2012年12月02日

人生をマネジメントする

企業のマネジメントに役立つ考え方が
人生にそのまま役に立つとは、僕には思えません。

なぜかというと、
企業は社会に対してビジネスの一側面のみで接しているのに対して
人生は様々な面で社会と接点を持つからです。

つまり、企業はビジネスとしての関係性に集中できるものの
人生においては、もっと色々な関係性が重要な意味を持ちます。

もちろん、企業においても人が関わってきますから
そこには様々な人の個人的な想いが交錯しますが、
その程度は人生全体の比ではないだろう、と。


このことが影響するのは、トップダウンの方針を立てるときでしょう。

企業であれば、理念を元に方針を大まかに統一しても構わないと思います。
むしろ、そうすることで個性をハッキリと打ち出して
その理念に共感する人たちを顧客として関わっていくことができる。

例えば、回転寿司と、高級なカウンターの寿司屋では
”寿司屋として、やろうとしていること”が違っているわけです。

有名な寿司屋に行って、それぞれの寿司の値段が分からないからといって
それにクレームをつけるのは、店の理念とズレていると言えます。

その日によってネタの仕入れ価格が変わる中で
板前が良いと思ったネタを自分で選んで仕入れてくる。
値段は「時価」になるのが自然なことでしょう。

それに対して、大量買い付けや独自ルートでの仕入れで
価格変動を抑えられるチェーン展開の回転寿司であれば、
いつも分かりやすい値段で商品を提供できる。

もしかすると、毎日値札を変えれば、高級な寿司屋でも
値段を分かりやすくすることもできるかもしれませんが、
それもまた店の理念と合わないのでしょう。

こういう雰囲気の、こういう会計システムの店で
とにかく目の前のお寿司にだけ集中して堪能したい。
そういう人がお客さんになれば、ビジネスとして成立するんです。

子供向けのハンバーグのお寿司を求めているお客さんは
家族向けの回転寿司に行って下さい、というようにして
理念の合うお客さんとの関係性だけを結んでいるということです。

同様に、
コーヒーショップではパソコンを使うような滞在が許されている仕組みがあっても
牛丼屋には、そういう前提は用意されていません。

パソコンを開きながら、ゆっくりと場所を使いたいなら
牛丼屋ではなくてコーヒーショップに行って下さい、というスタンスがあるはずです。

だから牛丼屋はカウンター中心で、背もたれのない椅子ですし、
WiFiでインターネットにつなぐシステムもない(多分)のでしょう。


「こういう風にお客さんと関わって、こういう体験をしてもらいたい」
という”ビジョン”を定めて、
「そのために自分達は、こういう立場・役割を徹底しよう」
という”ミッション”を定める。

その理念から出発すると、
「そのためには、こういうことはするけど、こっちは絶対にしない」
という行動レベルの方針が明確になってくる。
サービスにブレがなくなる、と。

そこまで徹底して行動を決めて、
その理念と、行動の裏にある価値観をお客さんに対して示しておけば、
それが嫌なお客さんはやってこないで
それを求めるお客さんだけがやってきて、喜んでくれるようになる。

暗黙のうちに
「こういう人が、うちのお客さんです。
 こういう人は、来ないで下さい。来てもガッカリするだけですから。」
と示していると言えます。

中には、対象とするお客さんさえ言葉で明確に示しておいて
分かりやすく関わりを限定していく企業もあるようですが。

ここで重要なのは、
 企業の場合、こうやって理念を設定することで
 『行動』としてのサービスと、『関わる相手』としてのお客さんを
 限定することができる
という部分です。

むしろビジネスの場合、そうしておいたほうが個性がハッキリして
特定の相手と密接な関係をキープすることも可能でしょう。
ファンがつきます。

ところが、人生全般に視野を広げると
様々な事情から、自分の取る『行動』や、『関わる相手』を
選べない状況も多々あるはずなんです。

学校の同級生や近所の住人、家族や友人、電車に乗り合わせた人…。
「私は、こういう理念なので、あなたのような人とは関わりません!」
とはハッキリ言えない相手がいるものでしょう。

