2015年06月30日

英語の土台

スペイン語を習ってみて気づくのは、
 いかに日本人が英語に親しんでいるか
ということです。

中学校から英語教育を受けているだけでなく
(近頃は小学校から始まるようですが)
身の回りにカタカナ語として英語が溢れています。

デスク、オフィス、テーブル、シート、ベッド、ブック、ノート、ペーパー、
ナイフ、フォーク、オーブン、キッチン、リビングルーム、トイレ、ドア…
身の回りにあるものだけを考えても、日本語で呼ぶよりむしろ
カタカナ語で英語由来の呼び方をするものが沢山あります。

「中学校で習った英単語だから皆が知っているはず」という前提で
カタカナ表記にする場合もあるのかもしれませんが、
トイレ、ドア、ノート、ペン、ナイフあたりは小学校1年生でも
分かっているのではないでしょうか。

アルファベットで表記されたものも身近に色々とありますし、
英単語として意味を知らなくても耳に慣れている外来語は数多いようです。

例えば、野球が好きな子供だったら
「ソフトバンク・ホークス」という言葉に馴染んでいて、
後に soft、bank、hawk という単語を知ったとき
それぞれの単語の意味を聞いて「そうだったのか!」と覚えやすい。

カタカナ語を英語と勘違いして使ってしまって伝わらない…
なんていう話は問題点として指摘されることもあるようですが、
他の言語のように全く目にしたこともないことと比べれば
身近に英単語が溢れているのは役立つところが大きいと感じます。

上に挙げた英語由来のカタカナ単語を
仮にフランス語やスペイン語、ドイツ語などで知っているかと聞かれたら
勉強したことがない限り、日本人には知る由もないのではないでしょうか。


英語を教える人たちの中には、ネイティブスピーカーも含めて
 日本語にカタカナがあることで、発音やリスニングに支障が出る
と指摘する人もいます。

英語の音をカタカナに変換して聞いてしまう。
だから区別ができない、と。

確かに、日本語を英語圏の人が聞いた場合、
英語は表音文字ではないので、音を即座にアルファベットへ変換する
というのは簡単な作業ではないと思われます。

それでも違いは、文字として認識しようとするかどうかの話だけで、
外国語の音を母国語の音に近づけて認識してしまうのは
カタカナを使う日本人だけの問題ではありません。

例えば英語には、日本語でいう促音(小さい「っ」)がなく、
アクセントのある母音を強く発音する際に、ときには「ッ」のようになったり
ときには「ー」のように伸ばす感じになったりと区別が曖昧なようです。

ですから、英語話者からすると「音(おと)」、「夫」(おっと)、「嘔吐(おおと)」は
区別が難しいらしいです。

ちょうど日本人が英語の母音の区別に苦しむようなものでしょう。

これは単純に音の認識のしくみの問題だと考えられます。

発話を聞いたとき、「ア・イ・ウ・エ・オ」の、どの音に近いかによって
典型的な音の基準に当てはめて認識するんです。

絶対音感の人が「全ての音がドレミで聞こえる」というの同様でしょう。
実際の音は、厳密に音階として定義された周波数の音ではない場合でも、
1オクターブを12音階に分けた段階に当てはめます。

日本語は母音を5つしか持たないのに対して、
英語は(数え方によっては)10〜16個の母音があるとされます。

日本人からすると「ア・イ・ウ・エ・オ」の中間のような音があって、
倍ぐらいの音を区別する必要がありますから、
それは確かに大変なのかもしれません。

だからといって、日本人だけが特別に不利なわけでもないはずです。

実際、スペイン語の母音も日本語と近い「ア・エ・イ・オ・ウ」です。
音色は日本語と少し違うところもあるように感じられますが
それでも母音は5つしかないんです。

日本人が英語を聞くときにカタカナに変換して
5つの母音に近づけて聞いてしまうのが問題というのなら、
スペイン語圏の人も、スペイン語のスペルに変換して
同様に5つの母音に近づけて聞いてしまうことになる、といえます。

