2015年05月08日

「どんな気持ち?」

ある種のカウンセリングの流派では
クライアントに気持ちや感情を言語化させようとします。

「どう感じたんですか?」
「そのとき、どんな気持ちでしたか?」
「どのような思いをしたんですか?」
「そのことについて、どのような気持ちですか?」
といった具合。


その意図を明確にして質問しているのかどうかは定かではないですが、
カウンセラー側がクライアントの気持ち・感情を理解するために
質問して明確にしようとする場合も多いようです。

その場合、
 「そのとき、どんな気持ちでしたか?」
  −「悲しかったです」
 「そうですか、悲しかったんですね」
といった流れになります。

傾聴のスタンスとして、オウム返しをしながら
クライアントの思いを受け止める、といったことなんでしょう。

これについては、カウンセラー側に観察力、共感力があれば
全く必要のない質問だといえます。
読みとれば分かる話ですから。

人によっては「見て取れることは単なる推測であって事実ではない」と考え
質問して言語化してもらうことで確信しようとすることがあるようです。

しかし、クライアントが言葉にして伝えてくれたからといって
その内容が本心のままだという保証は相変わらずありません。
カウンセラーへ気を遣って、もっともらしいことを言葉にすることもあれば
信頼関係の度合いによっては、本心を隠すことだってあるはずです。

本当は深い悲しみを感じているのに、それを言葉にせず
「うーん、特には何も感じません。冷静な感じです。」
などと返答するかもしれません。

クライアントの言葉が正直なものであるかどうかを判断しようと思ったら
結局、クライアントの様子を観察して、正直さの度合いを推測する段階へ
再び戻ってしまうわけです。

クライアントの本当の気持ちは、いつまで経っても推測しかできないんです。

であれば、直接的に読みとれるようになってしまったほうが
クライアントの気持ちを捉えられる度合いは大きくなるでしょう。

クライアントの気持ちを理解するために質問するとしたら
言葉でのコミュニケーションに偏っている可能性が伺えます。

また仮に、
「言葉で本心を伝えられる関係性になることそのものが
 クライアントの支えになる」
というスタンスだとしても、
その本心を伝えられる度合いは互いの信頼関係に基づきます。

クライアント側が
「この人は信頼できる」
「分かってくれる」
「本気で分かろうとしてくれている」
「自分のために本気になってくれている」
と実感できた度合いに応じて、思いを隠すことなく言語化するようになる。

その判断をするのはクライアント側です。

クライアントが「この人は信頼できる」「分かってくれる」と感じる根拠は、
結局、言葉だけのコミュニケーションではなく、非言語メッセージを含めた
カウンセラーの接し方すべてとなります。

それだけの根拠を最大限、クライアントに対して示していくことが
「クライアントの支えになる関係性」を築くカギとなると考えられます。

あとは時間の問題です。

ジックリ時間をかけて関係性を築けばいいと考えるなら
言葉でのコミュニケーションに注力しながら、
ただクライアントへ気持ちを向けて関わり続けてもいいでしょう。

その気持ちの向け方に応じた非言語メッセージの変化をクライアントは捉え
「この人は本気だ。自分を分かろうとしてくれている。」と判断して
少しずつ思いを隠さずに言語化するようになってききます。

一方、できるだけ短時間でそうした関係性を築こうとするのであれば、
気持ちを言葉にしてもらうような質問をするよりも
観察に基づいた共感的な言葉がけによって
「分かってくれる」「分かろうとしてくれている」ということを
クライアントに分かりやすい形で示すこともできます。

つまり、例えばクライアントが深い悲しみを抱えているとしたら、
 「それについて、どのように感じていますか?」と質問して
 「悲しいです」と応えてもらい、
 「そうですか、悲しんですね」と返す。
それを繰り返して時間をかけて関係性を築いていくこともできるし、
クライアントの表情や姿勢から感情を読み取って
 「とても深い悲しみを奥に秘めているように見えます。
 その思いを打ち明けることなく、乗り越えるための努力を
 ずっと一人でなさってきたのではないですか?」
と、分かってくれる存在であることを伝えて
速やかに関係性を築くこともできる、…ということです。

