2016年02月18日

安心してください

お笑い芸人の「とにかく明るい安村」には決めゼリフがありますね。

海水パンツを体の角度で隠して見えなくしてポーズ、
それから元の正面の姿勢に戻っての一言です。
「安心してください、履いてますよ」、と。

お笑いの解説はするものではないかもしれませんが、
コミュニケーションの理解のために題材として使わせてもらうと
この「安心してください」のフレーズは興味深いんです。

「安心してください」が笑いを引き出すために使えるのは、
 最初から誰も心配していない
からです。

一見すると全裸に見えるポーズだけれど
海水パンツが見えないように隠しているだけで
裸ではないことを誰もが知っています。

最初に履いている姿も見ているし、「全裸に見えるポーズ」という補足まで入る。
裸じゃないのに裸に見える角度を無理やり作っているから『お笑い』であって、
誰も「もしかして本当に全裸なのでは?」とは思っていない。

とてもバカバカしいことをしていて、それでも見事なアイデアのものもあれば
「さっきと同じパターンじゃないか」というのもあります。

このシーンを見ているときの心の動きは、見る人によって差が出やすいはずです。
「ははー、バカだなぁ」とか
「それ、いつもやるポーズじゃないか!」とか
「そんな姿勢はしないよ」とか
「ああ、あるある!」とか…。

見ている人にも個人差があるのと同様に、
個人の中でも複数の気持ちが同時に沸いていることもあるでしょう。

バカバカしくて、ありえなくて、でもチョットありそうな微妙なポーズで笑いを誘う。
普通の漫才やコントであれば、『ボケ』に当たる部分だと解釈できます。


ところが漫才やコントと違うのは、『ピン芸人』だということ。
ボケた後、『ツッコミ』は入りません。

人は学習するものです。
すぐに慣れる。
慣れて安心した流れを使い続けます。

お笑いを見れば「『ボケ』の後には『ツッコミ』が来る」となんとなく予想しています。
だからこそ『ボケとツッコミ』が存在しないピン芸人には工夫がいるのでしょう。
ボケ、ツッコミ、両方の要素を一人芸の中に組み込むためです。

どうやら『ツッコミ』の役割としては、
 ボケの不条理さを指摘する
という部分にありそうです。

おかしいことを「おかしい」と指摘する。
「どのようにおかしいのか?」を指摘する。

ある意味では「分かりやすくしている」とも言えるんじゃないでしょうか。

そこでフッと安心します。

普段の社会生活では起きない不条理なこと、つまりボケが示されて
人は一時的に軽い混乱に入ります。
予想を裏切られた状態で、驚きにも似たものです。

ここで予想外の度合いが大き過ぎれば、見ている側は「驚き」が強くなってしまう。
ありきたりの範囲であれば、予想がついてしまってシラけてしまう。

丁度いいレベルの予想外に遭遇したときの軽い混乱。
いわば異常事態ですから、体としては緊張に近いものになると考えられます。

そこでツッコミです。
「おかしさ」を指摘してくれることで状況が理解できる。
「これはこのように不条理なのだ」と事態が飲み込める。

それで「そうだよね」と安心できるんです。
いつもの状態に戻れる。
ここに緊張が緩む瞬間があります。

笑いは、この「緊張の緩和」の瞬間に起きていると考えられています。


ピン芸人だと、
 不条理なことを起こして軽く混乱させ(ボケ)
 それを分かりやすく指摘することで当たり前の状態に戻す(ツッコミ)
という流れを一人でやる必要があります。

