2010年03月19日
一気に丸ごと
「未来ファクトリー」という番組のアドバイザーとして
慶應大学・先端生命科学研究所所長の冨田勝先生が出演していました。
冨田先生は日本の生命科学分野においては有名人。
メタボローム研究の第一人者でしょう。
メタボロームの「 ome 」の部分は、ゲノムの「 ome 」と同じ。
「全て」のような意味合いでしょうか。
ゲノムは遺伝子全部ということ。
僕がバイオ系に進み始めた頃が、
ちょうどDNAの配列を決めるための技術が発展し始めた頃でした。
色々な生物のゲノム、つまり全部の遺伝子を調べようという時期。
遺伝子の配列を調べるための技術を追いかけるように、
細胞内の遺伝子の働き方を調べる技術も進んでいきます。
遺伝子が働き始める段階を、転写(トランスクリプション)と呼ぶので
全ての遺伝子の働きかたを一気に調べようとすることを
「トランスクリプトーム」と言ったりします。
それからすぐに、タンパク質を細かく調べる技術が発展します。
細胞内のタンパク質は、その細胞の遺伝子から作られるもの。
細胞内の状態は、タンパク質の作用によって決められます。
このタンパク質(=プロテイン)を全て調べてしまおうという発想が
「プロテオーム」。
細胞の設計図である遺伝子を全て調べ(ゲノム)
その遺伝子が細胞内でどのように働いているかを調べ(トランスクリプトーム)、
遺伝子が作ったタンパク質が細胞内に
どのくらいの量で含まれているかを調べる(プロテオーム)。
そんな風に、細胞の中身の状態を網羅的に把握しようという試みが
注目され始めた時期だったんです。
そして、細胞の中では、タンパク質の働きによって
糖類やアミノ酸、脂質などの様々な物質の量が調節されます。
細胞の中には沢山の化学物質が入っているわけです。
そこで、細胞の中にある物質の種類と量を
一気に全部測定してしまおうという発想も出てきます。
細胞の中の物質を代謝産物(メタボライト)と呼ぶので、
その網羅的な把握のことを「メタボローム」と言います。
これにも測定装置が重要でした。
僕が会社にいた頃、その測定が可能になってきたんです。
色々と試して、膨大なデータとニラメッコをしたものです。
こうした網羅的な研究は、細胞の中身を丸ごと調べてしまおうという発想です。
冨田先生は、その走りともいえる人物。
元々、カーネギーメロン大学で計算機科学をしていたそうですから、
生物系に移った後も、コンピューターシミュレーションに力を入れたのでしょう。
細胞1つ丸ごとをコンピューターでシミュレーションする
「E-Cell 」はインパクトがありました。
僕自身は、実際に細胞を使ってモノづくりをする側にいましたから
そうした基礎研究には多少なりとも憧れがありましたし、
全部を丸ごと理解したいという欲求の強さが
網羅的研究に対する興味を高めていたように思います。
学会出張も、なるべくそんな興味が満たせるところを狙っていたものです。
冨田先生や、そこの学生の発表を見つけては、
発表後に先生のところへ行って、質問やら議論やらをしていたのが
懐かしく思い出されました。
久しぶりに論文などを調べてみましたが
数年間では劇的な進展というほどでもないようです。
生命活動を断片的に理解する方向は地道に進むのでしょうが、
全てを一気に知ろうとするには、まだ生物は複雑なのかもしれません。
一流のスポーツ選手や職人芸的な能力を発揮する人たちにおいて
自分で「できる」ことと、それを「説明できる」ことが違うように、
科学者が頭の中に「理解している」ことと、「説明できる」ことも違う気がします。
分かっていることを説明するためには、そのための言語が必要になります。
数学であれば数式で、コンピューターであればプログラム言語で、
素粒子物理であれば計測で、化学であれば実験で、
それぞれの理論を実証していくわけです。
本人の中では相当な確実性で理解しているつもりの内容も
それを示すための手段が見つかるまでは本人だけのものになってしまいます。
冨田先生は、どんな気持ちで研究を進めているのでしょうか。
少なくともサイエンティストとして研究活動を続けている以上、
自分自身の中にある考えを世の中に出そうという気持ちはありそうに思います。
