2015年07月20日

みんなワガママになる

もう何年も前になりますが、
クレーム対応などを踏まえた
 「厄介な人とどのように関わるか?」
をテーマとしたセミナーに参加したことがあります。

セミナー内容はさておき、1つ印象に残っているのが
 どんどん日本人は自己愛性の傾向が高まっていて
 誰もがクレーマーになりかねない
という話です。

「自己愛性が高い」というのは「自分を愛している」の意味ではなく、
むしろ「自分は愛されて当然だ」という発想が強い感じです。

「自分は愛されて大切にされるのが当然のはずなのに
 なぜ、世の中は自分をこんな風に扱うのだ!?
 おかしいじゃないか!
 もっと私を大切にしなさい!」
のような気持ちを抱く傾向です。

英語でいうと「 narcissistic (ナルシシスティック)」。

「もっと大切にされて当然だ」と感じているわけですから
日頃から不満が大きいわけです。

期待が大きく、それゆえに
思い通りにならないことがあると不満が爆発しやすい。

程度の個人差こそあれ、そういった風潮が高まっているという話でした。


「最近の若者は甘やかされて育っている」なんていう意見も聞きますが、
世の中を見てみると、他にも様々な要因が見つかりそうです。

こうした自己愛性の高さの特徴は『期待が大きい』ともいえますから
言い換えると、「思い通りにならないことに我慢ができない」
とも捉えることができるはずです。

実際、最近の世の中は我慢する必要性が下がっている印象を受けます。


例えば、誰もが夏の暑さを嫌がりますが
2、30年前であれば、今ほど冷房が当たり前ではありませんでした。

確かに僕が小学校の頃は、夏でも最高気温が30度に到達せず、
今よりも随分と暑さも楽だったんだとは思います。

それでも夏の暑さは我慢の対象だったと記憶しています。

最高気温が30度を超えていた大学生の頃だって
冷房がついている教室なんて数えるほどしかありませんでした。

夏の授業は、うだるような暑さの中で行われ
テストの回答用紙なんて汗でシワシワになっているのが当然だったものです。

それが母校の校舎はすっかり改装されて、何年も前から
全ての教室が冷暖房完備になっているとのことです。

電車だってそうです。

以前は扇風機だけの車両もありました。
それ以前は、扇風機すらなかったとか。

今は冷房がついているのは当然で、むしろ
寒すぎる人のために「弱冷房車」なんてのもあるぐらいです。

暑いからと冷房をつければ、今度は「寒すぎる」と不満を言う人が出てきて
その不満に対処するために調整をするのが当然の風潮になっているわけです。

地下鉄のホームなんて以前は蒸し風呂のようだったものですが、
最近は地上駅のホームよりも涼しくなっています。
密閉されていない地下のホームに冷房をつけているんです。

随分と事情は変わってきています。


コンビニだって至る所にありますし、都市部のコンビニは24時間営業が普通です。
「朝7時から夜11時まで」が売りだったセブンイレブンだって、
その名前の由来の痕跡はスッカリ無くなってしまいました。

商品だって常に何でも揃っているのが当たり前で、
コンビニに置かれていない医薬品などは、むしろ
不便なこととして認識されているのではないでしょうか。

宅配便のサービスにしたって、
時間指定は守られて当然だと認識されていると感じます。
指定した2時間の範囲に届かなければ不満を感じ始める人が大半のようです。

子供の頃を思い返すと、郵便や小包がいつ届くかなんて分からず、
呼び鈴が鳴れば、そちらに合わせて出ていくのが自然だった記憶があります。

それが今では、「宅配便の時間に合わせて自宅にいるのが不便だから」と
逆に、最寄りのコンビニで荷物の受け取りをすることだってできるほどです。

いかに自分の思い通りに物事を進めたいか、というのが見て取れるようです。

特に、電話の進歩は著しい。

相手方の迷惑を考えて、自宅への電話のタイミングを計る…とか
友達にかけたいけど親が出たら嫌だから気をつける…とか
家族の誰かが長電話していると迷惑になる…とか
そんな話はもうすっかり思い出になってしまいました。

誰もが常に電話に出られるようになっています。
外出していても電話に出られる。

メールやSNSのメッセージともなれば、
電車の中だってやりとりできるのが当然という認識でしょう。

結果として、「読んだのに返事をしてくれない」なんて不満さえ出てきます。
「返事をくれるのが当然だ」という発想になってしまうようです。
我慢をしないんです。

システムに不具合が出て、1時間でも使えないような事態になれば
ちょっとした混乱のようになってしまうのかもしれません。

便利なことが増えてきて、思い通りにならない状態が少なくなる。
期待していることは、期待通りに進むのが当然になっている。

だから「我慢をする」という発想そのものが減ってきてしまっているのでしょう。


学校の話でいえば、スクリーンやモニターを使って授業をするのも当然で、
先生の板書が読めないなんて不満もなくなれば、
場合によっては資料をそのまま印刷してくれることだってあります。

板書が間に合わなければ、ノートに取らずにスマートフォンで写真を取ればいい。

いまどきの学会発表なんて、スライドを写真に収める人ばかりです。

プレゼンを必要とする教室や会議室はパソコンが繋がっていますし、
発表者が入れ替わりながら進むようなケースでは
それぞれの発表者が自分のパソコンを持ち込むのだって見慣れた景色です。

そしてそれが予定通りに使えるのが当然だと思っている。

そこで多少のトラブルが起きようものなら
それは不満の種になってしまいます。
問題として認識され、解決すべき課題として処理されていくことになる。

電車の話に戻るなら、精密なダイヤで運行するのが当然になっています。
数分の遅れは乗客の不満を招きます。

電車が遅れたり止まったりしたら、振り替え輸送の案内を出し、
料金を受け取らずに、他の鉄道会社と協力して対処に当たる。

そういう工夫の繰り返しで、
ますます物事は期待通りに進むようになっていっています。

そして誰もが、物事が期待通り・予定通りに進むことに慣れ、
それが当然だと感じるようになり、
自分の期待と違った状況を我慢することから離れていくようです。


利用者の満足度を高めるための工夫が
むしろ「これぐらい当然」という期待を高め、
どんどん我慢しない状態を助長して
さらに満足しにくく、不満を感じやすい人たちを増やしていく。

…そんな循環が起きているように見えます。

我慢の必要性が下がっている世の中だと感じます。
利便性の代償といったところでしょうか。

震災の後に感じた、世の中の「当たり前な」便利さに対する『ありがたみ』は
時間が経つにつれて薄れていっているのかもしれません。

自己愛性傾向の高まりは世の中の発展が促していて、
不満を避けようとする更なる快適さの追求が
不満を感じやすい心の状態を生み出していっている。

そんなサイクルが起きているようです。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
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