2009年11月09日

見えない世界

風邪やらインフルエンザやらが流行っているようです。
ホテルやセミナー会場、店舗など、至る所に消毒薬が置かれているのを見かけます。

この消毒薬、大体の場合がアルコール系です。
病院で患部の消毒に使われるのもアルコールですが、
器具や設備の消毒には、通称「オスバン」という消毒液が使われます。

これは強すぎない界面活性剤。
中性洗剤よりも弱い洗剤が薄められていると考えれば良いかと思います。

薄めた洗剤で消毒ができるのは、細菌の細胞膜を界面活性剤の成分が破壊できるから。
菌が洗剤で破裂するわけです。

アルコールで殺菌できる理由は厳密には分かっていないようですが、
70%ぐらいのアルコールの殺菌力が強いことは知られていて
よく使われる消毒用アルコールは大体この辺の濃度になっています。

仮説として言われるのは、アルコールの分子が細胞膜の間に入り込んで
細菌を破裂させるからだというもの。
アルコールでも菌が破裂するから殺菌できる、と。


僕は大学時代から会社にいた頃まで、ずっと微生物を使った研究をしていたので
この辺りのことは知識レベルでも、実感的な体験のレベルでも
それなりの情報を持っていると思います。

専門知識に近かったということです。


で、近頃よく見かける消毒液は、そのラベルから中身の成分を見てみると、
アルコールと界面活性剤、それと手荒れを防ぐための保湿成分が入っているぐらい。

殺菌力はあると考えて良いでしょう。

ところが、多くの風邪の原因はウイルスだということが知られていて、
冬に流行るインフルエンザも、ウイルスによって感染します。

ウイルスは細菌とは違うんです。
細胞ではない。
細胞膜がないんです。
もっと小さくて、タンパク質の塊に遺伝子が詰め込まれたような単純な形をしています。

ということは、細胞膜を破裂させると考えられているアルコールでは
ウイルスは破壊されない可能性が高いように考えられるわけです。
アルコールが作用するタイプのウイルスも知られていますが、
アルコールが全く効かないタイプのウイルスも知られています。

界面活性剤の成分はタンパク質の構造を変えるように作用して
ウイルスを破壊するのかもしれません。

その辺は、実験的にウイルスを破壊できるか調査していることでしょう。

きっと色々と検討して、最もウイルスを壊しやすい成分を選んではいるはずです。

ただ、細菌に対して作用するよりは、ウイルスに対する効果はずっと小さい。
一般的なウイルスが不活性化されるまでには、
少なくとも結構な時間がかかるようです。

1分間ずっと消毒液に手をつけていることはないでしょうから、
実際の使用状況を考えるとウイルスへの効果は高くないように僕には思えます。

商品には「ウイルス除去」と書いてあったりするので
洗い流すような効果も含まれているのかもしれません。

石鹸で丁寧に手を洗うのと、消毒薬を手にすりこむのと
どちらが病原体を除去するのに効果的なんでしょうか?

僕自身の体験的な知恵やイメージを含めると
手の消毒ということに関していえば、良く手を洗うほうが優先度は高い気がします。
水でも洗い流されることは十分にあるはずなんです。

ウイルスの除去の意味では、昔ながらの「うがい・手洗い」というのが
かなり効果的だと思われます。


こういう話は、僕がある程度、専門として扱っていた時期があるから気になることで、
僕なんかよりも、病原体の扱いを研究している人たちは遥かに詳しいでしょう。

それでも、僕の中の情報量として、微生物に関するものの比率は高いと思います。
消毒・殺菌の研究をする人たちには比べ物にならないとしても
ウイルスと細菌では性質が違っていて、消毒の仕組みも違うのは頭にあります。

そんな情報量があるからこそ、日常生活でも消毒液のことなんかが気にかかる。
ラベルを見て成分を調べたり、「これで効果がどの程度あるのか?」なんて
考えを巡らせてみたりするんだと思います。