今は、以前とは違った内容の議論をしてみたい気分です。
慶應大学・先端生命科学研究所所長の冨田勝先生が出演していました。
冨田先生は日本の生命科学分野においては有名人。
メタボローム研究の第一人者でしょう。
メタボロームの「 ome 」の部分は、ゲノムの「 ome 」と同じ。
「全て」のような意味合いでしょうか。
ゲノムは遺伝子全部ということ。
僕がバイオ系に進み始めた頃が、
ちょうどDNAの配列を決めるための技術が発展し始めた頃でした。
色々な生物のゲノム、つまり全部の遺伝子を調べようという時期。
遺伝子の配列を調べるための技術を追いかけるように、
細胞内の遺伝子の働き方を調べる技術も進んでいきます。
遺伝子が働き始める段階を、転写(トランスクリプション)と呼ぶので
全ての遺伝子の働きかたを一気に調べようとすることを
「トランスクリプトーム」と言ったりします。
それからすぐに、タンパク質を細かく調べる技術が発展します。
細胞内のタンパク質は、その細胞の遺伝子から作られるもの。
細胞内の状態は、タンパク質の作用によって決められます。
このタンパク質(=プロテイン)を全て調べてしまおうという発想が
「プロテオーム」。
細胞の設計図である遺伝子を全て調べ(ゲノム)
その遺伝子が細胞内でどのように働いているかを調べ(トランスクリプトーム)、
遺伝子が作ったタンパク質が細胞内に
どのくらいの量で含まれているかを調べる(プロテオーム)。
そんな風に、細胞の中身の状態を網羅的に把握しようという試みが
注目され始めた時期だったんです。
そして、細胞の中では、タンパク質の働きによって
糖類やアミノ酸、脂質などの様々な物質の量が調節されます。
細胞の中には沢山の化学物質が入っているわけです。
そこで、細胞の中にある物質の種類と量を
一気に全部測定してしまおうという発想も出てきます。
細胞の中の物質を代謝産物(メタボライト)と呼ぶので、
その網羅的な把握のことを「メタボローム」と言います。
これにも測定装置が重要でした。
僕が会社にいた頃、その測定が可能になってきたんです。
色々と試して、膨大なデータとニラメッコをしたものです。
こうした網羅的な研究は、細胞の中身を丸ごと調べてしまおうという発想です。
冨田先生は、その走りともいえる人物。
元々、カーネギーメロン大学で計算機科学をしていたそうですから、
生物系に移った後も、コンピューターシミュレーションに力を入れたのでしょう。
細胞1つ丸ごとをコンピューターでシミュレーションする
「E-Cell 」はインパクトがありました。
僕自身は、実際に細胞を使ってモノづくりをする側にいましたから
そうした基礎研究には多少なりとも憧れがありましたし、
全部を丸ごと理解したいという欲求の強さが
網羅的研究に対する興味を高めていたように思います。
学会出張も、なるべくそんな興味が満たせるところを狙っていたものです。
冨田先生や、そこの学生の発表を見つけては、
発表後に先生のところへ行って、質問やら議論やらをしていたのが
懐かしく思い出されました。
久しぶりに論文などを調べてみましたが
数年間では劇的な進展というほどでもないようです。
生命活動を断片的に理解する方向は地道に進むのでしょうが、
全てを一気に知ろうとするには、まだ生物は複雑なのかもしれません。
一流のスポーツ選手や職人芸的な能力を発揮する人たちにおいて
自分で「できる」ことと、それを「説明できる」ことが違うように、
科学者が頭の中に「理解している」ことと、「説明できる」ことも違う気がします。
分かっていることを説明するためには、そのための言語が必要になります。
数学であれば数式で、コンピューターであればプログラム言語で、
素粒子物理であれば計測で、化学であれば実験で、
それぞれの理論を実証していくわけです。
本人の中では相当な確実性で理解しているつもりの内容も
それを示すための手段が見つかるまでは本人だけのものになってしまいます。
冨田先生は、どんな気持ちで研究を進めているのでしょうか。
少なくともサイエンティストとして研究活動を続けている以上、
自分自身の中にある考えを世の中に出そうという気持ちはありそうに思います。
今は、以前とは違った内容の議論をしてみたい気分です。





