2015年09月10日

心理国家資格

なんでも心理系の国家資格「公認心理師」の法案が通ったそうです。

これまでは臨床心理士に権威がつけられているようでしたが
それでも民間資格に過ぎなかった。
だから国家資格を作りましょう、という話みたいです。

とはいえ、実際に求められる基準は臨床心理士と大きくは違わない印象も受けます。
むしろ受験の条件は現行の臨床心理士よりも少し甘くなっている気もしますし、
「医師から指示を受けるようになる」という点では制約が増えているようにも思えます。


現行の臨床心理士は、アメリカの Clinical Psychologist と比べると
待遇に大きな差があります。

収入面でも、労働条件でも、ゆるされている行為でも
アメリカの Clinical Psychologist よりも厳しいようです。

Clinical Psychologist は、州によっては薬も処方できます。
原則的には、精神科医が担当するようなケース(精神病理)を
心理学的にエビデンスのある方法でアプローチします。

日本でカウンセリングとしてイメージされがちな
人間関係の相談や日常的な心の苦しさについての悩み相談は
アメリカでは「カウンセリング心理学」の範囲に入ります。
臨床心理学ではありません。

Clinical Psychologist は「臨床心理学者」なんです。
だから精神科と担当するケースが重複します。

しかも「学者」です。
「士」ではありません。

日本の臨床心理士が修士課程の後に受験の基準を満たしたり、
おそらくいずれは公認心理師が学部卒業で受験基準に達したりするのと違って、
最低5年間の博士課程を修了しないと「Psychologist (心理学者)」と名乗れません。

心理臨床の研究をして、トレーニングの傍らでデータとをって、
論文を投稿して、博士論文の審査を受けて、それでようやくPsychologistです。

アメリカの博士課程は最低5年(延びることも多い)ですが、
日本の博士課程は3年です。
しかも3年で取らせられないと、教授の指導力の評判が落ちますから
日本の学術界は一般的に甘いんです。

日本で博士課程に進学する人数と比べても、アメリカは少ない。
当然、倍率も高くて、博士課程を修了するための勉強量も膨大だとか。
皆が5年間の全てを勉強にささげ、それでもドロップアウトする人が出てくる。

そしてClinical Psychology で博士号を取った後、数年間のインターンをして
ようやく州ごとの「Clinical Psychologist」の基準に達します。

メディカル・スクールに行って精神科医になるのと同じような大変さのようです。

医師に近い権限や待遇があっても当然かもしれません。
(とはいえ、僕が大学で教わっていた先生は Clinical Psychologist でしたが、
 学会に行くと精神科医からは低く見られるのが当然だと言っていました。)

日本の臨床心理士や、今後作られる公認心理師についても
アメリカの Clinical Psychologist とは別物のようです。

むしろカウンセリング心理学で修士を取得した人が州で認定される
「 Marriage-and-Family Therapist 」と比べたほうが近いような気もします。


何より、社会における心理職のニーズがアメリカのほうが高い。

有罪判決を受けた人が、刑務所に入る代わりに
カウンセリングやセラピーを受けるのを選べることが多いといいます。

ドラマでも見ますが、警察官が銃で人を打った場合には
セラピーを義務付けられていたり、
心理相談を受けることが特別なことではないのでしょう。

風邪をひいたら病院に行く、
揉めごとがあったら弁護士に相談する、
内面的な苦しさがあったらカウンセリングに行く。
…そういう風に、数ある専門家の1つとして
当たり前の選択肢に含まれているのかもしれません。

そもそも日本では、困ったときの相談窓口が一般的ではありません。
もしかしたら占い師やクラブのホステスが代わりを担っているのでしょうか。

逆に医者の信頼度は過剰に高い。
テレビに出てきて医者が何かをいえば、たちまち鵜呑みにされます。

西洋医学の医者が科学の視点を失っているのには驚きを隠せませんが、
一度「医者」という肩書を持ってしまえば
社会的に通用する度合いはとても高いように見受けられます。

この状況のままで、公認心理師という国家資格を作ったとして
いったいどういう効果が生まれるのでしょう?
何を期待しての国家資格化だったのでしょう?


民間に氾濫するカウンセラーやセラピストを取り締まって
全てを国家資格に一任するのは厳しい気がします。

医療行為と、そうでないものの基準と比べたら、
心理臨床行為とそうでないものの基準は曖昧です。

困ったときの相談に国家資格が必要となったら、
友達同士で愚痴を聞くこともできませんし、
上司が部下と面談をするのも、福祉相談員が利用者の話を聞くのも
占い師が悩みについて占うのも、全て禁止されてしまいます。

医者並みの立場を求めるのだとしたら、資格そのものの難しさも
医師国家試験ぐらいまで基準を上げるのは最低限必要なところでしょう。

問題は
 日本にその教育をできる人がいるのか?
というところかもしれませんが。

仮に医者並みの難しい資格になったとしても、
クライアントは精神科医や心療内科医との取り合いになりかねません。
そうなれば製薬会社の後ろ盾が期待できない心理系資格は不利です。

じゃあ、民間のカウンセラーへ相談に行く人たちを
国家資格保有者へ引っ張ってくるのか?

それには国家資格化よりもさらに大変な努力が必要でしょう。
どうやって世間一般の人を啓蒙するかという話になります。

現状、占い師やクラブのホステスに悩み相談をしている人たちを
カウンセリングやコーチングのクライアントに引っ張ってくるのだって大変です。

困ったときに目が向く先は、かなりの場合、本人の中で決まっています。
それがズレるのは、よほどのことがあったときです。

こうした呼び込みを「啓蒙活動」と捉えるのか「マーケティング」と捉えるのかは
スタンスの違いなのでしょうが、いずれにしても
人が集まりやすいのは呼び込みが上手いところになるようです。


公認心理師の国家資格化は、どうも
体のケアの分野と同じような状況で留まる気がしてなりません。

あん摩マッサージ指圧師や、はり師、きゅう師、柔道整復師、理学療法士など
体のケアに関する国家資格は様々です。

その一方で、世の中には色々な整体、マッサージの仕事があります。

いうまでもなく、効果は資格とはあまり関係がないものでしょう。
その人の腕によるところが非常に大きい。

腰が痛い、肩が痛いとなったとき、どこへ行くのかも人それぞれです。
医者に全幅の信頼を置く人は整形外科に行きます。

マーケティングやマスメディアの影響を受けやすい人もいます。
色々と受けてみて効果のあるところを選ぶ人もいれば、
家や職場の近くにあるところに通う人もいます。

民間のマッサージのビジネスを快く思わない国家資格保有者もいますし、
整形外科に行っても治らないという腕のいい民間資格者もいます。

臨床心理士の延長のような公認心理師という国家資格を作っても
そんな状況と似たことになるのではないか、と。

とくに公認心理師は今のところ「医師の指示」を必要とするようですから、
整形外科に所属する理学療法士のような立場が近そうです。

いったい何を狙っての国家資格化だったのだろうかと気になるばかりです。

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
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