2016年02月03日

エッセンスと不純物

成分を抽出するというのは厄介なものです。

バニラエッセンスなどで使われる「エッセンス」という言葉がありますが
これは「 essence 」なので「本質」といった意味です。

じゃあ、本質とは何か?


バニラの香りの本質は「バニリン」という化合物です。
バニリンを化学合成すればバニラの元の香り100%の成分になります。

市販されている安いバニラエッセンスは合成物か発酵生産物らしく
純度の高いバニリン(もしくは他の成分も追加したもの)と想像されます。

一方、お酒にバニラビーンズを漬け込んだバニラ・エクストラクトというのもあって
こちらはアルコールを溶剤としてバニリンを溶かしこんだものと考えられます。

しかしながらバニラ・エクストラクトには当然、バニリン以外の成分も含まれます。
バニラビーンズが含んでいる脂溶性成分(アルコールに溶けるもの)は
一通り溶け込むことになります。

香り成分の多くは脂溶性なので、バニラ・エクストラクトには
バニリン以外にも多くの『不純物』として様々な香り成分が入っている。

本来のバニラビーンズ全体の香りは
バニリンと、それ以外の微妙な匂いが組み合わさっているわけですから、
不純物も一緒に抽出しているバニラ・エクストラクトは
元のバニラビーンズの香りに近いことになります。

バニラの香りの本質とされる成分で作られたバニラエッセンスより、
不純物と一緒に抽出されたバニラ・エクストラクトのほうが
よりバニラビーンズに忠実だということです。


人間の感覚器官は複雑さを好むのか、
味覚にせよ嗅覚にせよ、あるいは聴覚にせよ
成分が限定された純度の高すぎる刺激は、キツく感じられてしまうようです。

自然界が様々な成分の混ざりあいで作られていて
それに馴染んでいるからこそ、純度の高すぎるものは特殊なのかもしれません。

昆布の旨味の主成分だからといってグルタミン酸ナトリウムをお湯に溶いたものと
昆布からとった出汁とでは味の違いが感じられるでしょう。

食塩にしても塩化ナトリウムを指し示す言葉です。
化学的に見ても、生体内の働きとして見ても
ナトリウムイオンが主役なんです。

100%に近い塩化ナトリウムこそ、食塩の味なんです。
塩味のエッセンスは言うまでもなく塩化ナトリウムにある。

でも人間が美味しいと感じるのは
不純物としてミネラルを多く含んだ岩塩などのほうです。

純度の高いエッセンスは本質的かもしれませんが、
影響するものとしては、それが全てではないということです。


これは学習のプロセスについても言えます。

エッセンスを抽出したものだけでは抜け落ちてしまうものがあります。

学習を効率化するためには本質だけを抽出するのは役立ちます。
しかし、主成分を本質と呼んでしまっていいのでしょうか?

バニラエッセンスは確かにバニラの香りに近い。
それはバニリンという成分が主成分だからです。

ところがバラの香りは複雑です。
量的に見れば主成分と呼べるものはあっても、
それだけではバラの香りとは感じられません。

少しだけ混ざり込んだ微妙な成分が
バラの種類ごとの香りの違いを生んでいます。

果物の香りもそうです。
成分を調べれば、香料を組み合わせて似た香りを作れるかもしれません。

しかし○○フレーバーは、果物そのものの香りとは程遠い。
「○○らしさ」を作り出しているのは主成分だけではないんです。

エッセンスを抽出したものを扱うだけで
どれだけの物が身につくのか?

技術のエッセンスを中心に簡略化することで学習を効率化するのは
まさに香りの主要成分をエッセンスとして使うのに似ていると感じます。

主要成分1つだけで簡単に身につく技術もあるかもしれませんし、
いくつかの香料を混ぜ合わせて似た匂いを再現するように
ポイントとなるテクニックだけを組み合わせる方法もあるかもしれません。

一方、元の素材そのものを全部抽出するように
本質ではない些細な部分まで一緒に学ぼうとする方法もあります。

確かに時間がかかるし、何がポイントかを掴むのも大変でしょう。
身につくのに時間が必要だと感じられがちですし、
「こんなにやらなきゃいけないのか?」という負担もあります。

ともすると必要以外のことまでやっている気分にさえなります。

しかし、その一見すると余分なような要素こそが
後々、技術の深みを示してくれるようになるんです。

語学でいうと、名演説を丸暗記するような方法は
バニラビーンズをお酒に漬け込むようなやり方と言えそうです。

本来の座禅も、エッセンスを知るための方法ではなく
徹底的に取り組むことで自然と抽出されてくる
細かな成分を取り込むためのものだと言います。


ただし、「エッセンスを学ぶのがダメで
 徹底的に微妙なところまで抽出するのが良い」
というわけではありません。

天然に近いほうが無条件に素晴らしいわけではないでしょう。

安価に効率的に近いものを作ったほうが望ましい場合もあります。

天然のバニラビーンズを使っていたら気軽に食べられないアイスも
バニラエッセンスのおかげで毎日食べられるのかもしれません。

何を目指すかの問題です。

短期間で「それっぽい」ものを目指すならエッセンスは効果的です。

しかしエッセンスは「無駄」を削ぎ落としています。

一方、その「無駄」にこそ深みや味わいがあるかもしれない。

自分が身につけたいものを想定しながら
学習しているものがエッセンスなのか、全抽出なのか
区別してみるのも良いかもしれません。

cozyharada at 23:56│Comments(0)TrackBack(0)clip!NLP | 心理学

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プロフィール
原田 幸治
理系人材育成コンサルタント。
技術力には定評のあるバイオ系化学・製薬企業にて研究職として基礎研究から開発研究までを担当。理系特有とも言える人間関係の問題に直面して心理とコミュニケーションを学び始め、それを伝えていくことを決意して独立。
コールドリーディング®、NLP(TM)、心理療法、脳科学、サブリミナルテクニック、催眠、コーチング、コミュニケーションへ円環的にアプローチ。
根底にある信念は「追求」。

・米国NLP(TM)協会認定
 NLP(TM)トレーナー。

・コールドリーディングマスター
 講座石井道場 黒帯。
(コールドリーディング®は
有限会社オーピーアソシエイツ
http://www.sublimination.net/
の登録商標となっています)
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