2016年02月06日

エッセンスと不純物

前回のつづきです。

そのものの性質を再現しようとしたり、効率的に表現しようとしたりする場合
それと丸々同じものをするよりも、凝縮してしまったほうが都合が良いものです。

この凝縮の仕方が、大きく分けると2通りあるという話。

1つは本質だけを選び出して、無駄を不純物として排除するやり方。
バニラビーンズの香りを再現するのにバニリンという主要成分を見つけ
それをバニラエッセンスとして使うなどのケースです。

こちらは『エッセンス』と呼ぶのが良さそうです。

もう1つは、そのものの全てを不純物も含めて濃縮するやり方。
ただ濃くして、量だけをコンパクトにする。
バニラの香り成分を(ほぼ)全てアルコールに溶け出させ
濃厚なバニラの香りの液体、バニラ・エキストラクトを作るような場合です。

こちらはエキストラクトを省略して『エキス』と呼ぶのが都合が良いでしょう。

濃縮の仕方には、エッセンスとエキスがある、と。


で、技術や知識などの学習を効率的にするためにも
エッセンス的な方法と、エキス的な方法があるわけです。

前回はそんな話(呼び名を付け加えました)。


NLP(神経言語プログラミング)の発端は、心理療法家の研究でした。
達人と呼ばれた人たちが何をやっていたのか?
それを抽出しようというのが出発点だったんです。

その対象には催眠療法家ミルトン・エリクソンも含まれていました。

エリクソンにも沢山の弟子がいました。
しかしエリクソン自身では、分かりやすい方法論は指導していません。

もちろん大事な教えは沢山残していますし、本人も論文を書いたりしています。
が、エリクソンの方法論を書き遺しているのは、ほぼ全て他人です。

弟子やエリクソンに興味をもった研究者たちが
エリクソンのやり方を研究、分析して、抽出したんです。

これはエッセンスです。
エキスではありません。

エリクソンはおそらく、自分自身の講座や、弟子への治療的介入によって
エリクソン・エキスを注入していたんじゃないでしょうか。

ところがエリクソンの「系譜」の人たちは
自分の目線でエリクソンのセラピーを抽出して方法論にしようとしたようです。

初期のNLPもまた、エリクソンのセラピーからエッセンスを抜き出そうとしました。
それがエリクソンの言語パターンとしてのミルトン・モデルや催眠の技法です。
資格取得コースでは詳しく扱わないようなものも含めると
NLP関係者が抽出したエリクソンの技法は本当にたくさんあります。

それらはエッセンスなんです。
”無駄”を省いている。

だからこそ早く身につくわけですし、
誰もがエリクソンに近いことをできるようになります。
「近い」ことが。

それは偉大なセラピストのしていたことの一端でしかありません。
他を省いているからです。

複雑なバラの香りのうち、1成分だけを分析して
それを「バラの香り成分」として伝えているようなものです。

確かにバラに含まれている香り成分ですし
部分的に抽出しても、バラの特徴の一部は感じとれるでしょう。

エリクソンの技術の凄さを物語るのは、むしろ
そうやって部分的に抽出した1成分のような技法であっても
それを採用するだけで充分に大きな効果を得られるところともいえます。

一方で、その成分は一部であって
 エリクソンの使っていた手法の1つを学びやすく整理したものだ
ということを見逃すことはできません。

エリクソンのエッセンスの1つであって、
エリクソン全体のエキスではないんです。

様々な先達が分析したエリクソン成分は
それぞれが名前をもった技法として発表されています。

言うまでもなく、その技法を一通り勉強して身につけたからといっても
エリクソンと同じことができるようにはならないでしょう。

それはバラの香り成分を様々ブレンドして
元のバラの香りを作ろうとするようなものだからです。

配合のバランスも難しいし、
抜け落ちてしまう成分だってあるはずです。

もしかするとエリクソンが一番大事だと思っていたところを
誰一人として分析していないかもしれません。

ここがエッセンスを抜き出す種類の学び方の難しいところだと感じます。

つまり、
 他人が分析して成分を抜き出す以上、
 そこには分析者の基準が含まれてしまう
性質が避けられないということ。

本人が抜き出したエッセンスと、他人が分析して抜き出したエッセンスでは
ポイントの整理の仕方に差が出てしまう可能性が高いわけです。

そして分析者が辿りついていない視点で本人がやっていることがあったら
その部分に分析者が気づくことはないでしょう。
知らないし、思いもよらないところなのですから。

とりわけミルトン・エリクソンは常人離れしたことをやっていて、
エリクソンを分析、研究した人たちは、大部分が生徒にあたります。

師であるエリクソンのしていることを、どれだけ理解できていたのでしょうか。
気づくことができず省いていしまった成分に
実にエリクソンらしい部分があった可能性も考えられるのではないでしょうか。


このように、ある人のしていることを他者が分析して
その重要な要素・成分を抜き出し、整理することを
NLPでは『モデリング』と呼びます。

達人のようになれるように真似をして
そのコツ、つまりエッセンスを抽出するわけです。

繰り返しになりますが、その抽出過程には他人の分析が含まれます。
モデリングをする人が、モデルとなる人を分析して
モデリングする人自身の判断基準でポイントを掴むんです。

