2012年09月10日

「気づき」と「アウェアネス」

アンナ・スウィルというNLPのマスタートレーナーがいます。
ハートウォーミングな雰囲気の奥に、芯の強さを秘めたような人です。

見た目は『ムーミン』に出てくる『ミー』みたいな感じ。

その人が提唱している考えに
『 model of consious communicator (意識的なコミュニケーターのモデル)』
というのがあります。

三角形の頂点に、
”重要な3つの要素”を書いたもの。

この”重要な3つの要素”という言い方も曲者ですが、それは後ほど。

で、その3つとは
・ awareness (気づき)
・ non-judgement (無批判)
・ compassion (慈愛)
だと言います。

簡単な説明の仕方として良くなされているのが
「コミュニケーションをするときに3つの大切な要素があります。」
「この3つをバランスよく持って、ニュートラルにいるようにしましょう。」
なんていうもの。

”スウィルの三角形”なんて呼ぶ人もいますし、
「3つの中心にいる」から”センタリング”なんて呼ぶ人もいます。

スウィル自身がどういうつもりで作ったモデルで
どういう説明をしていたのかを僕は聞いたことがありませんから
何が元々の解釈かは分かりません。

ただ、僕が気になるのは、このモデルのタイトルです。

『 model of consious communicator (意識的なコミュニケーターのモデル)』

このタイトルについて考えると
安易に「3つをバランスよく保っているのが大事ですよ」
なんて言いにくくなる気がします。

そもそも「バランス良く」という表現は、
偏ったときに望ましくない結果に結びつくとき、
適度なところで調和を保つようにしよう
という意味で使われる表現だと思います。

『気づき』と『無批判』と『慈愛』が偏ったとき
どんな悪影響が出るのかはチョット想像が難しいです。

例えば、『気づき』と『無批判』が高過ぎて『慈愛』が足りないと
どんな状態になってしまうのか?という話です。

まぁ、その意味では
「3つが大事ですよ」
ぐらいでちょうど良いのかもしれません。

しかし、それでも
『 model of consious communicator (意識的なコミュニケーターのモデル)』
というタイトルとの関連が浮かびません。


僕が最初に、このモデルのタイトルを聞いたとき、少し意外な感じがしたものです。

「あれ?無意識ではなくて?」という感じ。

当時はNLPで重視しているコミュニケーションは
無意識とのコミュニケーションだ、といった考えを教わっていましたから。

意識的なコミュニケーションよりも、無意識的なコミュニケーションのほうが
なんだか大事なような印象を持っていたわけです。

「意識的な」という言葉を、「意識との」というニュアンスに捉えたかったようです。
少し角度を変えたとしても、意識的にコミュニケーションをしている段階は
”ワザとらしい”と思っていましたから、
自然に(=無意識に)できたほうが良さそうだとも思っていたんです。


それから色々と勉強をして、トレーニングを積んでいく中で
段々と「意識的なコミュニケーション」のニュアンスが変わっていきました。

むしろ「全てを意識して(=自覚して)コミュニケーションする」ほうが
無意識的に(自覚せずに)反応してしまうよりも重要だと考えるようになったんです。

その過程では、スウィルにスーパーバイズを受けたこともあり、
彼女が「意識的なコミュニケーション」を重視していることも実感できました。

「トレーナーとして人前に立つときには、自分の全ての振る舞いが
 受講生に影響を及ぼしていることを自覚して、
 全ての振る舞いをコントロールできるように気づいていなければならない」
というのが教えだったんです。

自分にどんな口癖があるのか、どんな姿勢をしているか、
どんな仕草をしているか、どんな目線の配り方をしているか…、
そうした全ての振る舞いを自覚している必要がある。

そのあたりを細かくチェックされました。

「あなたが、こうやって言ったとき、全員がテキストのページをめくっているでしょう。
 ほら。ここでペラッて鳴っている。このときに、皆がテキストに集中したのよ。」
そんな感じです。

もちろん、それが良いか悪いかの話は次の段階です。
そういう影響が出ていることを予測して、そういう風に振る舞ったのか。
それが、どういう意味を持つのかを考えているのか。
そちらが重要だ、と。

これは今にして思えば、
「意識的な振る舞い」か「意図的な振る舞い」か、の違いです。

全てを理想的にコントロールする必要があるかどうかではなく(意図的に)、
自分の全ての振る舞いと、その影響を自覚して、修正できるようにする(意識的に)
ようにするということでしょう。