どちらを取るかはスタンスの違いだともいえますが、
プロとしてカウンセリングをするのであれば料金も発生するわけですし、
相談に来るまでに苦しんできた経緯もあるでしょうから、
短時間で楽になってもらったほうがメリットは大きそうな気はします。


また、気持ちや感情を質問することの別の意図として、
『気づきをもたらす』というものも考えられます。

クライアントが自分の気持ちに自覚するためのステップとして質問する。

人は自分の感情を全て自覚しているわけではありません。
鏡を見て初めて自分が腹を立てていることを発見したり、
人から指摘されて初めて自分の悲しさに気づいたりすることがあります。

これは
 ハッキリとは感情を自覚してはいないけれど、
 その感情はすぐに気づける状態にある
というときです。

このときに
「どんな気持ちですか?」
と質問されると、
クライアントは自分の内面に注意を向け、何を感じてるかを探り始めます。
そして自分の自覚していなかった感情に気づき、ハッとします。
「そうか、自分はこんなにも腹を立てていたんだ!」という具合に。

ここでポイントは、
 クライアントが自分で気づくために
 内面と向き合うプロセスに入る
ことです。

質問されて即答できるようなら、それはただ
自覚していた感情を言語化していなかっただけのことです。

カウンセラー側は感情を教えてもらうという点で情報収集ができますが、
これは前述のように、観察できていれば必ずしも必要のない作業となります。

クライアント自身が自覚していない感情に気づいたとき
そこに付随して様々な意味づけが起こります。
これがカウンセリングのプロセスとして重要なんです。

仮に、怒りを自覚していなかったとしたら、怒りに気づいたとき
怒りの対象にも気づきやすくなります。
「何にそんなに腹を立てていたんだろう?
 …そうか、あのことが凄く嫌だったんだ!
 本当は、もっとこうであって欲しいと願っていたんだ。」
といった感じです。

自覚していなかった感情に気づくと
その感情を生み出していた部分にも気づきやすくなる。
人間関係の場合、そこには大抵、相手への期待が含まれています。
「こうあって欲しかった」、「本当はこういうのを望んでいた」という内容です。

その期待を自覚できるようになると、実際の人間関係に戻ったとき
自分が相手へ期待している内容、つまり要望を、
ハッキリと分かりやすい言葉で相手へ伝えやすくなります。

するとクライアントの関わっている相手もクライアントの意図を掴めますから
それに応じた対応を取りやすくなる。

ただの感情レベルの応酬ではなく、分かりやすく要望を話しあえるわけです。

そして親密な関係であるほど、その要望は両方にとってのメリットを含むものです。
例えば、「一緒に楽しい時間を過ごしたい」とか
「最も信頼する相手にだから賛同して欲しかった」とか。

そうしたレベルの要望を伝えられた側も、多くの場合
親しい間柄であるからこそ、要望に答えたい気持ちを持っているものです。

だからこそお互いを思い遣る関係性にシフトできる。
絆の深まりと、状況改善への双方の努力が起き始めるんです。

これが『クライアントが自覚していない感情に気づく』ことの大きな意味です。

そしてこの『気づきをもたらす』方法として、色々なやり方がある。
流派の違いです。

その1つがシンプルな質問。
「どう感じたんですか?」
「それについて、どのように思いますか?」
「そのとき、どんな気持ちだったんですか?」
…といった聞き方。

あるいは、ゲシュタルト療法などで使われるものとして
「こう言ってみてください」
というのもあります。

おそらくクライアントが感じているであろう気持ちをセリフに変えて
それをクライアントに発話させるように指示する方法です。

クライアントはそのセリフを口にしたとき、
言葉と気持ちが一致する感じを体験します。

言語は体験の記憶と結びついていますから、
実際に抱えていたであろう気持ちを無理やり言葉として口にしたとき、
その気持ちを伴った体験があれば、連動して意識に上がりやすくなります。