そのポイントが、モデル(真似される側)にとって重要かどうかは無関係です。

そして、それで構わないんです。

コツをつかみ、上達することが目的なのであって
モデルと同じになることが目的ではないからです。

役に立つエッセンスを抽出できれば充分。

モデリングの結果、あるエッセンスを抽出して上達して、
それでもまだモデルとの間にパフォーマンスの差があるなら
もっと抽出できるところがあるはずだ、と考えれば良いんです。

もう一度モデリングする。
そしてまた新たなエッセンスを1つ抽出する。
それをもとに上達する。
…また違ったエッセンスをモデリングする…。

達人をモデリングするときには
そうやって何度もモデリングをしたらいいんです。

実際、NLPはミルトン・エリクソンを繰り返しモデリングしたようです。
初期にまとめた言語パターンだけでなく、
エリクソンを元にした技法は後々にも追加された形跡があります。

実際、創始者の一人、リチャード・バンドラーは
ある時期、シャーマニズムにハマっていました。
シャーマニズムセミナーなんかもしていたぐらいです。

もしかするとエリクソンの中に、そうした超人的な側面を見たのかもしれません。

モデリングする側の着眼点が変われば
抽出できる成分の種類が変わってくるという話です。


モデリングには、そのエッセンスを抽出する人の着眼点が含まれる。
この性質は避けられません。

モデリングをした人が、「これこそがエッセンスだ」と思ったから
そこがモデルの特徴として説明されるんです。

モデルとなる人を設定して、自分でモデリングをして
エッセンスを抽出し、自分が上達できるようにする。
この限りであれば安全です。

目的が「自分が上達する」ところにあるからです。

極論をいえば、
 モデルと似ても似つかなくたって上達したんだからOK
ということだってありえます。

あるいは目的を「すぐに使えて役立つ手法を作る」ところにあれば
自分がモデリングしたものを方法論として形にするのもいいでしょう。

NLPの技法でいえば、ミルトン・モデルという言語パターンは
ミルトン・エリクソンと同じように催眠療法を使えるようにするためのものではなく、
「催眠をするときや、他者へ影響を与えるときに効果的な言葉の使い方」
という使い勝手の良いものだといえます。

ディズニー・クリエイティブ・ストラテジーという技法だって
それだけでウォルト・ディズニーのようになれる『エキス』ではなく、
ウォルト・ディズニーの特徴の1つをエッセンスとしてワークに変えたものです。
使いやすくて効果的ですが、ウォルト・ディズニーになるのが狙いではありません。

抜き出したエッセンスがモデル本人をそれほど再現していないとしても
すぐに役立つ手法を作るという目的に沿っていれば
それもエッセンスの使い方としては有効でしょう。

NLP全体もそうやって多くの人を断片的にモデリングして
様々なエッセンスを抽出して作られました。

ですからNLPは、エリクソンをはじめとするモデルの誰とも似ていません。
その分、人間の誰しもを理解するための着眼点に辿りつけたともいえそうです。

喩えるなら、
 バラの香り成分だけにこだわってエッセンスを調べたのではなく
 様々な香り成分のエッセンスを研究していった結果、
 香料の一覧をストックすることができて、香りとは何かを理解しやすくなった
といった感じ。

エッセンスを抽出するやり方には、
成分を理解して、応用の範囲を広げるメリットがあります。

元のものを忠実に再現するのには、それほど向いていないかもしれません。

同様に、モデリングの目的は
・自分が上達するためのコツをモデルのエッセンスの1つから手に入れる
・誰にでも役立つ手法を作るために達人のエッセンスの1つを分析する
ところだと考えられます。

いずれにしてもモデリングした後に得られたエッセンスの部分は
モデル本人を反映しているから価値があるのではなく、
何かしらの形で役に立つから価値がある、ということです。


モデリングして得られたエッセンスは、もうモデルから離れているんです。

誰かが抽出したモデルのエッセンスをどれだけ学んでも
モデルのようになるのは難しい。
遠いんです。

エリクソンを研究して作られた技法は数多くあります。
それを学んで期待できるのは、エリクソンに近づくことではなく、
自分が上達したり理解を深めたりするほうにあるはずです。

すでに他の人が抽出したものを学ぶのは自分に役立てるため。
モデリングの性質からすると、そう割り切ったほうが無難ではないでしょうか。

もしエリクソンに近づきたいなら、まだ自分で
エリクソン本人を真似するほうが効果的でしょう。

ひたすら自分でモデリングを繰り返す。
誰かが抽出したエッセンスとしての技法は、あくまでも一成分として理解しつつ
とにかく自分でエッセンスの量を増やしていきます。

どんなに複雑なバラの香りでも、成分を一通り分析して
細かいものまで忠実に混ぜれば、元の香りに近づくだろう、といったスタンスです。

それでも自分が気づけないことはエッセンスとして抽出できませんから
これには限度があるのかもしれません。

やはり達人と同じ境地にまで辿り着く方法論としては、
エッセンスを抽出するのは向いていない気がします。

同じ境地に辿りつくには、エッセンス的な学びよりも
エキス的な学びのほうが効果的なのかもしれません。

次はその辺りを『エキス』の観点で書いてみます。

cozyharada at 23:51│Comments(0)TrackBack(0)clip!NLP | NLPの基本情報

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
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