リスニングに関しては、カタカナがあるからとか
日本語の母音の数が少ないからというのは、
それ自体が特別なハンディキャップではないように思えます。

こうした音の違いは全ての言語間で起きるものでしょうし、
母国語に存在しない細かな音の違いは、区別が難しいものでしょう。

英語を勉強する日本人に限らず、ある意味では
外国語を身につけるときには避けられないハードルだろうと考えられます。


発音にしてもそうです。

日本人が英語を発音しようとすると、
カタカナを土台とした日本語の音になりやすく、
アクセントやイントネーションが平坦なものになりがちです。

もちろん、発音はネイティブに近いほうが聞きとってもらいやすいでしょう。

日本人だって、外国人がキレイな日本語の発音で話してくれるほうが
会話をするときに聞きやすく、余計な労力を必要としません。

逆に、英語なまりや中国語なまりの強い日本語を聞くときには
「何て言っているんだ?」と注意深く耳を傾ける必要が出てきます。

その負担の問題です。

僕個人の体験でも、かなり母国語のアクセントが影響している英語を
何パターンか聞いたことがあります。

それでも頑張れば英語として認識できますし、
英語ネイティブの人なら、多少の発音の違いは汲み取れるようです。

どこまで相手の話を理解しようとして訛りのある英語を聞いてくれるかは
言語というよりも、コミュニケーションの姿勢の話だと思われますので、
意志疎通の必要性が高い場面であれば、発音の違いはさほど重要ではない
という印象を受けます。

僕の知っているコスタリカ人は母国語がスペイン語で、
「英語が話せる、英語を教えている」と自信満々ですが、
その発音は、まるっきりスペイン語のままです。

中国出身でインターナショナルスクール育ちだといっていた若者も
「広東語と北京語と英語と日本語の4ヶ国語が話せる」と言っていましたが、
日本語はカタコト、英語の発音は広東語訛りが激しくて
僕には何を言っているのか全然分かりませんでした。

青色発光ダイオードでノーベル賞をとった中村修二氏にしても
アメリカの大学で教授をしていますが、その発音は日本語のアクセントのまま。
まさにカタカナ英語でアメリカ生活をし、大学の授業もやっているわけです。

英語を話すという意味では、母国語の発音の影響で訛りがあっても
あまり大きな問題にはならないのが実情なのではないでしょうか。

どちらかというと、
ネイティブ並みの発音を身につけようとする外国語学習者のほうが
少数派のように見えます。

※ちなみに、日本人の英語は
 アクセントが弱過ぎて聞きにくいとは言われるそうです。
 カタカナ英語でもアクセントやイントネーションの強弱をつければ
 かなり言葉として通じやすくなるということなのかもしれません。


リスニングにしてもスピーキングにしても発音の影響が軽減できる理由は
 文脈から単語を推測できる
ということでしょう。

1つ1つの音として聞かなくても、単語として認識できてしまえば
細かな違いは問題ではなくなるわけです。

日本人のカタカナ発音でも、ネイティブが文脈から単語として察してくれれば
似た音の単語から探し出してくれて、意味は理解してもらえる。

日本人が英語を聞くときでも、「この単語は、こういう音なんだ」と
単語単位で認識できるようになってしまえば、
細かな母音や子音の違いは影響しなくなりますし、
文脈から単語を推測できれば、さらに細かい音の違いは問題でなくなります。

例えば、L と R の音の違いも、文脈から単語を推測できてしまえば
rice と lice で間違うことはあり得ないでしょう。

とすると、文章の中で言葉を学んでいくのが重要そうです。

文章の中で単語が聞こえてくれば
細かな発音の違いが認識できなくても聞けてしまうことがあるし、
文章の形で発音していれば、訛りの強い英語であっても
ネイティブには想像しながら聞きとってもらえる、と。

