2016年02月14日

押しのける人

夜9時過ぎだったでしょうか。

電車に乗っていました。
山手線、新宿駅だったかと思います。

ラッシュではないものの、平日ですからそれなりに混んでいて
隣の人と触らないけれども多くの人が立っているような状況でした。

僕は比較的運のいいことに、ドアのすぐ脇、イスの端のあたりに位置取れて
ドアに対して横を向くように(横並びのイスに寄りかかる形で)立っていたんです。

ちょうどドアを通る人の流れが見えるような向きです。


僕の前方には白杖を持った男性が立っていました。

車両としては真ん中ぐらいでしょうか。
ドアの真正面の中央ぐらいにいたんです。
出入りが確実な場所でしょうから、自然なことだと思います。

白杖を持っているといっても、電車の中では体に抱える形になります。

僕の角度からは杖が見えていましたし、
顔や目の様子からも視覚障害の方だというのは伺えました。

が、その人の後ろ側にいた人からは、その杖が見えなかったようです。

そもそもそれほど他人に気を配っている人も多くありません。
いったい何人がその人に気づいていたことか。


そして電車は新宿駅に到着しました。

ラッシュは過ぎているとはいえ、乗り降りの多いタイミングです。
ホームに入る電車の窓からも、乗車待ちの人の列が見えました。

車内アナウンスの反応からして、その人も新宿で降りそうな様子でした。

ふだん僕は電車が止まったことを目で見て確認していますし、
ドアが開く前から降りる準備をしています。
そしてドアが開くや否や一歩を踏み出せる準備をしています。

きっと多くの人がそうでしょう。
僕よりももっとセッカチな人は、まだドアが開いてもいないのに
前の人を押すように体重移動を始めたりもします。

ところが視力に障害がある人にとっては
電車を降りるための一歩を出すタイミングも簡単ではないのかもしれません。

電車が止まったことを揺れで確認する。
ドアが開く音を聞く。
車内アナウンスを聞く。
他の人の流れを感じとる。

さまざまな要因を総合的に判断して、まず確実に
 「ドアが開いている」
と思えたときに歩きはじめるのでしょう。

実際、その男性も歩き始めるのが遅かったんです、
他の人と比べて。

電車のドアが開いて、人の流れが起き始めて
ワンテンポ遅れて一歩目を踏み出す感じ。

1、2秒も違わなかったと思います。


ですが、早く電車を乗り降りするのに慣れている他の人たちは違います。
そもそも気分もセカセカしているし、一瞬でも早く降りようと気が立っている。

ちょうどその男性の後ろ側にいたオジサンも
何かの理由でイライラしていたのでしょうか。

ドアが開いたらすぐに歩きだそうとしました。

その前には目の不自由な男性がタイミングを計っています。

後ろにいたオジサンからすると遅かったんでしょう。
目の前で立ちすくむ男性に視覚障害があるとは気づいてもいない。

その人は舌打ちをしながら、白杖を持った男性を押しのけるようにして
電車から降りていきました。

その様子はまるで
 非常識で迷惑なヤツをこらしめる正義感と
 自分に害を及ぼすヤツを排除しようとする不満と
両方が混ざりあったような感じでした。

表情からも、歩き方からも、押しのける際のぶつかり方からも
抑えきれない怒りがはみ出ているかのよう。

そしてドスドスと足を踏み荒らしながらホームへ降りると
自分が押しのけた男性を睨みつけるようにして振り返りました。

あたかも「何やってんだ、コイツ!邪魔なんだよ!」とでも言わんばかりに
ガッと勢いよく、不良少年がガンを飛ばす雰囲気で後ろに振り向いたんです。

すると電車の中では、自分が押しのけた男性が
ゆっくりとした足取りで歩き始めようとしていたところでした。

脇には白い杖が抱えられています。
足取りからも顔からも、すぐに目が不自由なことが分かったのでしょう。

一瞬でした。


睨みつけて怒りを表そうとしていたオジサンは
パッと表情を変えました。

「あ!やっちゃった!」という感じ。

さっきまでの苛立ちはどこへやら、みるみる姿勢は縮こまり
表情にも申し訳なさが溢れてきました。

もともとは睨みつけて、そのままホームの階段に進もうとしていたのに
足が地面にくっついてしまったかのように体が固まっていました。

そして口元をアワアワさせながら、何かを言いたそうな様子でした。

ちょうど電車を降りようとする男性に謝りたかったんだと思われます。

声をかけようと身を乗り出し、でも躊躇して留まる。
今にも「あの…」と言いそうな口の形で
近づこうと体重を前にかけ、すぐにやめて元に戻る…、
そんな動きを繰り返したあと
結局、そのオジサンは声をかけるのをやめて階段へと歩いて行きました。

気まずそうな背中で、早くその場を立ち去りたいかのような早足で。


押しのけて電車を降り、睨もうとして振り返り、状況を把握して急に反省。

きっとこのオジサンも、最初から白杖に気づいていたら
違った対応をしていたと思います。

不満に身を任せて厳しく押しのけることもなかったでしょう。
焦らずに待ったかもしれないし、
横を静かに通り抜けようとしたかもしれません。

もしかしたら逆に、親切心から声をかけていた可能性だって否定できません。

状況の捉え方によって、心の前面に表れるものが違うんです。

押しのけるほうが本心なのでもなく、
謝ろうとするほうが本心だというのでもない。
どちらも共存している。

自分の身に置き換えれば、どちらを前面に出すかも重要でしょう。

他人を見るときにも、その人のどの側面を見るかが関わるともいえます。

僕は幸い、その出来事の一部始終を見ていました。
しかし中には、押しのけたところだけしか見なかった人もいたかもしれません。

同じく電車の中にいて白杖に気づいていない目撃者だったとしたら
ただ単に「人を押しのけて出て行ったオジサン」ぐらいに感じる。

ホームで電車を待っていた人なら白杖にも気づいていて
「視覚障害のある人を押しのけて電車から降りてきたオジサン」
というように”ヒドイ人”として判断していたところかもしれない。

あるいはホームを歩いていて途中から目撃し始めた人ならば、
「目の不自由な人に声をかけようとするオジサン」と映った可能性もある。

僕のように一部始終を見ていたら
「一時のイライラに任せて行動したら反省してしまった
 ちょっと気の毒で、可愛げのあるオジサン」
ぐらいにも感じられそうです。

他人のどの部分を見るかが、自分の判断に影響する。

とても意味深いところじゃないでしょうか。

自分に見えたものだけが、その人の全てではない。
当たり前のことですが、見ていないものを汲み取るのは簡単ではありません。

だからこそ判断には気をつけたいものだと思います。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
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