2012年02月07日

「これは人格」だから変わらない

「人格」という考え方がありますね。
「パーソナリティー」というヤツです。

性格や個性よりも、もっと一般化されている印象はありますが、
どうも明確な定義はないみたいです。

ただ、重要になるのは
 状況に依存せず、一貫して表れる特徴
ということのようです。

まぁ、僕からすると「状況に依存せず一貫している」という発想が
全くもって受け入れられないわけなんですが。

「状況に依存しにくい」ものはあっても
「依存しない」ものはあり得ないと思ってしまうんです。


それはさておき、この人格という考え方は、そもそも
 人間の心の中で一貫しているものを探そう
という前提から生まれているんだろうと考えられます。

こういうときに前提となっている考え方は強力なようです。
その後の行動を支配しますから。

つまり、「一貫しているものがある」という前提で人を見ますから
あらゆる説明の仕方をしていったところで
「実は一貫していないのかも…」という結論には辿り着けません。

前提を疑うことをしなくなってしまうんでしょう。

そして「人格は一貫している」という前提で
・じゃあ、人格はいつ形成されるのか?
・人格は一生のうちに変わるのか?
・人格は何によって決定されるのか?
なんて調べていくわけです。

それをやって、結論めいた考えを確実にしていくほど
前提はますます疑われないものになっていきます。

それで、色々と”統計的な方法”(とやら)で調べてみると
・どうやら人格は、わりと幼いころに決まるらしい
・人格には遺伝子レベル、つまり生まれつきの影響が大きいらしい
・人格は、あまり変わらないらしい
・基本的な人格は文化の差を受けないらしい
なんていうデータも出てくるわけです。

もちろん、これらは何らかの調査をした結果のデータを
実験者が解釈したものですから、
当然のこととして前提の上になりたつ解釈になっています。

前提を疑った場合に、その実験が意味をなすのかは定かではないでしょう。


僕は個人的に、遺伝子レベルの影響は、生理反応の特徴に表れて
それが、その人のナチュラルもしくはニュートラルな状態を決め、
同時に、変化しやすい状態の方向性も決めていると考えています。

例えば、心臓の機能が強い人と弱い人では、
ニュートラルな状態の血流に違いがあるかもしれません。

臓器の違いがホルモンの生産量を決める可能性もありますし
免疫系なんて遺伝子の影響を非常に強くうける部分だったりもします。

特定の生理活性物質を作る遺伝子の違いで、
何かの生体内濃度が高めになっていたり、
代謝の流れに影響が出る可能性もあるでしょう。

知られているレベルでも、神経伝達物資のレセプター遺伝子の違いによって
ある神経伝達物資に対する反応性が違うと結論付けられています。
ちょっとしたことで満足を得られる人と、頑張らないと満足できない人とは
遺伝子レベルの影響が強い、という話です。

しかし、それはあくまで、ベースラインとしての状態。

この上に、学習を通じて反応パターンが決まっていくと、僕は考えています。

なので、生理的な特徴から、ある反応をしやすい傾向が強くなることがあって、
それと同時に、その反応をどう表に出していくかのレベルは
学習によって決まる、という考え方。

表面的に、目に見える行動のレベルであれば、
学習の仕方でコントロールされる度合いが高いと思います。

例えば、よく「外向的な人柄」と呼ばれるものがありますが、
これは「初対面の人に自分から話しかけに行く度合い」を評価しているようです。

しかし、実際に本人の中で、どんなプロセスを経て話しかけているのかは
心理学者が”統計的な方法”で調査している範囲では見えてきません。

自分が話すのが好きだから話し相手を求めて初対面の人に話しかけるのか、
何もすることが無くて退屈だから、同じく暇そうな人話しかけるのか、
本当は話しかけるのは緊張するけど社会人のマナーとして話しかけるのか、
黙っている状態の居心地の悪さを解消しようとして話しかけるのか…。

中で起きているプロセスを考えればキリがありません。

生理状態としての内面は別物でも、表面的な行動で見れば
同じように「初対面の相手に、自分から話しかける」ことをしているわけです。

基本になる生理状態の特徴は、生れつきで決まっていたとしても
あとから学習をすることで、その場での行動の仕方は変わっていく、と。

なので、僕はこの対応の仕方に関しては、学習の影響が大きいと思うんです。

ちなみに学習の仕方にも2通りあると考えていますが、それは置いておいて
重要なのは、人はそういう構造をしているんじゃないか、ということ。

つまり、土台として生理的な傾向が生まれつきの身体のレベルであって、
その上に、学習された行動や反応のパターンが乗っかっている、と。

そこに人格なんてものは、僕には関係がないんです。


人格を調べたい人たちは、人格の存在を仮定したあとに
人格を調べるための調査方法を考え出します。

その多くは、「質問に答える」というやり方です。
その人の行動パターンや、感情的な反応の傾向を、アンケートで調べる、と。

それで「この質問に高い点数で答えた人は、○○の人格要素が強い」
なんていう結論を出す、と。

そもそも人格として仮定しているものが、行動や反応のパターンなんです。
結果だけを見て、分析をしているんです。

決して、「こういう人格だから、そんな行動パターンをしている」わけではなく、
「そんな行動パターンをしている人を、こういう人格と呼びましょう」
とやっているだけなんです。

