけですから。

そして『自分』という存在を脅かされるぐらいであれば
何か別の筋書きを作ってしまったほうが安全だったのかもしれません。

…STAP細胞はあった。
 ただ陰謀で潰されてしまった。
 (だから自分がSTAP細胞の存在を信じたことも
  STAP細胞を称賛したことも、筋書きとして一致している。
  自分のストーリーを修正する必要はない。)

そんなプロセスが起きていた可能性が想像されます。

「筋書きを修正すべきは自分ではない、世間の情報だ!」
と、『自分』の存在を守ろうという意図が含まれていそうに感じられます。

自分を否定するのは非常に苦痛なものですから。

cozyharada at 23:34│Comments(0)TrackBack(0)clip!NLP | 心理学

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
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