よく見受けられるのは
 不条理でありながら、それが理解できる程度に分かりやすくする
パターンでしょう。

ツッコミが言葉で分からせてくれなくても、
見ている人が自分で理解して、混乱から回復できるような形で見せる。

分かりやす過ぎれば予想がついてしまうし、
予想を大きく上回ってしまうと混乱が続いてしまいます。

このバランスのとり方にピン芸人の技量があるのかもしれません。

落語は一人で複数の役をこなしてボケとツッコミの両方を登場させたりもしますし
理解できる程度の「予想外」レベルを絶妙に狙う傾向がありそうです。

陣内智則は画面効果や特殊な状況設定で不条理さを引き起こし
自分が『ツッコミ』として納得のサポートをしているようです。

バカリズムは絵や場面設定を工夫することで視覚的に分かりやすくして
不条理な驚きの大きさと、分かりやすさとを両立させていると考えられます。

多くのピン芸人が「いつものパターンで落とす」という手法を使うのも
不条理さを大きくしながら、「いつも通り」の安心感に戻せるからでしょう。

『ボケ』と『ツッコミ』という混乱させる役割と安心させる役割の分担を使わずに、
「不条理による混乱」と「何が起きたかの納得」に落差をつける。
ここの調整を一人でやるのですから大変なものだと思われます。


そして冒頭に取り上げた とにかく明るい安村 も
「いつものパターン」に戻すことで緊張を緩めていると解釈できそうです。

海水パンツ一丁で、音楽に合わせたタイミングで、全裸に見えるポーズをする。
そして「安心してください、履いてますよ」の決めゼリフ。
この一連の流れに「いつものパターンの安心感」が生まれます。

全裸ポーズそのものには、
 バカバカしいほど分かりやすい、
 ありそうなシーンが誇張されている、
 ありえないほど不自然になっている、
 工夫できるポーズに限界があるからこそ、お決まりのポーズに落ち着く…
といった様々なパターンが登場しますから、
ツッコミの説明なしで納得するには見る側の努力も必要になってしまいます。

ときには混乱が解消されずに続いてしまったり、
逆に混乱が小さかったりするケースもあるでしょう。

このあたりのポーズのバリエーションも、流れのランダムさとして
予想外の混乱を生むのに使われていると考えられます。

だからこそ安心できる状態にリセットするための
「いつものパターンが」効果を発揮するのでしょう。

それが「安心してください、履いてますよ」にある、と。


冒頭にも指摘したように、「海水パンツを履いていないんじゃないか?」とは
誰も心配していないはずです。

見ている人は、いつもの流れに戻ることで
混乱からの回復(緊張の緩和)を体験できます。

そのうえ「心配してないよ!」という心の中のツッコミを聞けます。

この部分、ある意味では、とても分かりやすい流れだということです。

「全裸に見えて心配したかもしれないですけど、大丈夫ですよ」という意味で
不条理なセリフを聞かされて、それに対して
「そんなことないって!心配してないから」と
素直に訂正しながら、不条理さを理解して安心できます。

いつものパターンという安心感に加えて
分かりやすいボケに対する安心感もある。
その意味で、混乱を解消してリセットする効果が非常に高そうです。

しかも、コミュニケーションの観点からすると
「安心してください」という単語自体にも効果があると理解できます。

そもそもお笑いを見る側として、リラックスして安心したい前提があります。
着実に緊張の緩和を体験して、安心できる土台を保ちながら
混乱と納得を繰り返していきたい心の動きがあると考えられます。

ずっと混乱したままでも嫌だし、期待外れも嫌なんです。
安心して笑っていたい。

そういう気持ちが心のどこかに存在しているはずです。

「安心してください」のフレーズは、その部分に響きます。

話の文脈とは違いますが、催眠でちりばめの暗示が効果的なのと同様に
短い言葉単体で、心のある部分とマッチすることがあるんです。

混乱と安心が共存する笑いのプロセスにおいては
 「安心してください」は見ている人の心の一部にペーシングしている
ともいえるわけです。

流行るのも納得のフレーズなのかもしれません。



と、ここまで色々と説明してきましたが、別に
お笑いの解説をしたかったのではありません。

「安心してください」のフレーズは、お笑いだからこそマッチしている
という部分を強調したかったんです。

このセリフが他の場面で使われたらどうでしょうか?

例えば、信頼を失いかけている政治家が
「安心してください、日本は大丈夫です」
と言ったとしたら、どんな反応が心の中に沸くでしょう?

「安心してください」が非日常的な「お笑い」の場面で見事に成立するのは
裏を返すと、日常のコミュニケーションでは空回りする可能性がある
ということに繋がるのかもしれません。

次はその辺を説明してみます。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
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