もちろん、発音や細かい音の違いに注意を向けたほうが
リスニングやスピーキングの技能が上がることもあると思います。
実際に僕は、それを実感しています。

が、外国語として英語を使っている人たちを広く見てみると、
意外なほど、発音の違いは問題となっていないようだ、という話です。

日本の学校の英語学習では、文法や読解が中心で
発音やリスニングなどの「音」の要素は軽視されている傾向があるようですし、
また、日常的に目にすることの多い英単語も、カタカナ語として
音を誤魔化したままインプットされているのが実情です。

それでも、カタカナ英語に触れる量の多さが
英語のリスニングやスピーキングを妨げているか?と考えると、
必ずしもそうとはいえない気がするんです。

むしろ現実的には、カタカナ語としてのインプットで
英単語を知っているメリットのほうが大きいと感じます。


このことは英語以外の外国語を勉強すると実感できます。

単語を覚えるハードルも高く感じますし、何より
始めて見る単語だらけなので、単語の区別さえ困難さを感じます。
単語のスペル(形)から、品詞を推測することだって難しいんです。

なんとなくでも馴染みがあるというのは
意外なほど効果が大きいもののようです。

1と2の差よりも、0と1の差のほうが大きい、といった感じでしょうか。

日本人にとっての英語は、ゼロからのスタートではない。
小学校の時点でも、です。

そして中学3年間の英語だけでも、かなりの基礎になっています。

とかく批判されることの多い日本の英語教育ですが、
僕は個人的に、それほど悪くないと感じています。

スペイン語圏の人が英語を勉強するのと
日本人が英語を勉強するのは大きく違います。

文字の認識だってそうですが、
何よりも文法の違いが大きい。

単語の並び順に意味を持たせる英語、スペイン語に対して、
日本語では助詞を使って単語同士の関係性を説明します。

詳しく説明(=修飾)するときの順番も、
英語、スペイン語は後ろからで、日本語は前から。

細かな語形変化も重要な文法要素ですが、それ以上に
単語の並べ方という言葉の基本構造が別物なんです。

日本人は、この並べ方のルールを覚える必要があります。
そのルールを覚える段階としては、日本の中学校の英語教育は
それなりに効果的なんじゃないかと思うんです。

たしかに、中学校、高校と6年間英語をやったとしても
文法と読解中心の日本式英語教育では、
英語を会話の手段として使えるようになるのは簡単ではないでしょう。

音として聞いたり、発したりするトレーニングをしていませんから。

ただし、それはトレーニング量の問題が大きいとも言えそうです。
聞いて単語を捉える練習をしたり、
口頭で英作文をする練習をしたりしていない。

英語の授業にかけられる時間が決まっているわけですから、
何を優先して勉強するかという話になります。

ルールを覚える段階を減らして、リスニングや発話のトレーニングをしたら
「英語を話せる」日本人の割合は増えるのかもしれません。

あとは、その
 「話せる」の基準をどうするか?
でしょう。

スムーズではないけれど、なんとか英語圏で日常生活をこなせる
…ぐらいの英語力を求めるのであれば、中学校の途中や高校ぐらいから
リスニングや発話など、英会話のトレーニングを入れても良さそうです。

一方、大人としての日本語力に近いレベルの英会話を求めるとしたら、
文法や表現方法として、しっかりした土台が必要になると考えられます。

その土台作りの期間として中学、高校の英語の授業を使うと捉えれば
教育方針としては1つの形なのではないかと感じます。

ですから、高校ぐらいまで英語の授業を受けていた日本人の多くは
実際のところ、かなりの英語の土台が養われている。

だいぶ忘れてしまっているとしても、その土台はゼロではありません。
取り戻すのにも、その気になれば、さほど時間はかからないはずです。

日本語と英語の文法の違いを考慮したうえで、
大人になってから英語を使う必要性が出る場面を想定したら、多くの日本人が
なかなか効果的な英語の土台作りをしていたのではないでしょうか。

「外国語を話せる」という度合いではなく、英語の土台として注目すると
日本人には相当な英語のポテンシャルがあるようです。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
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