勝手に分類して、名前をつけているだけ。

まぁ、タイプ分けの一種です。

「〜の傾向が強い人」と、観察者が評価しているだけで、
本人の中に、そういう人格が存在しているわけではないはずです。

外から見ているだけなんです。

アンケートに答える本人ですら、自分の過去の記憶を振り返り、
どんなときに、どんな行動をしていたかと、客観的に見直すわけです。
本人ですら、客観的に評価しているんです。

そうやって他人を理解したいんなら、それでも構わないと思います。

例えば、飛びこみで影響をするような人材として
「初対面の人でも話しかけられる」人を探しているんだとしたら、
そういう『人格』として評価される行動パターンをしているか、調べたら良いでしょう。

もちろん、それが実際に効果的かどうかは二の次ですが。

アメリカは、こういう調査をビジネスに適用することが多いみたいです。
犯罪者のプロファイリングなんかも近いかもしれません。

そこには、文化や風土の影響があるような気がします。

国土が広く、人口が多い。
そして、就職の形は、業務内容に対しての契約が多い。

となると、特定の業務を効率的に行える『人格』をもった人を
幅広い人の中から選べると便利なんじゃないでしょうか。

人数が多ければ、いちいち全員の履歴書を読んだり、
志望動機を読んだりするのは大変だと思います。

国土が広ければ、遠くに住んでいる人と面接するのは大変です。

そういう事務的な観点からすると、人格を調べるテストの類は有効なのかもしれません。


きっと、それはカウンセリングやセラピー、精神科などの分野でも
近い事情があるような印象も受けます。

日本と比べると、「困ったらプロに相談」の傾向が非常に強いそうですから、
仕事として見たときに、相手にする人数も多くなるわけです。

時間にも制限があるし、セラピストやカウンセラー、精神科医の側にも
どんなトレーニングを受けられるかという部分で限界があるでしょう。

そうすると、どんな相談員であっても、均一のクオリティで対処ができて
スピーディーかつ効率的に問題解決の”サービス”を提供できるよう
心理テストを使った診断をしておくのが便利なんだろうと思われます。

誰がやっても同じように診断結果が出て、
この診断結果の人は、こういう”人格”だから
こうやって対処しましょう…、そんなマニュアルが作れるようです。

「うーん、この診断マニュアルによると、検査結果の項目が40点以上だと
 ○○症ということになるんですが…、あなたは38点ですから、大丈夫ですね」

「ああ、あなたの場合は、こちらの検査で高得点ですから△△症ですね。
 では、このワークをやっておきましょう」

マクドナルドのように、どの店でも安心して同じ味が食べられる感じでしょう。

おそらく現実的なニーズが生み出した習慣があって、
その発想に無自覚なままで影響されてテストを考えたり、
心の理論を作ろうとしたりしていたんじゃないでしょうか。


人を外から分析して、統計的に上手くいく方法で対処する。

僕はやりたくありませんけど、求められる分野でもあるのかもしれません。

そう理解しようとしたところで、僕には受け入れがたい所がもう1つあります。

それは「人格は変わりにくい」という前提で対処している部分です。

その人の個性の部分を変える必要はないと僕も思います。
ですが、困っている部分は、人格そのものじゃないわけです。

人格がどうだから、問題があるっていうことではないはずです。

遺伝的な影響の大きい部分に関しては、それを受け入れて、
それが役に立つように工夫していくのが効果的だろうと思いますが、
ここで問題視されている「人格」は行動パターンを外から分析したものに過ぎません。

行動パターンだったら、問題になっている状況の行動だけを
上手くいく形に変えられれば、問題が解決する可能性があるんです。

なのに、「人格が問題を生み出していて、その人格は一定だ」と考えたら
何も手の打ちようが無くなってしまいます。

傾向が楽になるためのマニュアル化された方法で
程度を減らしていくぐらいの発想になっても当然かもしれません。

変わるものという前提で捉えていれば、
変えるための方法を編み出す方向へ発想が向かっていくはずなのに。

人格という捉え方をすることで、
人の変化を妨げるのは、なんだか、もったいない感じがするんです。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
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