2008年06月23日

場の力

コミュニケーションにおいては「場」も大切です。

話の内容は文脈によって決まってきますが、
言語的な文脈だけでなく状況に埋め込まれた多くのメッセージを受けて
コミュニケーションの意味が変わってくるんです。

そうした「場」の持つ効果というのは、テレビ番組に強く反映されるように思えます。


最近、このブログに訪れる人の中には「Yahoo!」のキーワード検索で
「深イイ話」と入力して見つけてくる方が結構いるようですが、
この「深イイ話」というテレビ番組では、「場」の効果が顕著に表れています。

「深イイ話」というのは、深くて良い話ということだそうですが
番組中では、ある話題を1分間にまとめたVTRを放映して、
審査員となっている出演者たちが「深イイ」かどうかを判断する形式です。

これが強烈に「場」を形成しているわけです。

普通に考えると1分間の話で感動するというのは難しいものがあります。
感情移入するポイントや、前提情報が不足がちだからです。

その点は、テレビというメディア形態の中で映像表現として工夫されている部分や、
また話題自体も有名人を中心としたものが多いので
前提情報として登場人物の背景を視聴者が知っているということで緩和はされています。

それでも映画で受けるような感動は、通常では得られないわけです。
映画は2時間近くその世界に入り込むことで十分に背景を理解し、
感情移入する準備をさせてくれます。

どんなに「深イイ」話であったとしても、1分間で涙することは難しいはずです。


そして、1分間の話では決して結論は語られません。
それは映画と同じでしょう。

話題を提供する側としては「深イイ」ポイントがあるはずですが、
それはあくまでクライマックスとして終盤に盛り込まれるまでに留められ、
「だから〜ということなんです」とは説明されないんです。

すると必然的に、出演者を含め、1分間の話のVTRを見ていた視聴者自身が
その話から意味を読み取る必要があるわけです。

これが日常会話であったら、まず間違いなく物足りない話題になります。
情報不足の感が否めないでしょう。
自然と聞き手は話を詳しく聞こうとして質問をしたりすると予想されます。

ところが、この番組には1分間で「深イイ話」かどうかを判定するルールがあります。

ある話題を1分間のVTRにまとめ、それだけを見て、出演者が判定をする。
この流れが「場」ということです。

その上、メインパーソナリティーでもある島田紳助氏のコメントが
また「場」を強めています。
それは番組の初回放送時と比べ、ハッキリと強まってきた傾向だと考えられます。

視聴者は察しなければならないんです。

そういう雰囲気が「場」として出来上がっています。
どれだけ深読みできるかが求められているように見えるんです。


つまり、1分間の話をVTRで見て、それだけで感動するかどうかではないということです。

その内容に対して、受け取る側である視聴者(出演者を含む)が
自分の想像力と理解力を活用して、周辺情報を付け足し、心情を推測し、
そこにあるドラマを自分なりに描く。

こういうことが暗黙の了解として求められているわけです。
そういう「場」が出来ているように思います。

それはNLPで考えると、ミルトン・モデルに近い働きです。

あるメッセージを受け取り手が自分なりに解釈する。
曖昧さや情報の省略、不特定さによって、受け取り手が不足分を自分で補う。
それには補いたくなるような「場」が重要だということです。

ちなみに、メタファーというのも通常は、話の長さが大切になります。
そこに含まれるプロセスをパターンとして読み取りたくなるだけの長さが必要なんです。

長めの話を聞いたときに、聞いていた側が自分なりに結論を見出そうとするとき
それを自分の体験や状況と照らし合わせるのがメタファーの効果です。

例外的に、非常に短いメタファーというのも作り得ます。
その場合には、話題が非現実的で、物語としての象徴性を持っていることが必要になります。

例えば、勉強会のときに話題として提供して頂いたもので、こんな話がありました。

  イモ虫が蝶を見上げながら『蝶は空が飛べていいなぁ』と言っていた。

たったそれだけの話です。
でも、これには多くの前提情報があって、それを元にして意味を感じ取れるわけです。

で、この話が少し変わると、意味は全く別になります。

  カタツムリが蝶を見上げながら『蝶は空が飛べていいなぁ』と言っていた。

いかがでしょうか?
登場人物が変わっただけです。(人物という言い方が正しいかは微妙ですが)

さらに少し付け加えたら、また意味が違って感じる方もいるかもしれません。

  カタツムリが蝶を見上げながら『蝶は空が飛べていいなぁ』と言っていた。
  蝶は空からカタツムリを見ながら『カタツムリは家があっていいなぁ』と言っていた。

こんな風に、短い話というのは受け取り手が状況を推測する度合によって
意味合いが変わってくるわけです。

ということは、1分間の話で「深イイ」と感じるかどうかは
受け取り手である視聴者自身に依存していると言えるわけです。

1分間の話だけから「深イイ話」かどうかを判別するという形式は、
視聴者から暗黙のうちに、その話を適当に流すという選択を奪い、
その話を深く受け止めようと意識させる「場」を作っています。

むしろ、出演者が「深イイ話」として受け取れるかどうかを
判別されるようなことになっている。
「よく分からなかった」とは言いにくい状況。

あなたには、この話が「深イイ話」として受け取れるだけの
想像力と感受性と人生経験がありますか?
…出演者はそういう風に問われている、とも解釈できると思うんです。

「場」には強制力があります。
コミュニケーションにおいて「場」の持つ力は大きいわけです。

知らず知らずに従ってしまう「場」の力。
それを客観的に理解できるようになることで、自分にかかる力を弱められます。

そうすることで、自分自身が「場」を作り出すことすらも可能になってくるはずです。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
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