2016年05月18日

手を抜かない人

何度かブログに書いたことのある近所のラーメン屋。
アルバイトが一人、退職するらしいです。

まあ、アルバイトですから入れ替わりは当然あって、
それは特別なことではありませんし、
最近の特記事項は異常なベトナム人比率の高さでしょうか。

正確な雇用体系は分かりませんが、どうも系列店というか
グループ店舗のようなものがあって、グループ内では
スタッフが所属店舗とは違う店にも応援で派遣されるみたいです。

ですからおそらく、雇用はグループ単位、所属先が店舗単位、
採用も店舗単位、シフト管理や教育も店舗単位、
人手不足のときにグループに申請すると人材を工面してくれる…
といった感じじゃないかと思われます。

で、たまに派遣されてくるスタッフ(別店舗のTシャツを着ていることが多い)は
皆、日本人なんですが、どういうわけか僕の行く店舗は
アルバイトとしてベトナム人を多く雇っているようなんです。

店舗所属の厨房に入るアルバイトが4、5人入れ替わる中で
少なくとも3人はベトナム人だと思われます。
(ベトナム国籍は一人から確認済み。残り二人は知人のように見える)

どういう経緯や想いがあってベトナム人スタッフを雇うのか分かりませんが、
見ている限りでは、日本人で厨房に入っている人は
「働きながら修行をして、いずれは独立をする」というスタンスが多いのでしょう。

見るからに任される仕事の種類が違いますし、
働くときの姿勢も向上心が高くて主体的です。

そうした少数の独立志向のスタッフが、徐々に店を任されるようになって
店長が休みの日や休憩の時間帯を仕切るようになり、
最終的には退職(もしくは正社員のまま退店?)して
身につけたことを活かしながら自分の作りたいラーメンで
自分の店をやるようになっていく、という傾向のようです。

まさに今回、近いうちに一人の店員が辞めるのは、この
 店を卒業して、自分の店をオープンさせる
ケースとのこと。

地元に店をオープンさせるんだとか。


それで、なぜ僕がそんなことについて書いていているかというと
この店員が他の店員とは一線を画すものを示していたからです。

非常に仕事が丁寧で、的確。
味覚のセンスも、調理のセンスも高い人だと思われます。

ともすると作業の丁寧さでは店長以上かもしれません。

だからといって必要以上に時間をかけるのでもない。
作業は店を運営するのに必要なスピードを充分に確保しています。
慣れない新人よりも速い。

ただし、注意が離れないんです。
1つの作業をやっている間は、最後の一瞬までそこに注意を集中できる。

その作業が完全に終わって初めて、次の作業に注意が移る。
すると今度はそっちの作業にまた注意が集中する。

器用に淡々とこなすほうですから、決して
周りが見えなくなるほどの集中力ではないでしょう。

1つの作業に見えることのなかに、おそらく沢山の気にかけるところがあって
それを同時に気にかけているから次の作業に注意を配る度合いが低いんです。

他のアルバイトだと、どうしても1つの作業を1つのこととしてやります。
「醤油ダレを入れる」は「醤油ダレを入れる」という1つの作業として認識され
そこに含まれるチェックポイントが少ないように見受けられます。

とりあえず店長からOKが出た範囲の自分のやり方を
特に意味を考えることなく繰り返す。
及第点の「正しい」ことをやっていますが、「より良い」ものを心がけてはいません。

一方、その店員は常にベストを心がけるような姿勢で作業をします。
「醤油ダレを入れる」が沢山の作業の組み合わせとして認識されているはずです。

もちろん次にやらないといけないことや、全体の状況なども意識しているでしょう。
だからといって、細分化された作業のうちのどれかを飛ばすことはありません。
結果として「醤油ダレを入れる」作業の最後の一瞬まで
気持ちが醤油ダレから離れないわけです。

