2010年01月10日

「いらっしゃいませ」の対象

年始に家電量販店に行きました。
僕も『iPod』ぐらい持っておこうかなぁ、なんて思い始めたところです。

僕が買い物に行くことは多分、あまり多いほうではないと客観的に捉えていますが、
それでも街中に出て、店の中を見て回ることぐらいはあります。

一番多いのは書店ですが、書道用品店も結構見ている気がします。
文房具や雑貨などで面白いものを探したりすることもあったり。

僕がウロウロしていて心地よく感じられるのは、
店員に放ったらかしにしてもらえる所。
何か聞きたいときに店員がいないのは困りますが、
余計なことを言われるのが嫌いなんでしょう。

家電量販店だと積極的に商品の説明をしようとする店員がいます。
それが詳しければ良いんですが、質問しても答えられず、
商品説明に書かれていることしか話さなかったりすると不満が高まります。

ですから、僕が実際に商品の購入を考えている時には、まず店員の観察をして、
詳しそうな人を見つけてから、こちら側で必要な情報を聞き出せるように
質問の仕方を工夫していくことになります。

これもまた、コミュニケーションの勉強をしている成果が感じられる場面ですね。


コミュニケーションという観点からすると、
販売員の意識の中に決定的に欠けているものがあるように思えてきます。

それは「何のために話しかけてくるのか」という部分。
意図が本人の中で明確になっていないんです。

お笑い芸人の「柳原可奈子」がギャル風アパレル店員のモノマネで有名になりましたが、
あのぐらい強調されるほどに特殊な対応の仕方をしているということでしょう。
何かの形のようなものがあると感じられます。

店の前を通りがかるだけでも聞こえてくる
「いらっしゃいませー。どうぞご覧くださーい」
の声に至っては、誰に指導されているんだか、決まり切った声のトーンです。

おそらく、見よう見真似というか、知らないうちに植え付けられたイメージが
幅広く浸透してしまっているのが現状でしょう。

電車の車掌や駅員が独特の声でアナウンスをするのも、
デパートの呼び出しのアナウンスが鼻に抜けたような声になっているのも、
アメ横の店員がダミ声で「安いよ、安いよ、1000円だよ」と言っているのも、
羽田空港の土産物屋の店員の声が全員似ているのも、
いつの間にか似せてしまった共通イメージが元になっているんだろうと思います。

似てくることにはメリットもあります。
その雰囲気を作り出し、いつも通りの場面にアンカリングされていきます。
通りすがりの人さえも、買い物モードに入れる効果は期待できるかもしれません。

しかし、あまりにも無条件に典型的なイメージを真似していくというのは
同時に「自分の頭で考えなくさせてしまう」デメリットも持ち合わせます。

なぜ、そうするのか。
なんのために、そうしているのか。
もっと上手くいくためには、どんな工夫ができるか。

そうした見方を奪っていくリスクも含んでいるはずです。

本来、「いらっしゃいませ」は来店時のお客様に対して
他にもある色々な店の中から、自分のいる店を選んで足を運びいれてくれたことへ
感謝の気持ちを込めたメッセージじゃないでしょうか。

「どうぞ、店の中に入ってきてください」というニュアンスで
「いらっしゃい」を使うこともあるかもしれませんが、
多くの場合、店に入ってくるタイミングで言われる言葉ですから
「ようこそ当店へいらっしゃいました」の感謝が含まれるように思えます。

ということは、そのお客様のほうを見て、その人に対して伝えるメッセージでしょう。
店に入ってきた特定のお客様に対して、その人のために発せられる言葉のはずです。

にも関わらず、多くの店で連発されるあの「いらっしゃいませー」は
誰に向けて言われている言葉かが不明確です。

とりあえず声が出ているほうが元気な印象があるとでもいうのでしょうか。

その「いらっしゃいませ」を一日止めてみたときに、どんな結果になるのか、
いつもと違う声のトーンで言ってみたときに、どんな結果になるのか、
曖昧な発音で「イラン参戦」とか「ルパン三世」とか言ってみたらどうなるのか、
などと試行錯誤をした結論が今の形なら構いません。

それ以外の方法を試すこともなく、決まり切った方法だけを
当然のように続けていくというのに、僕は疑問を感じてしまいます。

個人的には、あの「いらっしゃいませー」「ご覧下さーい」の連発は、
野球部が練習中に「バッチコーイ」「さぁこーい」と声出しをしている光景に
ソックリな印象を受けてしまいます。

誰かが「いらっしゃいませー」と言った後で、別の店員が声を出したりすると、
それはもう野球部の声出しと同じように思えて笑いが込み上げてくるぐらいです。


どうも、アパレル販売員の研修をしたこともあってか、
店員のコミュニケーションの仕方には色々と意識が向いてしまいます。

買い物に行くよりも、店員を見に行っているぐらいに
人の動きのほうが気になるんです。

そんな中、先日、ある一言が非常に強く印象に残りました。
好意的な印象として、です。

それは店員の些細な一言。
微妙な言い回しの違いなんですが、その裏側にあるスタンスが感じられるものでした。

「そちら、とても綺麗なデザインになっていますよ」

この断言の仕方。

謙虚な情報提供であれば
「そちら、とても綺麗なデザインになっております」
という具合でしょうか。
まぁ、これは耳にすることもあります。

これでは雰囲気として、何か語りかけようとして様子を伺う自信の無さが感じられる。

また、Yesセットのつもりなのか、同意を取って続きを期待しているのか、
「そちら、とても綺麗なデザインですよね?」
と無理矢理に会話をしかけてくる方法も、良く耳に入ってきます。

これはお客様本人が「綺麗なデザイン」と感じていない場合には
「No」のメッセージを生み出してしまいますからリスクもあるでしょう。
デザインじゃなくて色を見ているのであれば、もうハズレですから。

その点、「そちら、とても綺麗なデザインになっていますよ」という言葉は
専門家としての主観が無責任なぐらい断言されています。

「私は、そのデザインが綺麗だと思いますよ」と
第三者の意見を教えてくれているだけ。
「お客様ご自身がどう思うかは知りませんけど」のようなニュアンスを受けます。

無理してお客様の世界の内側に入って行こうとしないようでした。

そのことがプロ意識や、その商品の専門家としての自信を感じさせ、
暗に「お目が高いですね」と言っているような印象さえ伝えているように思えます。

細かい一言でさえも工夫する余地はあるかもしれない、ということです。

自分の振舞い、行動の意図を明確にしておけば
先入観に囚われずに、より良くするための工夫ができる。

知らず知らずのうちに身につけていくコミュニケーションの方法だからこそ
1つ1つを自覚しておく努力が大切ではないでしょうか。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
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