僕が会社にいたころ、職場のメインテーマは研究活動でした。
会社がどうやって利益を上げているのかなんて、実感レベルでは感じられません。
というよりも気にしてさえいない。

それが会社を辞めたあたりから、世の中が違って見えました。
街中を歩いていても目にする店舗の経営を
「売り上げはどうか?」「単価はどれくらいか?」などと
気になるようになりました。

以前にあった店が違う店に変わったのを見たときも、
そこに店舗経営に関する様々な考えが浮かぶようになりました。

今、コミュニケーションや心理を扱うようになって
日常生活で視野に入る人の行動や振る舞いが
数年前とは全く違ったものとして見えている気がします。

知識や知恵があるから初めて得られる視点というのがある。

仕事の方向を変えたり、興味の方向が変わったりすると
自分の視点が変わることを実感できるように思います。

知らなかったことがあったという事実よりも、
気にしてさえいなかったことが沢山あったことに気づけます。

自分は世の中のことを全然知らないということを意識できます。

今までの自分と大きく違うことをやってみるというのは
その意味で学ぶことが多いようです。


心理系の勉強をしていると、「他人をジャッジしない」ことの大切さを耳にします。
自分の価値判断で他人を評価してはいけない、と。

これは少し危ない考え方を含んでいるようにも思えます。

他人を評価しないということは、何にも気づいていない可能性もあるからです。

大事なのは、「自分が自分の判断基準で他人を見ていることに気づいていない」状態を
自覚することではないでしょうか。

例えば「あの人には優しさが足りない」という判断をしているとき、
自分だけの判断基準で「優しい」かどうかを判断していることが多いでしょう。

自分が知っている情報でしか物事に気づくことができないのですから、
自分が知っている「優しさ」だけしか気づいていないかもしれないんです。

むしろ、積極的にジャッジできる基準を増やしていくほうが
役に立つ可能性もあると思います。

「優しさ」であれば、その判断基準を増やしていく。
自分が今まで「優しさ」として捉えていたことだけでなく、
他のごく少数の人が「優しさ」と捉えるようなことまで気づけるようになっていく。

もし、全ての人の持つ「優しさ」の基準を知り、
誰を見ても、その人の中に「優しさ」を見出せるようになれば、
そのとき初めて「あの人は優しい」と判断する必要がなくなるかもしれません。

「ありのままに感じる」というのは「何も判断しない」ということではなく、
「全てを知って、全てを自覚する」ということなのかもしれません。

「何も判断しない」というのは「何も気づいていない」のかもしれません。
「全てに気づいている」と「判断のしようがなくなる」のかもしれません。

そんなことを思いました。

cozyharada at 23:07│Comments(2)TrackBack(0)clip!全般 | NLP

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この記事へのコメント

1. Posted by liki   2009年11月10日 04:58
今まで、見えなかったことが、
知識を得ることで理解できるようになるということ確かにありますね。

私もNLPや心理学を学んでいろんなことを感じるようになりましたが、
またさらに、統合失調症や人格障害など治療を行う臨床心理学の世界を知って
変化や人の心に対する見識が変わりました。

いままで、自分がいかに狭い範囲でものごとを
見たり感じたりしていたのか深く理解できるようになりました。
1年前と世界が全く違ってみえます。

「全てに気づいている」と「判断のしようがなくなる」

原田さんのこの言葉が、実感できるような気がします。


2. Posted by 原田幸治   2009年11月11日 01:59
likiさん

知ると見えるようになるのは、とても意味深いことのように感じます。
僕は、そこに驚きも覚えますし、深く理解できることへの喜びも感じます。
とりわけ人の心に関しては、そのところは大きいように思います。

ただ、知る前には戻れないわけなので、
知らないほうが楽だったこともあったかもしれません。
それでも自分の中には「知りたい」という気持ちが強いようなんですが。

もっと多くのことを知り、気づけるようになると
また違った世界が感じられるかもしれない。
そんな予感はチョット楽しみな気がしています。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
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