武道でいう斬新の感じ。

醤油ダレの最後の一滴が落ちる瞬間を見ようが見なかろうが
時間の違いは1秒にも満たないでしょう。

それでも平均的なアルバイトは、醤油ダレが丼に9割方入ったあたりで
目線を醤油ダレから離すんです。
そして次の作業に注意が移っている。

このように注意を次の作業に先取りする形で進めて
早く作業の流れを進めようとするやり方では、
どう頑張っても数秒しか違わないと思います。
9割は同じなんですから。

最後の1割分を急いだところで短縮される時間は僅かしかない。

しかも、そうやって作業の最後を慌てようとするから
逆に1つの作業が一回で完結しないことさえあります。

例えば、具材のネギを乗せるときに、一回取って器に盛り付け、
足りないから、もう一回ネギを追加する動作が加わる、とか。

1つの作業への集中力を1割減らすことで、結果的に二度手間になり
せっかく削減した1割の時間(1秒未満)よりも長い時間をかけることになる。

ここで話題に挙げているその店員は、1つの作業に注意を集中させ続け
細心の気配りで丁寧に仕事をするからこそ、
1つ1つの作業でやり直しや修正を加えることが少ないんです。

無駄がない。

寿司の早握りでいうと、
 慌てて忙しく手を動かしているのに無駄が多くて数がこなせない
のか
 ゆったり落ち着いて見えるのに無駄な手数が少ないから数がこなせる
のか、
そんな違いに似ていると言えそうです。

丁寧に落ち着いてやりながらも、無駄がないからスピードも出るタイプです。

ラーメン屋の店員ですが、
しっかりした技術を持った寿司職人や天ぷら屋に通じる特徴がある。
そういう意味で、僕は注目をしていたわけです。


実際、彼が調理してくれると美味しいんです。
安心できます。

もちろん店長のときも美味しいんですが、
店長が入るときほど新人アルバイト率も上がります。
すると一部の作業を新人にやらせることになるので雑な仕事が混ざってくる。

でも、その店員は違いました。
誰よりも細心の注意を払って調理をしながら、誰よりも手を抜かない。

味がバラけないんです。

特筆すべきは、彼の塩分に対するコダワリじゃないでしょうか。

他の人が調理に携わったときと比べると、塩味が控えめなんです。
厳密にいえば、他の人が醤油ダレを入れるときには入れ過ぎなんでしょう。

濃縮されているうえに、加えられた材料で粘度が出ている液体です。
決まった分量を量りとる器具(小さいオタマのようなヤツ)を使っても、
外側に付着した分が丼に落ちてしまったら、予定よりも多く入ってしまいます。

その人の醤油ダレを入れる動きは真剣です。
一滴がどれだけ全体の味を左右するかを知っているんだと思います。

ラーメンは決して上品な食べ物として認識されていないのでしょうから、
一般的な客の好みからすると、少し濃いめの味付けで
インパクトを出しているものでなければ、物足りなく感じられがちだと想像できます。

定食やコースのように全体で完成させる料理とは違って
一杯で満足感を与える必要があるラーメンは、きっと
物足りない仕上がりになってしまうと致命的なんだと考えられます。

どのような形でも満足感が下がってしまえば、リピート率は下がるでしょう。

だからラーメンの塩分は高めに設定されやすいようですし、
実際、僕には大半のラーメンは塩辛過ぎます。

そもそもラーメンという食べ物を好きなわけでもない僕が
こうしてブログに書くわけですから、その店のラーメンは他と違う気がしますし、
その中でもこの店員は、さらに違うんです。

特に塩分へのコダワリが。

彼は塩味を抑えられます。
ギリギリまで。

これ以上薄いと物足りなくなる…っていうラインまで落とせる。
塩分を抑えることで、ダシの味わいを前面に押し出せる人です。

薄いほうがデメリットになりやすいところで
ギリギリまで塩分を抑える方向に努力できるのは、
味覚としても調理としても意気込みとしても、稀な才能ではないかと思うんです。


ということで、この店員が辞めてしまうのは僕にとって結構残念なんです。

と同時に、自分の進みたい方向に大きな一歩を踏み出すことへの祝福もあります。

僕は他の客に対して思い入れがあるわけではありませんから、
「その人が始める新しいラーメン屋で多くの人が美味しいラーメンを食べられる」
ことについては、それほど関心はありません。

もしかすると塩へのコダワリを「薄い!」と不満に感じる人さえいるかもしれませんし。

だから僕は、ただその人が
自分が作りたい、自分が食べたいラーメンを作ってくれたら良いなあ
と思っています。

どこに帰るんだか知りませんが、
一回ぐらいは食べに行ってみたいような気もします。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
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