全てをコントロールしたり、理想的な振る舞いだけを示すのが
必ずしも良い影響を及ぼすとは限りません。

特に真面目で誠実な受講生ほど、”正しい”ことを学ぼうとしますから
「これが理想的だ」という振る舞いだけをしていたら、
「〜でなければならない」という制限を追加していることになってしまいます。

であれば、一般的には「良くない」とされることを、あえて示すほうが
「このぐらい適当だって良いんですよ」という見本になるかもしれません。

「間違い」だって、良く使うフレーズだって、当然あるものです。
ただ、それに気づいていれば、修正したり、調整したりできます。

例えば、言い間違いをしたとして、それに『意識的』であれば
何食わぬ顔で修正することも、それをネタに笑いをとることもできます。

その振る舞いが、受講者側にメッセージとなるわけです。
「間違えてはいけない」という考えが強い人には、気楽さを伝えるかもしれませんし、
「失敗すると落ち込む」人には、失敗が問題にならない見本になるかもしれません。

ですから、自分の振る舞いに『意識的』であるようにしていることが大切で、
それは必ずしも「全てを意図的にコントロールする」こととは違う、ということです。


僕の中には、スウィルの教えもそうですが、
主には、これまで続けてきたコミュニケーションのトレーニングを通じて
「自分の振る舞いを自覚していること(意識的であること)」の意味が
とても重要なものとして染みついている気がします。

その観点からすると
『 model of consious communicator (意識的なコミュニケーターのモデル)』
というのは、「意識的」なコミュニケーションの重要性を説明していると感じるんです。
 
 トレーナーであれ、NLPの実践者としてであれ、そういう立場から人と接するときには
 「コミュニケーションに対して意識的な人」として振る舞いましょう。
 そのためには、3つの要素が大切です。
…そういう話なんじゃないか、と。

すると日本人が大きく誤解しやすいのが
『 awareness (気づき)』
でしょう。

日本語で『気づき』というと、
”発見”とか”ひらめき”とか”洞察”とかに近いニュアンスだと思います。
一瞬に起こる出来事です。

ですから、「こんな気づきがありました!」なんて言うわけです。

それは言い換えると
「こんなことを発見しました」
「ずっと答えが見つからなかったんですが、ひらめきました」
「色々と考えを巡らせたら、こういう洞察に辿り着きました」
といった感じ。

英語にするなら
「 finding 」とか「 realization 」とか「 insight 」とか「 inspiration 」とかでしょうか。

日本語の『気づき』は、「気づく」という動詞から派生しています。
ですから、一瞬の出来事に対応するんです。

一方、『 awareness 』は、「 aware 」という形容詞から派生しています。
「気づいている」という状態を表す形容詞がベースなんです。

なので直訳すれば「気づいていること」となります。

ただ、それではあまりにカッコ悪いので、
近い単語として「気づき」を当てたのでしょう。

残念ながら、この違いは大きい。

日本語の「気づく」は、英語にすると
「 find 」か「 notice 」か「 realize 」などに近いはずです。

『 awareness 』は、日本語にすると
「気づいていること」とか「自覚(していること)」といったニュアンスだと思われます。
「 consciousness (意識していること)」に近い単語なんです。

すると、
『 model of consious communicator (意識的なコミュニケーターのモデル)』
の3要素の1つ、
『 awareness (気づき)』
は、本来
『 awareness (自覚していること)』
というほうが良いと考えられます。

『気づき』じゃ遅いんです。
最初から、ずっと『気づいている』状態を続けているのが『 awareness 』ですから。

コミュニケーションの最中には、「(色々なことに)自覚していること」が大切だ、と。
そういう説明だったんじゃないかと思えます。

相手の反応や振る舞いであれ、
自分の中に沸き起こる反応や、自分の何気ない振る舞いであれ、
色々なことに「気づいている」状態を保ちながら
コミュニケーションをしていく。

それが『意識的なコミュニケーター』、つまり
「コミュニケーションに対して意識的でいる人」だ。

そういう説明なら、タイトルと内容に一貫性が感じられます。

自覚しながらコミュニケーションすることの大切さを説いたモデルだとすると
僕がスウィルからスーパーバイズを受けた内容とも合致する気がします。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
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