たとえ同じ理念を共有しているはずの職場の同僚であっても
仕事以外の接点、…たとえば日常会話の話題、食事、飲み会の騒ぎ方など…
理念を共有できない状況でも関わる必要が出てくる場合がある。

仮に、「私は納豆が絶対に嫌いだから、納豆を食べる人とは関わらない」
という『関わる相手』の方針があったとして、
それにどこまで妥協できるかが問われるわけです。

「もう絶対に納豆が嫌い」というなら、その方針で人と接しても構わないかもしれません。
ただ、それによって、仕事のチャンスとか、気の合う友人の数とか、
自分にとって大事な他のものが失われるリスクもある。
それを覚悟したうえでも「納豆嫌い」を優先するなら、それも良いでしょう。

でも、「この人とは仲良くしたいから、納豆は我慢しよう」と思えるなら
そこには妥協の余地があるといえます。

つまり、これが経営との違いじゃないか、ということなんです。

ビジネスの関係でも妥協がないわけではないでしょうが、
経営理念を決めた後には、妥協する可能性が高いのはお客さんの側が普通です。

お客さんの側としては、100%理念に共感できないけれど、
この部分は妥協してサービスを利用しよう、ということが良くあるものでしょう。

ですが、もし高級な寿司屋が「子連れのお客さんにも来てもらいたいから」といって
ハンバーグのお寿司を出し始めたら、これまで来ていたお客さんを失うかもしれません。

言い換えると、人生全般で捉えたとき、ある人が他の人と接点を持つとき、
そこには
 同時に複数の側面で関わりを持つために、
 お互いに妥協する必要が生まれる
わけです。
 
どちらか一方が常にサービス提供者、もう一方が利用者
…といったビジネスのような関係にはならないと考えられます。

お互いに妥協できる部分と、妥協できない部分があって、
その間には、さらにグレーゾーンもある。

このグレーゾーンでお互いに歩み寄って
どのようにして心地良いグレーを作っていくか。
それこそがコミュニケーションが持つ、1つの大切な役割かもしれません。

・必ずしも相手を選べない状況もある。
・同じ相手と複数の側面で関係性が生まれる。
・お互いが妥協する側になる。

だからこそ、あまりシンプルに
「これが私の生き方です」
と宣言して、
人との関わり方や、関わる相手を限定することは
現実的ではないだろうという話です。

経営で役に立つ理念の設定が人生全般に応用できるとは限らない
…というのは、そういう意味合いです。

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
おしらせ
 ◆ セミナー情報 

New!

《コミュニケーション講座》
 〜人を育てる指導力〜

【日時】 
  2019年6月16日(日)
   10:00〜16:30


【場所】 
  北とぴあ 601会議室

   JR王子駅より2分
   南北線王子駅直結

詳細はこちら>>


《瞑想講座》

【日時】 
  2019年6月22日(土)

  午後の部 13:30〜16:30
  夜間の部 18:00〜21:00

【場所】 
  北とぴあ 第2和室

   JR王子駅より2分
   南北線王子駅直結

詳細はこちら>>


《怒りの取り扱いマニュアル》
 〜期待の手放し方と
  ゆるしの技法〜


【日時】 
  2019年7月6日(土)
     7月7日(日)
   10:00〜18:30


【場所】 
  滝野川会館

   JR上中里駅より7分
   JR駒込駅より10分
   南北線西ヶ原駅より7分

詳細はこちら>>
次回未定


 ◆ 過去の講座 

《新カウンセリング講座》
 〜まとめと実践〜


当時の内容はこちら>>


《勉強会》 

【テーマ】 変化の流れを考える

当時の内容はこちら>>
次回は未定



 ◆ お問い合わせ 
  技術向上、
  コンサルティング、
  スーパーバイズ、
  執筆・講演…

  諸々のお問い合わせはこちらへ>>



ホームページ
バナー1


プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
Archives
最近のコメント
QRコード
QRコード