結果として、セリフを口に出したときに気づきが起こる。
「あぁ、そうだ!確かに自分はそんな気持ちを感じていた。そうだ!」と。

自覚してはいないけれど意識に上がりやすい状態にあった気持ちであれば、
そんな風に『言葉を言ってみる』作業を通じて気づけるわけです。

このやり方では、逆に当てはまらないセリフを口にすることで
「そうじゃない!そんな気持ちじゃない。本当はこうなんだ。」
と自覚していなかった別の気持ちに気づく場合もあります。

ちなみに、このときカウンセラー側が、
 わざと当てはまらないことを言わせたのか
それとも
 当てはまるつもりで言わせたのに予測が外れて
 結果としてクライアントが別の大事な気持ちに気づくことになったのか
の違いは、カウンセラー本人にしか知る由もありません。

まぁ、「とりあえず思いついたセリフを言ってもらって
クライアントに何かの気づきが起きれば良い」
というスタンスもあるのかもしれませんが。

とにかく、『セリフを言ってもらう』方法には
真逆の2つの効果のうち一方を生む可能性がある、ということです。

そして、質問でも『セリフを言ってもらう』でもない方法として
「気持ちを汲み取って代弁するように言葉をかける」やり方があります。

「本当はこういう気持ちもあったのではないですか?」
「お気づきかどうか分かりませんが、○○な様子が見て取れます。
 何か思い当たるところはありませんか?」
といった感じ。

クライアント本人が自覚できていない感情であっても
表情や姿勢、声のトーンなどから客観的に読みとれる場合がありますから、
それをカウンセラー側が伝え返して、注意を向けてもらうわけです。

するとクライアントは内面に注意を向けて、
指摘に当てはまる気持ちがあるかどうかを探し始めます。

結果として
「あぁ、確かに。言われてみれば、そういう気持ちがあります。」
となる。

そこから期待していたことにまで気づきを広げていく…という流れは同様です。

ですから、
・「どんな気持ちですか?」と質問する
・「こんな風に言ってみてください」とセリフを指示する
・「○○なように見えます」と指摘する
のいずれの方法でも、
クライアント本人の自覚していなかった感情へ気づくキッカケを与えられるんです。

そして、そこを隠れていた”わだかまり”の解消の糸口にできる。

そういう方向性もあるんです。


まとめると、
クライアントの感情をカウンセリングの話題に上げるのには2通りの意図がある
ということになります。

1つは、クライアントの気持ちをカウンセラー側が把握すること。

こちらには、
その気持ちを理解するプロセスを通じて、カウンセラーが
クライアントから「分かってもらえる」、「分かろうとしてくれる」相手として認識され、
信頼関係と安心できる関係性を築く
という効果も伴います。

そして「分かってもらえる」、「分かろうとしてくれる」相手であることを
クライアントへ伝えるためのメッセージとして、
・「どんな気持ちですか?」と質問する
・感情を読み取って、共感的な言葉をかける
といった方法がある。

もう1つの意図が、
クライアント本人が自覚できていない感情に気づいてもらう
です。

こちらには
隠れていた感情的わだかまりを解消するための糸口を発見する
という効果があります。

そして自覚していない感情に気づいてもらうための方法として
・「どんな気持ちですか?」と質問する
・「こんな風に言ってみてください」とセリフを指示する
・「○○なように見えます」と指摘する
といったものが挙げられます。

この2つの意図を区別しておくと、カウンセラーとして
「その場面で自分が何をしようとしているのか?」
「どんな方向性に進めようとしているのか?」
と明確にするのに役立ちます。

カウンセリングのプロセスからも無駄を省きやすくなるでしょう。

「どんな気持ちですか?」という質問であっても
「○○なように見えます」というフィードバックであっても、
両方の意図で共通して使える方法なんです。

しかし同じ形をしていても、意図が異なる可能性がある。
区別して使い分けると良いのではないでしょうか。

他の人のカウンセリングのやり方を見て参考にする場合でも同じです。

同じフレーズを別の意図で使っているかもしれません。
どちらの意図なのかを察しながら観察すると、
カウンセリングの流れを検討する上で、とても有効でしょう。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
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